1章
「クロノスがいないからといって、まだこちらの手が尽きたわけじゃない!!」
マオ先生が叫ぶ。
「ステラ、クロノスを頼む!」
「了解!」
ステラがすかさず、コウモリ姿に変えられたクロノスを抱え上げる。
子供とはいえ猫の魔物。足の速さは伊達じゃない。
「ああ! ぼくちんのおもちゃ!」
「クロノスは玩具じゃない!」
悔しそうに叫ぶジャロに向かって、ステラはくるっと振り向き中指を立てた。
その後ろでは、マオ先生が魔法を使おうと詠唱に入る。
だが…
「先生、魔導書が…!」
先生の手元を見て、俺は思わず声を上げた。
さっきまで開いていた分厚い魔導書が、いつの間にか色鮮やかなセブンフルーツに変わっていたのだ。
「ぷぷぷ、フルーツでまほうはわらえる〜!」
「いつの間に…!!」
先生は、フルーツに変えられてしまった“魔導書”を、悔しそうに握りしめる。
力を込めすぎて、潰れてしまいそうなほどに。
「本当はマジカルちゃんも仲間に加えたいところだけど、あいにく時間が無いからごめんね?」
アランが肩をすくめる。
「ぼくちんたちは もう かんぜんふっかつ! ゆび くわえて みてるんだじ…」
ジャロが言いかけたそのとき、頭上から水の魔法がどっと降り注いだ。
びしゃぁっ―。
「ぴぎゃっ!?」
ジャロの体を水流が包み、そのままガチン、と音を立てて固まる。
まるで石像みたいに、カチコチになってしまった。
「なんだ!? 何が起こっ…グエッ!?」
ゲンの背後で影が揺れる。気づいたゲンが振り返ろうとした瞬間、
その顔面に、凄まじい勢いの拳が叩き込まれた。
ゲンの体は吹き飛び、後方の壁に激突する。
同時に、別の方向からアランに向けて銃声が響いた。
「おっとっと!?」
弾丸は致命傷こそ避けたものの、アランの手に掠ったらしく、彼はバランスを崩す。
その拍子に、宙に浮かんでいた精霊石たちが四方八方に散らばった。
「あれ? これでは引き寄せが出来ない!」
アランが必死に手を伸ばすが、その前に石はふわりと何かに包まれ、空中で軌道を変える。
「ブル、そっちに飛んでった魔法石を拾ってもらえるかな…え?」
視線の先、ブルもまたジャロ同様、氷のように固まっていた。
慌てて周囲を見渡したアランは、そのときようやく気づく。
さっきゲンを殴り飛ばした張本人が、ものすごい速さで精霊石を回収していることに。
魔法で反撃しようとしても、負傷した手ではうまく魔力を制御できない。
「主様!」
「い、いでェ…!!」
ヴェルが慌ててゲンのもとへ駆け寄る。
ゲンは頭を打ったらしく、壁際でうずくまりながら痛みに呻いていた。
「だ、誰だ…!?せっかくのところを…!」
「おー、生きてる。ちゃんと手加減してるな……」
『目当てのブツは回収できたで』
「ねえ!ちょっと!いくらなんでも顔はダメだって!」
『実際頑丈そうやし、大丈夫やろ』
何やら言い争う声が聞こえる。どこかで聞いたことのある声。
だけど、ひとりは明らかに口調がおかしい。
「あー! ローザ!」
スタラがいち早く気づいて叫んだ。
視線の先には、巨大な飴の棒を肩に担いだローザが立っていた。
その隣にはボロボロになったノアさんと、ジールの姿も見える。
「みんな集まってたんだね」
「どこいってたのー! スタラたち、さがしてたよ!」
「えへへ、ごめんね。ローザ達の味方を探してたんだ」
ローザはてへぺろ、と舌を出して笑う。
手にしている飴の棒がかなりでかい。これが武器だろうか?
