1章
「ついに…出られた…! 自由だ!!」
箱から飛び出した“それ”は、全身を黒いローブで覆っていて、顔どころか体つきさえよく分からなかった。
背丈や声の低さからして男だろう、というくらいだ。
こいつがカンコンソーサイを統べる“主”…?
「主様。お待ちしておりました」
アランを先頭に、カンコンソーサイの面々が一斉に跪く。
「千年…千年の歳月を待った甲斐があった…。復活したからには、我らを陥れたすべてのものに報いてやろう…!」
「まずいことになったわね……」
「千年だと…? その歴史は、もしや…」
マオ先生が何かを察したように眉をひそめた、
その直後――
ガッシャアアアアアン!!!
神殿の天井にあったステンドグラスが、派手な音を立てて砕け散った。
「地上へようこそ! だがそのまま帰れると思うなよ!!」
割れた天井から、刀を構えた男が勢いよく飛び込んでくる。
「親父!?」
「!!!」
降ってきたのは、俺の親父――クロノスだった。
親父は落下の勢いそのままに、“主”めがけて一気に斬りかかる。
鈍い音と共に、黒いローブの胴体部分が大きく切り裂かれた。
「主様!?」
アランをはじめ、周囲が一斉にうろたえる。その隙に、親父が叫んだ。
「ダン君! 奴の頭部を撃ち抜け!!」
「え、は、はい!」
ダンは反射的に、隠し持っていた小型銃を抜く。
迷いなく照準を合わせ――主の頭部めがけて、引き金を引いた。
パアン。
乾いた銃声。ローブのフードごと、頭部が吹き飛ぶ。
主はその場で崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。
「あっけねえ……」
「え……え……」
アランは口をぱくぱくさせたまま茫然とし、
ジャロとブルは刀に怯えたのか、互いにしがみついてガクガク震えている。
「ダン君、ナイスだ。伊達に射撃が上手いわけじゃないな」
「ありがとうございます!」
「うそ……こんなのって……」
マジカルが信じられないという顔をしている。
「復活したばかりというのは、力が一番弱まった状態だ。そこを叩くのが、一番被害が少なくて済む」
親父はそう言うと、振り抜いた刀でエレキネットの一部もまとめて切り裂き、鞘に収める。
痺れていた身体の力が少しずつ戻ってきて、俺たちはようやく身動きが取れるようになった。
「間一髪だった。ありがとう、クロノス」
マオ先生がお礼を言うと、親父は「気にするな」と言わんばかりに片手を振る。
「シェイドの信号が途絶えたと思ったら、この有様か……。まあ、マジカルだけでも無事だったのは救いだったな」
俺は、たまらず親父に駆け寄った。
「えっと、親父……だよな?」
「ん? ダルク、来ていたのか?」
ここで俺に気づくなよ!
「親父ほんとどこ行ってたんだよ! 急にいなくなったと思ったら……!」
「え? いやいや、俺は今日、ここに来たのが初めてだぞ!?」
「どういうこと……?」
俺が言いたいことを整理しきれずにいる間、スタラは頭の上に「?」を浮かべている。
じゃあ、さっきまで俺たちを神殿まで案内してた“親父”はいったい誰だったんだ……?
「まあまあ、ダルク。とりあえず大元潰したんだし、いいじゃねえかよ。にしても、大したことなかったな」
ダンは得意げだ。親父に褒められたのがそんなに嬉しいのか?
「さあ、精霊石、返してもらうわよ!」
マジカルがアランのほうへ詰め寄る。
「街をめちゃくちゃにして、タダで済むと思わないことね!」
完全に形勢は逆転している…はずだった。
「そんなに怒らないでくれよ。悪かったって。ちゃんと精霊石は返す…」
アランは両手を軽く上げてみせる。
「…と思ったかな」
にやり、と口元を歪めた。
その瞬間、俺は横目でダンの背後に“何か”が忍び寄ってくるのを見た。
床に伸びた影…いや、影が、影じゃない。
なんだあれ…?
影…?
