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ここに来て、早ひと月が過ぎた。
すでに江戸時代の生活にすっかり慣れ、楽しい日々を過ごしている。 -
のぞみ
なあ、あれなに?
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のぞみ
平ちゃん、何あれ?
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平助
うん?
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平助
何?
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のぞみ
ほら、あそこ。
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のぞみ
なんか、変なん干したあるやん
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平助
ああ、あれ?
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のぞみ
うん
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あたしが指をさした先には、妙なイラストの入った道着が干されていた。
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平助
近藤さんの道着だよ
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のぞみ
え、近藤さん?
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平助
うん
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のぞみ
あれ、なんなん?
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のぞみ
背中の模様
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平助
髑髏(どくろ)だって聞いたけど
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のぞみ
ドクロ?
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のぞみ
って、あのドクロ?
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平助
ははは、
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平助
【あのドクロ】って、どのドクロだよ
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平助
【しゃれこうべ】のことさ
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のぞみ
へー、売ってんのん?
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平助
いや、ご新造のおツネさんが縫ったんだ
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のぞみ
へーーーーーーっ!
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江戸時代に背中にイラストを刺繍なんて、なかなかオシャレな奥さんだ。
だけど、ゴリラみたいな近藤さんには、ちょっとこのドクロは可愛すぎるような気もする。 -
平助
そうだ、
俺の道着にも何か縫ってくれよう -
平助くんがすり寄ってくる。
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のぞみ
えーーー、
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のぞみ
あたし、
お裁縫 超苦手やしムリ -
平助
ええーーー、
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平助
そんな事言わないでさ
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平助
俺もお前に包まれて鍛錬してぇよう
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総司
そうそう
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そこへ、ニヤニヤしながら総司くんが現れた。
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総司
この子にそんな器用なこと、
出来る訳ないじゃない -
のぞみ
は?
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のぞみ
器用やし
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のぞみ
お裁縫は苦手、
ってだけやし -
総司
この子に出来るのは
置屋を逃げ出すことくらいさ -
総司
なんてったって、
じゃじゃ馬だから -
あたしは平助くんの肩を抱いて、ぐるりと回れ右した。
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のぞみ
わかった
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のぞみ
ほな、
平ちゃんの名前入れたげる -
平助
うおっ!!
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平助
ほんとに?!
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のぞみ
うん
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のぞみ
そのかわり、
甘いもん買うてな -
平助
合点承知之助!!
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「フフン」と、あたしは総司くんを振り返った。
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それから数日
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のぞみ
ほら
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のぞみ
上手いこと出来たやろ?
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わざわざ総司くんのいる前で、道着をお披露目した。
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のぞみ
ジャーーーーーン!!
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のぞみ
どう?
ええ感じちゃう? -
平助
う、うん………
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平助
だけどこれさ…
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総司
あはははははは!
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のぞみ
何がおかしいんやさ!
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のぞみ
ほんま、いちいちムカつく
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総司
こりゃいいや
平助にぴったりだ -
総司くんは、のけ反りながら笑って去っていく。
平助くんも苦笑い───。 -
平助
まあ、
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平助
そうだけどさ
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平助
けど、
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平助
こんな
あからさまに言わなくても……… -
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※『アサギロ』で、総司くんに「助平(スケベェ)の平助」とからかわれてたのを、ちょっと拝借しました(^-^;
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