「へえ、ローザはダルクと知り合いだったんだ」
ジールが感心したように呟く。
「やはりジールだったか」
「兄さん、無事だったみたいね」
「ノワールも一緒か…え」
ノアさんを見て先生と俺は息をのんだ。
右半身はひどいやけど。
右腕は…一部が、無い。布を巻いて隠してはいるが、素人目にも重傷だと分かる。
「お前、どうした? 大怪我じゃないか!」
「ぎ…」
『ちと遅かったか…すまんなぁ』
マオ先生の呼びかけよりも先に、ノアさんの口から、妙に柔らかい口調の声が漏れる。
ステラに抱えられているコウモリ姿の親父を見て、哀れむように呟いていた。
やっぱりおかしい。俺の知っているノアさんは、あんな喋り方じゃない。
「とにかく、危ないところだった。礼を言う」
マオ先生が深く頭を下げる。
『先生と言ったか?今の状況、簡単に説明してくれへんか?』
「いや、ノワール…それよりもお前、さっきから様子がおかしいが…」
「説明は後々!」
ローザが、強引に話を進めるように手を叩いた。
先生はひとつ息をついてから、簡単に今の状況を説明する。
――マジカル以外の精霊たちは、アランの手によって精霊石に変えられてしまったこと。
―今の“大元”は、ダンに取り憑いている“ゲン”であること。
―クロノスは変化の呪いをかけられて戦闘不能、マオ自身も武器を封じられていること。
―そして、この光の神殿とマジカルタウンを拠点に、最後の仕上げである世界を塗り替える準備が整いつつあるということを。
話を聞きながら、胸の奥がじわじわと冷えていくのを、俺はどうすることもできなかった。
マオ先生が叫ぶ。
「ステラ、クロノスを頼む!」
「了解!」
ステラがすかさず、コウモリ姿に変えられたクロノスを抱え上げる。
子供とはいえ猫の魔物。足の速さは伊達じゃない。
「ああ! ぼくちんのおもちゃ!」
「クロノスは玩具じゃない!」
悔しそうに叫ぶジャロに向かって、ステラはくるっと振り向き中指を立てた。
その後ろでは、マオ先生が魔法を使おうと詠唱に入る。
だが…
「先生、魔導書が…!」
先生の手元を見て、俺は思わず声を上げた。
さっきまで開いていた分厚い魔導書が、いつの間にか色鮮やかなセブンフルーツに変わっていたのだ。
「ぷぷぷ、フルーツでまほうはわらえる〜!」
「いつの間に…!!」
先生は、フルーツに変えられてしまった“魔導書”を、悔しそうに握りしめる。
力を込めすぎて、潰れてしまいそうなほどに。
「本当はマジカルちゃんも仲間に加えたいところだけど、あいにく時間が無いからごめんね?」
アランが肩をすくめる。
「ぼくちんたちは もう かんぜんふっかつ! ゆび くわえて みてるんだじ…」
ジャロが言いかけたそのとき、頭上から水の魔法がどっと降り注いだ。
びしゃぁっ―。
「ぴぎゃっ!?」
ジャロの体を水流が包み、そのままガチン、と音を立てて固まる。
まるで石像みたいに、カチコチになってしまった。
「なんだ!? 何が起こっ…グエッ!?」
ゲンの背後で影が揺れる。気づいたゲンが振り返ろうとした瞬間、
その顔面に、凄まじい勢いの拳が叩き込まれた。
ゲンの体は吹き飛び、後方の壁に激突する。
同時に、別の方向からアランに向けて銃声が響いた。
「おっとっと!?」
弾丸は致命傷こそ避けたものの、アランの手に掠ったらしく、彼はバランスを崩す。
その拍子に、宙に浮かんでいた精霊石たちが四方八方に散らばった。
「あれ? これでは引き寄せが出来ない!」
アランが必死に手を伸ばすが、その前に石はふわりと何かに包まれ、空中で軌道を変える。
「ブル、そっちに飛んでった魔法石を拾ってもらえるかな…え?」
視線の先、ブルもまたジャロ同様、氷のように固まっていた。
慌てて周囲を見渡したアランは、そのときようやく気づく。
さっきゲンを殴り飛ばした張本人が、ものすごい速さで精霊石を回収していることに。
魔法で反撃しようとしても、負傷した手ではうまく魔力を制御できない。
「主様!」
「い、いでェ…!!」
ヴェルが慌ててゲンのもとへ駆け寄る。
ゲンは頭を打ったらしく、壁際でうずくまりながら痛みに呻いていた。
「だ、誰だ…!?せっかくのところを…!」
「おー、生きてる。ちゃんと手加減してるな……」
『目当てのブツは回収できたで』
「ねえ!ちょっと!いくらなんでも顔はダメだって!」
『実際頑丈そうやし、大丈夫やろ』
何やら言い争う声が聞こえる。どこかで聞いたことのある声。
だけど、ひとりは明らかに口調がおかしい。
「あー! ローザ!」
スタラがいち早く気づいて叫んだ。
視線の先には、巨大な飴の棒を肩に担いだローザが立っていた。
その隣にはボロボロになったノアさんと、ジールの姿も見える。
「みんな集まってたんだね」
「どこいってたのー! スタラたち、さがしてたよ!」
「えへへ、ごめんね。ローザ達の味方を探してたんだ」
ローザはてへぺろ、と舌を出して笑う。
手にしている飴の棒がかなりでかい。これが武器だろうか?
「へえ、ローザはダルクと知り合いだったんだ」
ジールが感心したように呟く。
「やはりジールだったか」
「兄さん、無事だったみたいね」
「ノワールも一緒か…え」
ノアさんを見て先生と俺は息をのんだ。
右半身はひどいやけど。
右腕は…一部が、無い。布を巻いて隠してはいるが、素人目にも重傷だと分かる。
「お前、どうした? 大怪我じゃないか!」
「ぎ…」
『ちと遅かったか…すまんなぁ』
マオ先生の呼びかけよりも先に、ノアさんの口から、妙に柔らかい口調の声が漏れる。
ステラに抱えられているコウモリ姿の親父を見て、哀れむように呟いていた。
やっぱりおかしい。俺の知っているノアさんは、あんな喋り方じゃない。
「とにかく、危ないところだった。礼を言う」
マオ先生が深く頭を下げる。
『先生と言ったか?今の状況、簡単に説明してくれへんか?』
「いや、ノワール…それよりもお前、さっきから様子がおかしいが…」
「説明は後々!」
ローザが、強引に話を進めるように手を叩いた。
先生はひとつ息をついてから、簡単に今の状況を説明する。
――マジカル以外の精霊たちは、アランの手によって精霊石に変えられてしまったこと。
―今の“大元”は、ダンに取り憑いている“ゲン”であること。
―クロノスは変化の呪いをかけられて戦闘不能、マオ自身も武器を封じられていること。
―そして、この光の神殿とマジカルタウンを拠点に、最後の仕上げである世界を塗り替える準備が整いつつあるということを。
話を聞きながら、胸の奥がじわじわと冷えていくのを、俺はどうすることもできなかった。