「おい、ダン!後ろ!なんかいるぞ!!」
「え?」
振り向こうとした瞬間、影は突如として膨れ上がり、ダンの身体を丸ごと覆いかぶさった。
「……!!!」
仰向けに倒れ込んだダンは、息ができないのかバタバタともがき始める。
あまりに唐突な出来事に、その場にいた全員が思わず動きを止めた。
「ダン!」
俺は慌てて駆け寄る。
影はしばらくダンの身体にまとわりついていたが、やがて薄くなり、透明になり、跡形もなく消えた。
ダンはしばらく痙攣したようにぴくぴくしていたが、やがて大きく息を吐く。
「しっかりしろ!だ、大丈夫か…?」
「ああ、大丈夫だよ」
そう言ったダンは、次の瞬間…俺に銃口を向けた。
「えっ……」
「ダルク!!」
スタラの叫び声が聞こえたと思った瞬間…
パアン!!
耳をつんざく銃声。反射的に、俺はぎゅっと目をつぶった。
…が、いつまで経っても痛みが来ない。
「……?」
恐る恐る目を開けると、俺とダンの間に、半透明のシールドが展開されていた。
銃弾はそこに阻まれ、シールドごと砕け散り、破片と共に床へと落ちていく。
「危なかったわ…」
シールドを張ってくれたのは、マジカルだった。
「なっ…えっ…」
俺は、自分の身に起こったことよりも、ダンの行動の意味が分からなくて、完全に頭が真っ白になっていた。
次の瞬間、ぐいっと身体がマジカルたちの側へと引き寄せられる。
マオ先生の転移魔法だ。
「ダン! 一体何やってるの!? なんでダルク撃ったの!?」
ステラが、信じられないという顔でダンに叫ぶ。
「チッ、邪魔が入ったか」
ダン…いや、“何か”は舌打ちしながら立ち上がる。
服のほこりを払いながらも、銃口は俺たちに向けたままだ。
顔をよく見ると、さっきまでのダンとは、明らかに違っていた。
瞳の焦点が定まっておらず、元々赤い目が、さらに濁った色を帯びている。
こんな悪い顔、俺は見たことがなかった。
「おめでとうございます! 居心地はいかがでしょうか?」
アランはさっきまでの動揺などなかったかのように、嬉しそうに拍手をする。
ジャロやブルも、心底嬉しそうに目を輝かせていた。
「…悪くない」
ダン…“それ”は、アランの問いに低い声で答えた。
器用に拳銃を指でくるくる回しながら。
「最初から…ダン君が狙いだったのか!」
親父が唇を噛み、悔しそうに叫ぶ。
「ふうん、そうか。こいつはダンというのか」
“それ”は、俺たちを値踏みするように眺める。
「なら、俺の本来の名と合わせて“ゲン”と名乗ってやろう」
変なダン…いや、ゲンは、感情の乏しい単調な声で名乗った。
「確かに手ごたえはあったはずだ。なぜあれで済んでいる…?」
親父が、さっきの斬撃のことを問う。
「あんな小細工に、まんまと引っかかるなんてな? 笑いが抑えられないぜ」
ゲンは、心底馬鹿にしたように笑った。
ふと、ゲンの背後を見ると、さっき斬り伏せたはずのローブ姿の男が立っていた。
直後、そいつの姿は煙と共にドロンと消える。
「最初に切られた“主”は、この儂、ヴェルじゃよ」
ステージの上に、いつの間にか別の男が立っていた。
妖狐を思わせる緑の和服姿。長い耳と、揺れる尾。
種明かしとばかりに、にやりと笑う。
「主がおったのは本当じゃよ? 儂の影の中にな。あのとき斬られる瞬間、儂は小さな虫に化けて難を逃れたのじゃ」
そして、皆の視線がそちらに向いている隙に、影を介してダンの背後まで回り込んだ――というわけか。
「ダン…いや、今はゲンというべきかしら?」
マジカルが、強い口調で言う。
「貴方のことは野放しにはできない!ダンには悪いけど、一緒に来てもらうわよ!」
「そいつは無理な話だ」
ゲンは鼻で笑う。
「すべては、この理不尽な世界を書き換えるためだ。そうこうしている間にも、事は進んでいる」
俺は居ても立ってもいられず、思わず口を開いた。
「な、なあダン…お前、一体どうしたんだよ…何が起こった…」
「ああ、そうか…お前は…」
ゲンは俺に視線を向け、記憶のどこかを探るように黙り込む。
「ダルク!今のダンに近づくんじゃない!」
先生の制止が飛ぶが、俺の足は止まらなかった。
「なあ、ダルク。さっきは急に悪かったな。一つ聞いていいか?」
突然、口調がさっきまでの“いつものダン”に戻った。
「? こんなときになんだよ」
「世界を変えたいって、思ったことはないか?」
「え?」
「ああ、語弊だな。この世界に、不満を持ってるかってことだ」
