1章

ダルク視点

光の神殿…そこは、この世界を統べる神にいちばん近づけると言われる、神聖な場所だ。
マジカルタウンの北部、住民たちの住まいから少し離れた丘の上に建っている。
中は教会のような造りで、いつもは清らかな光の魔力が満ちており、邪悪な魔力を持つ者は近寄ることすらできない…はずだった。

「見事に荒らされてんな…」
足を踏み入れた瞬間、ダンがため息をつく。
床には焦げ跡、壁にはひび、祭壇周辺には壊れた装飾品。
神聖なはずの場所が、まるで嵐が通り過ぎたあとのようだ。
「こんなんじゃ、守りたいものも守れないじゃねえか…」
「しかし親父。本当にここにみんないるのか…あれ?」
きょろきょろと辺りを見回した俺は、そこで違和感に気づいた。
「クロノスいない!」
「え…?」
さっきまで先頭を歩いていたはずの親父の姿が、いつの間にか消えていた。
「おい、ドアが開かなくなってる!」
ダンが、慌ててさっき入ってきた入り口の扉に駆け寄る。
押しても引いても、びくともしない。
「うそだろ、閉じ込められたぞ」
「一体何が何だか…」
俺たちが戸惑っていると…
突如、周囲の明かりがすべて消えた。
「わー! まっくらだ!」
「今度はなんなんだよ!」

「レディース エーンド ジェントルメーン!」

甲高い声が神殿に響いた瞬間、眩しい光がぱあっと灯る。
さっきまで薄暗かった神殿の内部が、一転してきらびやかな会場へと姿を変えていた。
天井や柱にはカラフルな飾りが吊るされ、床にはレッドカーペットが敷かれている。
…いやどう見ても神殿というよりパーティ会場だ。こんなの、一瞬で用意できるものなのか?
「はやくしゅわるじょ! まもなくショーがはじまるじょ!」
「……」
俺たちの視線の先、椅子にちょこんと座っていたのは、三毛猫の着ぐるみスーツをまとった子供と、青い魔法少女のような衣装を着た子供だった。
幼児のような舌足らずな口調で喋っているのが猫スーツの方らしい。
青い少女は喋らないが、その代わりにこくこくと頷いている。
「本日のショーは立ち見も歓迎だよ」
その声は、神殿の中央…祭壇の前から聞こえた。
金の装飾が目立つ豪華な黒いスーツを着た男が、そこに立っていた。
サングラスをかけていて表情は読み取りづらいが、口元はにこにこと笑っているようだ。
「あんたらはいったい…?」
「僕達は“カンコンソーサイ”と呼ばれている。今日は、この光の神殿で初めてショーをするんだ。君たちにはその記念すべき“最初の観客”になってもらいたいな」
黒スーツの男は、芝居がかった仕草で一礼した。
「あ、自己紹介がまだだったね。僕はアラン。そっちの猫の子はジャロ。青い子はブルというんだ。よろしくね」
「悪いけど、俺たち、ここから外に出たくて…」
ダンが言いかけるが、
「そんなこと言わないで。ちょっとだけだからさ?」
アランは軽く手を振って、話を強引に打ち切る。
今は、それどころじゃない。事情を説明して避難したいところだが、どうにも聞く耳を持ちそうにない。
「ダメだ、話が通じねえ…とりあえず、今は何もできねえし、あいつらの言う通りにしてみようぜ…」
「なにやるんだろ?」
スタラは、半分興味津々といった顔で祭壇を見つめている。
「本日のメインイベントはこちら!」
アランが、わざとらしく声を張る。
「この“パンドラの箱”を、とっておきの鍵で開けましょう!」
青い少女…たしかブルと呼ばれていた子が、アシスタントのようにカートを押してくる。
その上には、重厚な雰囲気を放つ、黒い箱が乗っていた。金の装飾が施されていて、いかにも“ただの箱ではありません”と言わんばかりだ。
「なんか…すごくやばそうな箱じゃね?」
思わずつぶやいた、そのとき…

 
「あんた達! その箱は触っちゃダメよ!!!」

 
「え…?」

 

突然、怒鳴り声が響き、続いて扉の吹き飛ぶ音がした。
振り返ると、入り口のドアが外側から魔法で破壊され、三人の人影がそこに立っていた。
「あ、先生!?」
「ん? ダルクか!? ダンも一緒だったのか」
「あー! スタラもいる!」
「ステラねえちゃん!」
そこにいたのは、マオ先生と、スタラの従姉にあたるステラ。そしてもう一人いる。
「先生、その人は?」
「ああ、この子か?」
「はじめまして~。アタシはマジカル! …なんて自己紹介してる場合じゃない!」
マジカルと名乗る少女は、俺たちと同じくらいの年に見える。
黒猫妖怪の魔法使い風の衣装を身にまとっていた。
「あんた達~! 神殿荒らして、勝手にその呪いの箱持ち出すなんて!みーんな知ってるんだからね!」
「おっと、もうバレちゃったか。種明かしはまだ早いよ」
アランは肩をすくめて、やれやれといった仕草を見せる。


「んわ!!?」

「ダルク!?」

 

次の瞬間、足元から黄色い光が走り、俺たちの身体を囲うように網が展開した。
「これはエレキネット!? 畜生、痺れて動けねえ!」
バチバチと電気が肌を刺す。
捕獲用のトラップだ。雷属性のネットで、身体の自由を奪う仕組みになっている。
「もう、たのしいことの じゃまを しないでほしいじょ」
ジャロが、ぷくっと頬をふくらませて言う。
「そんなトラップを仕掛けたところで…!」
マオ先生が魔法の詠唱を始めようとした。
「おっと、みんなどうなってもいいの?」
ジャロが、俺の方へ短剣を向けた。
「くっ…」
「あんた、卑怯ね!」
ステラが悔しそうに歯噛みする。
そうだ、俺たち…人質に取られたってわけか。先生たちは、うかつに手を出せなくなってしまった。
「ここまで来て下がるわけにはいかないよ」
アランは楽しげに両手を広げる。
「最後まで、じっくりとお楽しみくださいませ」
「言っとくけど、こんなんでアタシ達を止められると思わないで!」
マジカルが一歩前に出る。
「ここにいるのは、アタシだけじゃないわよ!」
「ふうん。そうか。君は“精霊”だったんだね」
アランが、じろりとマジカルを見て笑う。
「他の精霊を見かけなかったかな? …そうか。見かけないわけだ」
「どういうことよ?」
「だってね…ここにいるんだもの」
アランが懐から取り出したのは、色とりどりに輝く宝石のような石だった。
全部で八つ。炎、雷、氷、水、地、風、光、闇…それぞれの属性を思わせる色合いを放っている。
「うそでしょ…なんでみんな…」
「僕の手にかかれば、精霊もこの通りさ」
アランは、その八つの石を指の間で転がしながら、にやりと笑った。
「鍵は、この精霊達の力。これさえあれば…呪いの箱は開く」
その視線が、黒い箱へと向かう。
「中にいるのは、我が“主”だからね。その瞬間を、ちゃんと見ててくれよ」
アランが指を鳴らすと、精霊石がふわりと宙に浮かび、パンドラの箱の周囲をぐるぐると回り始めた。
次の瞬間、すさまじい閃光が、神殿全体を飲み込んだ。
目を開けていられないほどの、眩しい光だった。
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