1章
「お前らーーーー!!!」
空の上から、やたらでかい声が響いた。
親父がぶっ壊した神殿の天井部分からだ。
「こっちだ、早く!!」
「ラルド!?」
顔を出していたのは、見慣れた黄緑の髪の海賊姿。ラルドだ。
自分の船を上空に飛ばして、ここまで来てくれたらしい。
幽霊船が、神殿の真上にふわりと浮かんでいる。
「なんじゃ、援軍か?」
「あいつは…」
ヴェルが首を傾げ、ゲンは記憶を読み取って状況を先に把握したのか、顔をしかめた。
「おい!あの船を撃ち落とせ!奴らが逃げる!!」
「くそ、バレたか!だがどっちにしろ、やることは変わらねえ!!」
ラルドが操舵輪を握りしめ、風魔法の詠唱に入る。
直後、俺たちのいる辺りに、巨大な竜巻が発生した。
「わーーーーー!!!」
スタラ、ステラと、体の軽い順に、すぽんすぽんと空中へ吸い上げられていく。
どうやらそのまま船の甲板に載せるつもりらしい。
俺は近くの柱にしがみつき、足が浮かないよう歯を食いしばる。
「逃がすかよ…!?」
ゲンが舞い上がる皆を撃ち落とそうと、銃を構える。
しかし突然、銃口が別の方向へぐいっと向きを変え、そのまま暴発した。
パァン!!
「いった!?ちょっと何してるの!ドレスが汚れちゃったじゃない!」
弾丸はロッソのすぐそばで爆ぜ、爆発と炎が巻き上がる。
ロッソ本人はすんでのところで避けたようだが、赤いドレスの裾が焦げている。
ゲンは、自分でも予想外だったのか、目を見開いて狼狽えた。
「ち、違う!俺じゃない…!くっ…」
勝手に動いた左手を、右手で押さえ込む。
そのまま、ゲンの身体がふらりと揺れた。
「なんだ急に…?」
頭を抱えてうずくまる。
「ダルク…」
「?」
「早く、ここから逃げて…!」
さっきまでの冷たい声と違う。
聞き覚えのある俺のよく知っている声だった。
「!?ダンなのか!?」
ゲンがダンのふりをしているのかもしれない。
…いや、違う。今のは間違いなく、ダンだ。
「殴られた拍子で、なんか目が覚めた…ダルク…よく聞いてくれ…。今ので分かった…俺の中にいる“何か”が、悪いことしてる…」
「て、てめえ!なぜ出てこれる!?俺の邪魔するんじゃね…!」
ゲンの低い声が割り込む。が、すぐまた、ダンが押し返すように声を絞り出した。
「お前こそ、俺の身体で好き勝手すんな…!くう…この通り、すぐに出てきてしまう…。だから…俺が俺のままでいるうちに聞いてくれ…」
「なんだ?」
「こいつ…やばいこと考えてる…!世界を作り変えるとか…千年前の復讐を晴らすとか…!そうなる前に、早く…俺ごと、奴を潰してくれ…!」
「そんな…お前まで道連れなんてできねえよ!?どうにか分離させる方法は…」
「憑りつくだけなら、ゴーストの得意分野…だろ?」
ダンは苦しそうにしながらも、にやりと笑った。
ああ、そうか。
俺はようやく、ひとつの可能性に気づいた。
「!なるほど、わかった。取り除く方法はあるはずだな!なら探して」
「させるわけなかろうが、小童が!」
ヴェルが背後から飛びかかってくる。
「うるせえ狐野郎!お前は引っ込んでろ!」
「なんじゃと…!?うわ、わわわ!?」
ダンの左手から、今度は氷魔法が放たれた。
氷柱がヴェルの足元に突き刺さり、ツルツルに凍った床でヴェルが見事にすっ転ぶ。
ヴェルの追撃が止まり、その一瞬の隙が生まれる。
「ここは食い止めるから…早く!!」
「ダン、俺は絶対に助けるから!だから、消えないでいろよ!!」
俺は掴んでいた柱から手を放し、竜巻の中心へと身を投げ出した。
激しい風に体を持ち上げられ、視界がぐるぐると回る。
次の瞬間、俺の足はラルドの船の甲板を踏みしめていた。
「主に歯向かう精神力……残ってるなんて、すごいなあ」
下から見上げながら、アランが感心したように拍手する。
「だけど君はやがて“主”となる。つまり、一つになるんだ。その時までせいぜい、あがいてみるといいさ」
精霊でさえ敵わない相手。勝負は見えている。
それでも、ダンはあがいている。
「君の強さに免じて、あの船には手を出さないでおくよ。ここから出られればいいけどね」
アランはそう言って、口元だけで笑った。
「全員乗ったな?話は後で聞く。はやくここから出るぞ!」
ラルドが操舵輪を握り直す。
「なにあれ!?」
スタラが空を指さした。
マジカルタウンの上空に、巨大なホログラムのような光が現れていた。
それはドーム状に広がり、街全体を包み込もうとしている。
「もしかして…ホログラムを起動したんだわ。街を“閉鎖”しようとしてる!」
「このままだと閉じ込められるぞ!」
「しっかり掴まってろ!全速前進だ!!」
ラルドが叫ぶと同時に、船の帆を包む霊的な風が一気に吹き込み、船体が前へと加速する。
光のドームが、徐々に閉じていく。
出口はもう、ほんのわずかな隙間しか残っていない。
「間に合え…!」
俺たちの乗った船は、その狭い隙間へ向かって突っ込んだ。
バチィッ!!