ゆっくりと銃口を下げながら、ゲンは…いや、ダンの声で続ける。
「カンコンソーサイの力もある。俺たちで世界を書き換えようぜ?」
「ねえよ、そんなもん」
思わず声が荒くなる。
「確かに毎日退屈してばっかりだったけど…平和な世界だってことが、それが何よりじゃんか……!」
「そうか…」
ゲンは小さく頷いた。
「お前も新世界に連れていきたかったけど…残念だ」
その瞬間、またあの冷たい目に戻る。
「ダルク! 奴の言葉に耳を貸すな!」
親父が刀を構える。
「貴様は放っておけん! ダン君の身体ごと斬る! 覚悟!!」
親父が一気に間合いを詰める。
さっきより距離が近い。この距離なら、さすがのゲンも避けられない…はずだった。
「おっと、そうはいかないじょ!」
ジャロが、セブンフルーツみたいな色合いの短剣を構える。
刀身から、黄色い光線がクロノスめがけて走った。
「ぐわっ!?」
「親父!!」
親父の身体が黄色い光に包まれ、その輪郭がぐにゃりと歪む。
次の瞬間、そこに立っていたのは…コウモリのような小さな魔物だった。
「ぎ…」
「クロノス!? お前、何をしたんだ!?」
「そのしゅがたがおにあいだじょ~!」
ジャロはケラケラと笑い転げる。
「その魔法…“変化の呪い”!? 大昔の魔法のはずよ! なんで使えるの!?」
マジカルが驚愕の声をあげるが、ジャロは完全に無視してゲンに向き直る。
「アランからじゅんびができたって。はやくここからはなれるじょ」
「そうか」
ゲンがうなずく。
「ならばもうここは用済みだ」
アランが、静かに手を広げた。八つの精霊石が、再び宙へと浮かぶ。
「秘密を知ったここにいる者たちを、すべて排除しろ」
その言葉と同時に、神殿の空気が、さらに冷たく、重く変わっていった。
箱から飛び出した“それ”は、全身を黒いローブで覆っていて、顔どころか体つきさえよく分からなかった。
背丈や声の低さからして男だろう、というくらいだ。
こいつがカンコンソーサイを統べる“主”…?
「主様。お待ちしておりました」
アランを先頭に、カンコンソーサイの面々が一斉に跪く。
「千年…千年の歳月を待った甲斐があった…。復活したからには、我らを陥れたすべてのものに報いてやろう…!」
「まずいことになったわね……」
「千年だと…? その歴史は、もしや…」
マオ先生が何かを察したように眉をひそめた、
その直後――
ガッシャアアアアアン!!!
神殿の天井にあったステンドグラスが、派手な音を立てて砕け散った。
「地上へようこそ! だがそのまま帰れると思うなよ!!」
割れた天井から、刀を構えた男が勢いよく飛び込んでくる。
「親父!?」
「!!!」
降ってきたのは、俺の親父――クロノスだった。
親父は落下の勢いそのままに、“主”めがけて一気に斬りかかる。
鈍い音と共に、黒いローブの胴体部分が大きく切り裂かれた。
「主様!?」
アランをはじめ、周囲が一斉にうろたえる。その隙に、親父が叫んだ。
「ダン君! 奴の頭部を撃ち抜け!!」
「え、は、はい!」
ダンは反射的に、隠し持っていた小型銃を抜く。
迷いなく照準を合わせ――主の頭部めがけて、引き金を引いた。
パアン。
乾いた銃声。ローブのフードごと、頭部が吹き飛ぶ。
主はその場で崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。
「あっけねえ……」
「え……え……」
アランは口をぱくぱくさせたまま茫然とし、
ジャロとブルは刀に怯えたのか、互いにしがみついてガクガク震えている。
「ダン君、ナイスだ。伊達に射撃が上手いわけじゃないな」
「ありがとうございます!」
「うそ……こんなのって……」
マジカルが信じられないという顔をしている。
「復活したばかりというのは、力が一番弱まった状態だ。そこを叩くのが、一番被害が少なくて済む」
親父はそう言うと、振り抜いた刀でエレキネットの一部もまとめて切り裂き、鞘に収める。
痺れていた身体の力が少しずつ戻ってきて、俺たちはようやく身動きが取れるようになった。
「間一髪だった。ありがとう、クロノス」
マオ先生がお礼を言うと、親父は「気にするな」と言わんばかりに片手を振る。
「シェイドの信号が途絶えたと思ったら、この有様か……。まあ、マジカルだけでも無事だったのは救いだったな」
俺は、たまらず親父に駆け寄った。
「えっと、親父……だよな?」
「ん? ダルク、来ていたのか?」
ここで俺に気づくなよ!
