1章

ノア視点
「…これで全部かしら」
ジールが銃口を下げると、目の前の魔物はぐらりと揺れて、そのまま地面に崩れ落ちた。
倒れたそいつの体は、しばらくすると脆い石みたいにひび割れ、ぱきん、と音を立てて水晶の欠片のように砕け散る。
「見たことない魔物だったな。まるで水晶みたいな身体…どこに生息しているんだろうか」
「これ、拾っておくわ。なにか役に立つかも」
ジールは、砕け散った欠片の中から、ひときわ大きい結晶を選んで袋に詰めた。
これで、この周辺は大方片が付いた。
俺たちも、いったん学校…いやギルドへ戻ろうと踵を返した、そのときだった。

「ほう。あの魔物を全部葬ったとは…」

「!」
聞き慣れない男の声に、俺は反射的に振り向く。
一軒家の屋根。その天辺に立つ風見鶏の上に、白い影がひょいと立っていた。
全身、白の装束。片目には眼帯。腰には片手剣。
見るからに剣士だ。
「貴様、なかなかの手練れのようだ」
「…何者だ?」
俺がそう問いかけると、男は腕を組んだまま、当たり前のように名乗った。
「我が名はブラン。カンコンソーサイの一員にして、四天王のひとり」
「カンコンソーサイ? 聞いたことないね」
ジールが眉をひそめる。
「知名度が低いのは当然だ。我らは…ついさっき、目覚めたばかりだからな」
ブランと名乗る男は、淡々と、だが妙な圧をまとって答えた。
「この街を魔物に襲わせたのは、貴様らか?」
「俺ではない。だが、仕込んだのは我がメンバーの一員だ」
ブランは視線だけを街の方へ向け、静かに続ける。
「我が主がこの街を拠点にしたいと望まれた。そのため、ここに巣食う者たちを一掃する必要があった…ゆえに、魔物を使ったまでのこと」
「答えてくれてどうも。じゃあつまり、この騒動は“あんたら一味の仕業”ってことね」
ジールが軽く笑う。
犯人がこんなあっさり出てくるとは思わなかったが……これは好機かもしれない。
こいつを捕まえられれば、大元まで辿り着ける可能性だってある。
俺が警戒を強めると、ブランもまた、こちらを品定めをするかように見てきた。
「こちらからも、一つ訊ねたい」
「答えるかどうかは、質問次第だな」
「貴様は…強いか?」
「は?」
あまりにも率直な問いに、一瞬だけ言葉が詰まる。
だが、その前にジールが勝手に答えてしまった。
「何言ってるの。ノアは強いわよ?さっきの得体の知れない魔物、全部倒したの見てたでしょ?」
「おい、ジール!」
待て、余計なことを言うな。
挑発するつもりか? 相手の興味を変な方向に引き寄せるんじゃない。
「ふむ。ならば――今この場で、その“強さ”を証明してみせろ」
ブランはふわりと屋根から飛び降り、俺たちと同じ高さまで降りてきた。
着地の瞬間、砂埃ひとつ立たない。動きに無駄がない。
「やる気か! それならアタシだって――」
ジールが拳銃に弾を込める音を立てる。
だが、ブランの視線は一度もジールを捉えない。まさか…
「待て。お前は手を出すな」
「え、ノア。あんた、一人でやるつもりなの!?」
「奴の狙いは俺だ」
最初から“俺”だけを標的にしていた。
ジールを巻き込むわけにはいかない。
「分かったようだな」
ブランが口元だけで笑う。
「その通りだ。貴様…ノアと言ったか?貴様に、一対一の決闘を申し込む」
「…いいだろう、受けて立つ」
拳を握りしめながら、条件を叩きつける。
「その代わり、ジールには一切手を出すな。いいな?」
「承知した。女は…ジールと言ったか?」
ブランはちらりとだけジールに視線を向ける。
「貴様は、その目でこの戦いを見届けろ。もし逃げ出したら、約束は破棄されたものとみなし…斬る」
ブランの眼帯の下に隠された目を、俺は知らない。
だが露出している片方の瞳には、一切の冗談がなかった。
「言う通りにしろ。未知の敵は、何をしでかすかわからん」
「わ、わかった…」
ジールはしぶしぶ銃をしまい、後ろへと下がる。

「ブランと言ったな。何が目的かは知らんが…俺の相手をして、後悔するなよ」
「貴様の実力。この俺に、しかと示してみせろ」

ブランが片手剣を抜いた。その刃が、炎の明かりを受けて白く光る。

中ボス戦:ブラン
勝利条件:数ターン、生き残れ

俺は格闘用グローブをきつく締め直し、ブランと正面から対峙した。
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