ノアの研究

第二話「地球外生命体っていると思う?」


 ノアが転校してきて二週間程が経った。ルカはオカルト仲間が出来た事が嬉しく、毎日ノアへ話しかけていた。
「で、俺思うんだ。きっとアルザルはあるって」
「うん、あるよ」
「!だ、だよな」
 アルザル――それは地底世界の事だ。そこには絶滅した筈のマンモスなどが、未だに生息しているらしい。
 何一つ馬鹿にする事なく話を聞いてくれるノアに、ルカは心の底から嬉しくなる。だが、一つだけ疑問に思う事があった。それはノアの瞳が時折赤く光るのだ。転校初日から度々それを目撃しており、ルカはもしやこの男こそ宇宙人なのではないかと思うようになっていた。
 ――でも、こう……確信めいた事がないんだよな。
 終始笑みを絶やさないノアに、少しだけ不気味さを感じてしまう。そもそもの話だが、何故片目を隠しているのかずっと疑問に思っていた。ルカはそれとなく聞いてみることにした。
「なあ、片目隠してて前見づらくないの?」
「地球の日差しによるダメージを、少しでも減らすにはこれしかない。だから見づらくても、こうするしかない」
「……そうなんだ」
 時折ノアは不思議めいた発言をする。これが不思議ちゃんというやつなのだろうかとルカは思った。
 放課後の誰もいない教室。日が傾いてきたのか、夕日に照らされノアが逆光により、少しだけ見づらくなる。立ち上がりカーテンでも閉めようかと考えるも、面倒くささが勝りルカはそのままにしようと思った。カーテンへもう一度視線を向けた折、ノアが視界に入る。一瞬、何かが見えたような気がした。
 ――気のせい、か?
 たこの触手のような何かが、ノアの背後にあったような気がするも、ルカは気のせいだろうと結論付ける。そんな訳、ある筈がないのだ。きっとオカルト番組や雑誌などの見すぎなのだろう。だから何か見間違えただけで、そういう発想をしてしまうのだ。
 でも、ルカは少し思ってしまった。ノアが本当に地球外生命体――即ち宇宙人なのではないかと。
「な、なあ、ノア。ちょっと聞いても良い?」
「何でもどうぞ」
 にこにこと笑いながらノアはそう返答する。変な空気にならないよう、ルカは精一杯言葉を探した。
「その……。ノアは本当に宇宙人っていると思う?俺は絶対いると思ってる」
「地球外生命体はどこにでもいる」
 簡潔的にノアは答えた。いつもの事だ。なのに、少しだけ違和感があった。あの漆黒の瞳が、ほんの僅かに別の色へとなったのだ。気になる事はとことん知りたくなってしまうルカは、気が付けば口走っていた。
「ノアってたまに目の色違うような気がするんだけど、もしかして宇宙人だったりして」
 冗談めかしく言うも、ノアは返事をすること無くいつも通りの笑みを浮かべていた。
「まあ、そんな訳ないよな。今のは冗談だか――」
 言葉を全て言い終える前に、ルカは何かが体中を拘束しているような気がし、視線を下へと向ける。いつの間にか体は浮かび上がっており、たこの触手のようなもので締め付けられていた。触手はノアの背部から出ているようだった。
「バレてしまったのなら仕方ない。お前を殺す」
「ちょ、ちょっと待てって」
 締め付けが強くなる。普通ならば恐怖に打ち震えているのだろう。だがルカは興奮していた。
「すげえ。やっぱり宇宙人って本当にいたんだ!普通に死ぬより宇宙人に殺される方が、なんていうか物語っぽくて良いよな。殺したらどうすんの?脳みそ吸ったりすんの?」
 ルカのこの発言に、ノアは口を開け心底分からないといった表情へとなった。
「……地球人、分からない」
 締め付けていた触手の力が弱まり、ルカは下へとおろされる。殺されると思っていた当の本人は、いきなりおろされやや不満げだった。
「殺すんじゃなかったの?」
「やめる」
「なんで?」
 せっかくのチャンスがなくなってしまい、ルカは心底がっかりする。こんな体験、二度とないだろう。そう思うと少しだけ泣けてきてしまった。
「地球人、分からない。だから地球人知るため、お前は殺さない。ルカ、私が地球人ではない事を他の者にバラせば即殺す。分かったか」
 つまり研究対象にするから生かしてやる。この宇宙人はそう言っているのだ。ルカは自分が選ばれた人間という事実が嬉しく、驚きつつも満面の笑みで頷いた。
「分かった!すっげえ嬉しい」
 夕日に照らされた教室で地球人と宇宙人、何かが確かに始まろうとしていた。
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