「親父ほんとどこ行ってたんだよ! 急にいなくなったと思ったら……!」
「え? いやいや、俺は今日、ここに来たのが初めてだぞ!?」
「どういうこと……?」
俺が言いたいことを整理しきれずにいる間、スタラは頭の上に「?」を浮かべている。
じゃあ、さっきまで俺たちを神殿まで案内してた“親父”はいったい誰だったんだ……?
「まあまあ、ダルク。とりあえず大元潰したんだし、いいじゃねえかよ。にしても、大したことなかったな」
ダンは得意げだ。親父に褒められたのがそんなに嬉しいのか?
「さあ、精霊石、返してもらうわよ!」
マジカルがアランのほうへ詰め寄る。
「街をめちゃくちゃにして、タダで済むと思わないことね!」
完全に形勢は逆転している…はずだった。
「そんなに怒らないでくれよ。悪かったって。ちゃんと精霊石は返す…」
アランは両手を軽く上げてみせる。
「…と思ったかな」
にやり、と口元を歪めた。
その瞬間、俺は横目でダンの背後に“何か”が忍び寄ってくるのを見た。
床に伸びた影…いや、影が、影じゃない。
なんだあれ…?
影…?
「おい、ダン!後ろ!なんかいるぞ!!」
「え?」
振り向こうとした瞬間、影は突如として膨れ上がり、ダンの身体を丸ごと覆いかぶさった。
「……!!!」
仰向けに倒れ込んだダンは、息ができないのかバタバタともがき始める。
あまりに唐突な出来事に、その場にいた全員が思わず動きを止めた。
「ダン!」
俺は慌てて駆け寄る。
影はしばらくダンの身体にまとわりついていたが、やがて薄くなり、透明になり、跡形もなく消えた。
ダンはしばらく痙攣したようにぴくぴくしていたが、やがて大きく息を吐く。
「しっかりしろ!だ、大丈夫か…?」
「ああ、大丈夫だよ」
そう言ったダンは、次の瞬間…俺に銃口を向けた。
「えっ……」
「ダルク!!」
スタラの叫び声が聞こえたと思った瞬間…
パアン!!
耳をつんざく銃声。反射的に、俺はぎゅっと目をつぶった。
…が、いつまで経っても痛みが来ない。
「……?」
恐る恐る目を開けると、俺とダンの間に、半透明のシールドが展開されていた。
銃弾はそこに阻まれ、シールドごと砕け散り、破片と共に床へと落ちていく。
「危なかったわ…」
シールドを張ってくれたのは、マジカルだった。
「なっ…えっ…」
俺は、自分の身に起こったことよりも、ダンの行動の意味が分からなくて、完全に頭が真っ白になっていた。
次の瞬間、ぐいっと身体がマジカルたちの側へと引き寄せられる。
マオ先生の転移魔法だ。
「ダン! 一体何やってるの!? なんでダルク撃ったの!?」
ステラが、信じられないという顔でダンに叫ぶ。
「チッ、邪魔が入ったか」
ダン…いや、“何か”は舌打ちしながら立ち上がる。
服のほこりを払いながらも、銃口は俺たちに向けたままだ。
顔をよく見ると、さっきまでのダンとは、明らかに違っていた。
瞳の焦点が定まっておらず、元々赤い目が、さらに濁った色を帯びている。
こんな悪い顔、俺は見たことがなかった。
「おめでとうございます! 居心地はいかがでしょうか?」
アランはさっきまでの動揺などなかったかのように、嬉しそうに拍手をする。
ジャロやブルも、心底嬉しそうに目を輝かせていた。
「…悪くない」
ダン…“それ”は、アランの問いに低い声で答えた。
器用に拳銃を指でくるくる回しながら。
「最初から…ダン君が狙いだったのか!」
親父が唇を噛み、悔しそうに叫ぶ。
「ふうん、そうか。こいつはダンというのか」
“それ”は、俺たちを値踏みするように眺める。
「なら、俺の本来の名と合わせて“ゲン”と名乗ってやろう」
