ノアの研究

第五話「もしかして、そういう事?②」


 やはりというか、気が付けば先程と同じよう見知らぬ場所へいた。そこが宇宙船の中だという事は一瞬で分かった。よく分からない機械が沢山ある。その中に、いつしか渡した缶ジュースの缶が置いてあった。
「ようこそ、ルカ」
「す、すげえ!中ってこうなってんだ」
 窓が見えたのでそちらへ行ってみる。外を見るとノアが言っていた通り、海中だった。どれほど深いのだろう。想像していたよりも暗く、この暗闇から突然得体のしれない何かが突然現れるかもしれない。そう思うとわくわくした。
「海中っていうより海底だな」
「そうとも言う。さて、ルカ。何をする」
「うーん、そうだな……。そもそもの話、なんでノアは地球に来たんだ?」
「旅行」
「一人で?」
「そうだ。悪いか」
 いつもの笑みが、ほんの少しだけ圧を持つ。ルカは首を横に振った。
「誰も悪いなんて言ってないだろ。ずっと思ってたけど、ノアって割とネガティブ思考だよな」
「最悪の事態を常に考えていた方が都合が良い。ルカは常にポジティブ過ぎて、心配になる」
 心配という言葉にルカは驚いた。この宇宙人も人並みに心配をする。こういう所は宇宙人も同じなのだろう。ルカはまた新たに学んだ。
「俺の事心配してくれるんだ。ありがとう」
「……ルカがいなくなったら美味しいもの、食べられなくなる。それだけ」
「それでも嬉しいよ」
 そう言い微笑んでみせると、ノアは何故だか視線を逸らした。いつもならば真っ直ぐとルカの目を見ているのにだ。少しだけ気になるも、ルカはいつも通り流した。
「ルカ、手」
 ノアが手を差し出してくる。この流れだと手を握った瞬間、地上へ戻されてしまうかもしれない。ルカは気が付かないふりをした。
「ルカ、安心しろ。地上へは行かない。手を繋いだ方が、ルカが転ばないと判断した。だから手、出せ」
「いや、なくても転ばないけど」
「良いから早く出せ」
 何故そんなに手を握りたがるのだろうか。もしかしたら何か仕掛けようとしているのかもしれない。だが、ここで拒否すればノアの事だ、何をしでかすか分からない。ルカは渋々といった様子でノアの手を取った。何か起こると思うも、特に何も起きずそのまま隣室へと行く。そこにはベッドがあり、どうやら寝室のようだった。
「二人で座れる場所、ここしかない。ゆっくり寛げ」
「ありがとう」
 ノアから手を離しベッドへ向かおうとする。しかし、中々手を離してくれない。ルカは首を傾げてノアをじっと見た。
「ノア?」
「ルカの手、握っていると落ち着く。何故だ」
「そんなの知らねえって。そんな事よりずっと握られてたら座れないんだけど」
「それは悪かった」
 そう言うも手を離してくれない。ルカはこうなったら、ノアが満足するまでこうしていようと思った。だが数十分経ってもそのままであった。何も無く手を繋いだまま立ち続けており、ルカは段々と疲れてきてしまう。空いている方の手で頬をかく。
「ノア、あのさ。もうひとつ聞いても良い?」
「なんだ」
「旅行なのは分かったんだけど、それなら学校に通わなくても良くね?」
「私の母星では旅行先で学校に紛れ込むのが流行っている。流行には乗るべきだ」
「ノアってそういうの乗る方なんだ」
 またひとつ、ノアの事が知れた気がした。それが何だか嬉しくルカは顔を綻ばせる。この際座る事は諦め、ノアと会話を楽しむ事にした。
「触手って普段から出さないの?」
「身の危険を感じた時だけ出している。母星で常に出している者、ほぼいない」
「へえ、そうなんだ」
 ということは、ノアの星にいる人たちは、地球人とほぼ変わらない外見をしている。きっとノアは人間型宇宙人と、動物型宇宙人が合体した生き物なのだろうとルカは思った。そんな事を考えていると、ノアに手を引っ張られベッドまで移動する。
「ずっと立たせていて悪かった。座ろう」
「今更感」
 手を繋いだままゆっくりと座る。思っていた以上にベッドは柔らかかった。雲の上に座ったら、きっとこんな感じなのだろう。そんな事を考えていると、ノアは少し言いづらそうに声を発した。
「ルカ、私がいつか母星へ帰る時が来たら寂しいか?」
「え……」
 ノアが帰る。その事を考えただけでルカは心臓が張り裂けそうな気持ちになった。
 ――いや、でもそうだよな。旅行って言ってたし、いつか帰る時がくんだよな。……なんか、嫌だ。ずっと一緒にいられたら良いのに。
 返事をせず俯いて黙り込んでしまったルカに、ノアは今言うべきではなかったと思った。ルカへそっと体を寄せる。膝と膝がくっ付きそうな程だった。ノアは空いている方の手も合わせ、両手でルカの手を優しく包み込む。
「そんな顔、させたい訳ではない。今言ったことは忘れろ」
「う、うん」
 しっかりと手を握られ、ルカは顔が熱くなるのを感じた。一体どうしてしまったのだろうか。
 ――もしかして俺……。いや、まさかな。……でも。
 そこまで考えてルカは考えないようにする。この先を一言でも考えてしまえば、後戻りが出来なくなる。何故そう思うのか分からなかったが、そんな気がした。
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