耳をつんざくような音と共に、船体の片側が光の壁に触れた。
眩しい火花が散り、甲板が大きく揺れる。
「うわあっ!!」
俺たちは思わず転び、積んであった木箱がごろんごろんと転がる。
「船体、左舷に損傷!帆も一部やられてるよ!」
ジールが悲鳴を上げる。
「段々と…浮力が落ちていくわね…!」
マジカルが、風の流れを感じながら顔をしかめた。
「ぐっ…! まあ、墜ちないだけマシってことにしとこうぜ!」
ラルドが舵を必死に押さえ込む。
振り返ると、ホログラムのドームは完全に閉じていた。
マジカルタウンは、巨大な光の殻の中に閉じ込められてしまっている。
「……」
胸の奥が、ぎゅっと掴まれたように痛む。
「この状態じゃ、遠くまでは飛べないね…んーしめった綿あめって感じ」
「ラルド、近場で安全そうな町はあるか?」
「そうだな…ここからなら、フォレストタウンが一番近え。万年雪の森に囲まれてて、隠れるにはちょうどいい」
「フォレストタウン…」
俺は、光の檻を見つめたまま、小さく呟いた。
「ダン…待ってろよ。絶対に助ける。お前ごとなんて、潰させねえからな」
そう誓った言葉は、傷ついた船を包む風の音にかき消されて、空へと溶けていった。
俺たちを乗せた幽霊船は、損傷した船体を引きずりながらも、フォレストタウンを目指して、ゆっくりと進んでいった。
空の上から、やたらでかい声が響いた。
親父がぶっ壊した神殿の天井部分からだ。
「こっちだ、早く!!」
「ラルド!?」
顔を出していたのは、見慣れた黄緑の髪の海賊姿。ラルドだ。
自分の船を上空に飛ばして、ここまで来てくれたらしい。
幽霊船が、神殿の真上にふわりと浮かんでいる。
「なんじゃ、援軍か?」
「あいつは…」
ヴェルが首を傾げ、ゲンは記憶を読み取って状況を先に把握したのか、顔をしかめた。
「おい!あの船を撃ち落とせ!奴らが逃げる!!」
「くそ、バレたか!だがどっちにしろ、やることは変わらねえ!!」
ラルドが操舵輪を握りしめ、風魔法の詠唱に入る。
直後、俺たちのいる辺りに、巨大な竜巻が発生した。
「わーーーーー!!!」
スタラ、ステラと、体の軽い順に、すぽんすぽんと空中へ吸い上げられていく。
どうやらそのまま船の甲板に載せるつもりらしい。
俺は近くの柱にしがみつき、足が浮かないよう歯を食いしばる。
「逃がすかよ…!?」
ゲンが舞い上がる皆を撃ち落とそうと、銃を構える。
しかし突然、銃口が別の方向へぐいっと向きを変え、そのまま暴発した。
パァン!!