変なダン…いや、ゲンは、感情の乏しい単調な声で名乗った。
「確かに手ごたえはあったはずだ。なぜあれで済んでいる…?」
親父が、さっきの斬撃のことを問う。
「あんな小細工に、まんまと引っかかるなんてな? 笑いが抑えられないぜ」
ゲンは、心底馬鹿にしたように笑った。
ふと、ゲンの背後を見ると、さっき斬り伏せたはずのローブ姿の男が立っていた。
直後、そいつの姿は煙と共にドロンと消える。
「最初に切られた“主”は、この儂、ヴェルじゃよ」
ステージの上に、いつの間にか別の男が立っていた。
妖狐を思わせる緑の和服姿。長い耳と、揺れる尾。
種明かしとばかりに、にやりと笑う。
「主がおったのは本当じゃよ? 儂の影の中にな。あのとき斬られる瞬間、儂は小さな虫に化けて難を逃れたのじゃ」
そして、皆の視線がそちらに向いている隙に、影を介してダンの背後まで回り込んだ――というわけか。
「ダン…いや、今はゲンというべきかしら?」
マジカルが、強い口調で言う。
「貴方のことは野放しにはできない!ダンには悪いけど、一緒に来てもらうわよ!」
「そいつは無理な話だ」
ゲンは鼻で笑う。
「すべては、この理不尽な世界を書き換えるためだ。そうこうしている間にも、事は進んでいる」
俺は居ても立ってもいられず、思わず口を開いた。
「な、なあダン…お前、一体どうしたんだよ…何が起こった…」
「ああ、そうか…お前は…」
ゲンは俺に視線を向け、記憶のどこかを探るように黙り込む。
「ダルク!今のダンに近づくんじゃない!」
先生の制止が飛ぶが、俺の足は止まらなかった。
「なあ、ダルク。さっきは急に悪かったな。一つ聞いていいか?」
突然、口調がさっきまでの“いつものダン”に戻った。
「? こんなときになんだよ」
「世界を変えたいって、思ったことはないか?」
「え?」
「ああ、語弊だな。この世界に、不満を持ってるかってことだ」
ゆっくりと銃口を下げながら、ゲンは…いや、ダンの声で続ける。
「カンコンソーサイの力もある。俺たちで世界を書き換えようぜ?」
「ねえよ、そんなもん」
思わず声が荒くなる。
「確かに毎日退屈してばっかりだったけど…平和な世界だってことが、それが何よりじゃんか……!」
「そうか…」
ゲンは小さく頷いた。
「お前も新世界に連れていきたかったけど…残念だ」
その瞬間、またあの冷たい目に戻る。
「ダルク! 奴の言葉に耳を貸すな!」
親父が刀を構える。
「貴様は放っておけん! ダン君の身体ごと斬る! 覚悟!!」
親父が一気に間合いを詰める。
さっきより距離が近い。この距離なら、さすがのゲンも避けられない…はずだった。
「おっと、そうはいかないじょ!」
ジャロが、セブンフルーツみたいな色合いの短剣を構える。
刀身から、黄色い光線がクロノスめがけて走った。
「ぐわっ!?」
「親父!!」
親父の身体が黄色い光に包まれ、その輪郭がぐにゃりと歪む。
次の瞬間、そこに立っていたのは…コウモリのような小さな魔物だった。
「ぎ…」
「クロノス!? お前、何をしたんだ!?」
「そのしゅがたがおにあいだじょ~!」
ジャロはケラケラと笑い転げる。
「その魔法…“変化の呪い”!? 大昔の魔法のはずよ! なんで使えるの!?」
マジカルが驚愕の声をあげるが、ジャロは完全に無視してゲンに向き直る。
「アランからじゅんびができたって。はやくここからはなれるじょ」
「そうか」
ゲンがうなずく。
「ならばもうここは用済みだ」
アランが、静かに手を広げた。八つの精霊石が、再び宙へと浮かぶ。
「秘密を知ったここにいる者たちを、すべて排除しろ」
その言葉と同時に、神殿の空気が、さらに冷たく、重く変わっていった。
