みのむし様から頂きました

【異世界へ通じる社の守り】


これは、まだマナストーンを探している最中のことである。樹々が生い茂る森を歩いていた辺りに霧がかかってきたその時だった。

「ぺ! ぺー! ぺぺー!」

「ぺー? ちょっと、どこへ行くの!」

「まってよ、ペー! 置いてかないで!」

 白いてるてる坊主のような生き物、ページはまるで誰かに強く引っ張られるように、ぐんぐん森のなかを進んでいく。
 その後を追うのは、服装からしてまだ学生であろう双子の奇跡姉妹。妹の奇跡 願と、姉の奇跡 叶である。
 時々、姉の叶が妹の願の手を引っ張りあげながら、ページを見失わないように目を凝らし、森のなかを駆け巡っていた。
 そうしているうちに、いつのまにか森を抜け、水辺の広がる光景にたどり着く。

「わぁ! きれい! 聖地の泉みたい!」

「まって願。ここ、何かがおかしいわ」

 その水辺に、ぽつんと1つの社。その社の門が淡い光を放っている。そこにページはまっすぐ向かっていた。

「ぺー! ぺぺぺー! ぺー!」

「え、何々? ここにマナストーンの反応があるの?」

「ぺー! ぺぺー!」

「ふむ。どうやら違うようだねぇ。ここは足を踏み入れちゃ行けない場所の1つのようだよ」

「チェシャ猫! あなた、いつからそこに?」

 ぬっと叶の肩に現れたのは、紫に光る目と、ゆらゆら揺れる縞模様の尻尾をもった猫ーチェシャ猫だ。叶の質問には答えず、フフフ、と不敵に笑う。

「けれど。そうも言ってられないようだ。ほら、囲まれてしまったようだよ」

「!!」

 はっと叶と願が辺りを見渡すと、黒魔女の手下であるダークシャドーがぷかりぷかりと浮かび上がり、こちらににじり寄ってくる。願は飛び上がり、叶にしがみついた。

「そ、そんな! どうしよう叶!」

「ぺー! ぺー!」

 そんななか、ページが持っていた魔法書を開き、あるページに手を止めると、社の前に向かってかざす。魔法書が光をまして、社の門の景色が、扉が開くように変わっていく。

「ぺー!? 何をやってるの!?」

「ぺー! ぺー!」

「おやおや、こちらもその手を使いますか。素直に応えてくれるといいですね。逆に招かれぬよう、お気をつけて。ふふふ…」

「ちょ、チェシャ猫! 待ちなさい!」

 叶が尻尾をつかもうにも、すでにチェシャ猫の姿はなかった。その間にも敵はじりじりと近づいてくる。

「やだ、近づかないで! 来ないで!」

「願!」

 願が手を伸ばす。叶も願に向けて手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめたその時だった。

「ー侵入者発見。撲滅を開始する」

 願たちの周りにいたダークシャドーが、突如現れた大波によって流されていく。そのさいに、盛大に二人にも海水を被ったが、なんとか流されずにはすんだようだ。
 そしてはっと後ろをを見てみれば、社を守るようにたたずむ1つの影。
 最初は大きな蛇かと思ったが、よくよく見ると、尻尾の先は三本の剣になっており、そこから長く緑の鱗に覆われた体と赤い髪に二つの角をもった人間の顔がそこにあった。まるで、人面魚とも、人面蛇とも言えるだろう。
 二人して唖然として見ていると、金色に輝く瞳が二人の姿を捉える。

「救助要請を発したのは、お前たちか?」

「え? きゅうじょ? ようせい?」

 願が首をかしげていると、金色の視線はページの方へと向く。

「ふむ。では、そこの白いのがそうか?」

「! ぺー! あなた、もしかして」

「ぺー!」

「さすが! えらい! えらいよぺー!」

 ページがグッと拳を突き上げたのを見る限り、成功したのだろう。二人はページに駆け寄り、ひたすら撫でまくった。そんな二人の様子を見て、人面魚が去ろうとしたときだった。
 ページを撫でまくる二人に、興味津々に声をかける人魚の姿があった。

「あの! すみません! あなた方は、人間ですか? そのてるてる坊主さまはお友だちですか?」

「え? えっと…?」

「白玉さま!? 何故ここに!?」

「あ、神社姫さま! こんひひはへふー」

 人面魚ー否、神社姫が恐ろしい早さで戻り、人魚ー白玉に向かうと、ヒレの手を器用に使い、のんきに挨拶する白玉の頬を引っ張る。神社姫は叱るように言った。

「何故着いてきたのです! あれほど危険だと仰ったものを」

「え? 神社姫さまの本格的なお仕事を間近に見られるチャンスだと思って…いひゃい、いひゃい、いひゃいへふー!」

 白玉の言い分に、さらに頬を引っ張る神社姫。そんな二人のやり取りをポカンと見つめる願と叶に、神社姫は頭を下げて言った。

「お見苦しいところを、申し訳ありませぬ。こちらは何分、世間知らずなものでして…」

「世間知らずとはなんですか! わたしはただ、色々知りたいだけなんですー!」

「いい加減なさい! …本当に申し訳ありませぬ」

 神社姫は尻尾で器用に白玉を縛り、ずるずると社に戻る。社からは未だにほんのりの光が放ち、こちらとはまた違った景色が映りこんでいた。そこではっと我に返った願が声をかけた。

「あの! わたしたちを助けてくれて、ありがとう!」

「ぺー!」

「…お礼は入りませぬ。どうか貴女方の旅路に幸があらんことを」

「またお会いできたらお話ししましょうね~!」

 ブンブン手を振る白玉を引きずり、神社姫はその場を後にする。社の光が薄れると共に、異界への門は閉じられたのだった。

(了)
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