「いった!?ちょっと何してるの!ドレスが汚れちゃったじゃない!」
弾丸はロッソのすぐそばで爆ぜ、爆発と炎が巻き上がる。
ロッソ本人はすんでのところで避けたようだが、赤いドレスの裾が焦げている。
ゲンは、自分でも予想外だったのか、目を見開いて狼狽えた。
「ち、違う!俺じゃない…!くっ…」
勝手に動いた左手を、右手で押さえ込む。
そのまま、ゲンの身体がふらりと揺れた。
「なんだ急に…?」
頭を抱えてうずくまる。
「ダルク…」
「?」
「早く、ここから逃げて…!」
さっきまでの冷たい声と違う。
聞き覚えのある俺のよく知っている声だった。
「!?ダンなのか!?」
ゲンがダンのふりをしているのかもしれない。
…いや、違う。今のは間違いなく、ダンだ。
「殴られた拍子で、なんか目が覚めた…ダルク…よく聞いてくれ…。今ので分かった…俺の中にいる“何か”が、悪いことしてる…」
「て、てめえ!なぜ出てこれる!?俺の邪魔するんじゃね…!」
ゲンの低い声が割り込む。が、すぐまた、ダンが押し返すように声を絞り出した。
「お前こそ、俺の身体で好き勝手すんな…!くう…この通り、すぐに出てきてしまう…。だから…俺が俺のままでいるうちに聞いてくれ…」
「なんだ?」
「こいつ…やばいこと考えてる…!世界を作り変えるとか…千年前の復讐を晴らすとか…!そうなる前に、早く…俺ごと、奴を潰してくれ…!」
「そんな…お前まで道連れなんてできねえよ!?どうにか分離させる方法は…」
「憑りつくだけなら、ゴーストの得意分野…だろ?」
ダンは苦しそうにしながらも、にやりと笑った。
ああ、そうか。
俺はようやく、ひとつの可能性に気づいた。
「!なるほど、わかった。取り除く方法はあるはずだな!なら探して」
「させるわけなかろうが、小童が!」
ヴェルが背後から飛びかかってくる。
「うるせえ狐野郎!お前は引っ込んでろ!」
「なんじゃと…!?うわ、わわわ!?」
ダンの左手から、今度は氷魔法が放たれた。
氷柱がヴェルの足元に突き刺さり、ツルツルに凍った床でヴェルが見事にすっ転ぶ。
ヴェルの追撃が止まり、その一瞬の隙が生まれる。
「ここは食い止めるから…早く!!」
「ダン、俺は絶対に助けるから!だから、消えないでいろよ!!」
俺は掴んでいた柱から手を放し、竜巻の中心へと身を投げ出した。
激しい風に体を持ち上げられ、視界がぐるぐると回る。
次の瞬間、俺の足はラルドの船の甲板を踏みしめていた。
「主に歯向かう精神力……残ってるなんて、すごいなあ」
下から見上げながら、アランが感心したように拍手する。
「だけど君はやがて“主”となる。つまり、一つになるんだ。その時までせいぜい、あがいてみるといいさ」
精霊でさえ敵わない相手。勝負は見えている。
それでも、ダンはあがいている。
「君の強さに免じて、あの船には手を出さないでおくよ。ここから出られればいいけどね」
アランはそう言って、口元だけで笑った。
「全員乗ったな?話は後で聞く。はやくここから出るぞ!」
ラルドが操舵輪を握り直す。
「なにあれ!?」
スタラが空を指さした。
マジカルタウンの上空に、巨大なホログラムのような光が現れていた。
それはドーム状に広がり、街全体を包み込もうとしている。
「もしかして…ホログラムを起動したんだわ。街を“閉鎖”しようとしてる!」
「このままだと閉じ込められるぞ!」
「しっかり掴まってろ!全速前進だ!!」
ラルドが叫ぶと同時に、船の帆を包む霊的な風が一気に吹き込み、船体が前へと加速する。
光のドームが、徐々に閉じていく。
出口はもう、ほんのわずかな隙間しか残っていない。
「間に合え…!」
俺たちの乗った船は、その狭い隙間へ向かって突っ込んだ。
バチィッ!!
耳をつんざくような音と共に、船体の片側が光の壁に触れた。
眩しい火花が散り、甲板が大きく揺れる。
「うわあっ!!」
俺たちは思わず転び、積んであった木箱がごろんごろんと転がる。
「船体、左舷に損傷!帆も一部やられてるよ!」
ジールが悲鳴を上げる。
「段々と…浮力が落ちていくわね…!」
マジカルが、風の流れを感じながら顔をしかめた。
「ぐっ…! まあ、墜ちないだけマシってことにしとこうぜ!」
ラルドが舵を必死に押さえ込む。
振り返ると、ホログラムのドームは完全に閉じていた。
マジカルタウンは、巨大な光の殻の中に閉じ込められてしまっている。
「……」
胸の奥が、ぎゅっと掴まれたように痛む。
「この状態じゃ、遠くまでは飛べないね…んーしめった綿あめって感じ」
「ラルド、近場で安全そうな町はあるか?」
「そうだな…ここからなら、フォレストタウンが一番近え。万年雪の森に囲まれてて、隠れるにはちょうどいい」
「フォレストタウン…」
俺は、光の檻を見つめたまま、小さく呟いた。
「ダン…待ってろよ。絶対に助ける。お前ごとなんて、潰させねえからな」
そう誓った言葉は、傷ついた船を包む風の音にかき消されて、空へと溶けていった。
俺たちを乗せた幽霊船は、損傷した船体を引きずりながらも、フォレストタウンを目指して、ゆっくりと進んでいった。
