ノアの研究

第一話「転校生がやってきた」


 地球外生命体――それは地球ではない惑星や、宇宙空間に生息するとされる生物全般を指す。即ち宇宙人の事である。

 
 高校二年生となったルカは所謂オカルトオタクであった。部活に属することなく、日夜UMAやUFOと呼ばれるものを探していた。
 麗らかな春の日差しを受け、学校までの道のりを何かいないか首を巡らせながら歩く。先日大雨が降った影響なのか、桜は散り始めていた。
 ――これはこれで赴きがあるかもな。
 ふっと笑いそんな事を思う。未知との遭遇を期待しつつ歩くもそんな事はある筈もなく、何事もなく学校へと到着する。
 新学期が始まり一週間。それは急に訪れた。
「本当に急だが転校生を紹介する」
 朝のホームルームで担任が突然そう言う。タイミングがタイミングだったので、クラス中が驚く。担任は気にすることなく転校生を教室へ迎え入れた。
 真っ黒な黒髪に片目を前髪で隠し、長い髪を後ろでひとつに束ねた男が入ってくる。
「ノアです。よろしく、地球人の皆さん」
 この発言により一人の男子が「ルカ二号かよ」と漏らす。ルカは未知との遭遇を夢見ている余り、一年生の頃から少し浮いていた。そんな彼と似たような発言をかましたこの男――ノアはにこりと笑うと、ルカを指差した。
「担任、あの者の隣が良いです」
「いや、君の席は――」
 担任が何か言おうとした瞬間、ノアの漆黒の瞳が赤く光ったようにルカは感じた。
 ――気のせい、だよな?
 瞳の色が変わる人間がいる筈がない。ルカは自分の考えをすぐ様否定する。
「君、席をノアに譲りなさい」
「え」
 ルカの隣の席に座っていた生徒に担任はそう言い放つ。先程他の席へ案内しようとしていた筈だ。突然の発言に生徒も困惑する。ノアは笑みを浮かべながらその生徒の元へと向かう。
「席、私に譲ってくれるよね」
 ノアがそう言うと、また瞳が赤く光ったように見えた。ルカは思わず目を擦るとノアを見る。だがその瞳は、初めに見た漆黒だった。
 ――そりゃそうだよな。転校生が宇宙人だったら良いなと思ったけど、そんな訳ある筈ないって。
 隣の席の生徒は荷物をまとめると、空いている席へと移動した。ノアは満足気に笑うと鞄をおろし、ルカの方へ顔を向けるとにこりと笑う。
「よろしく、ルカ」
「よ、よろしく」
 自己紹介をしていない筈なのに名前を呼ばれ、ルカは素直に驚く。
「なんで名前知ってんの?」
「名簿見た」
「ふーん、そうなんだ」
 名簿を見ただけで名前を覚えられる。きっとこの男は記憶力が良いのだろう。ルカは羨ましいとさえ感じた。
 ノアとの会話もそこそこに、担任にバレないよう机の下でスマートフォンを弄り始める。SNSパトロールをする為だ。某国のトップが地球外生命体に関する情報を開示する手続きをしたとなり、世界中に衝撃が走ったのは記憶に新しい。関連する新しい情報がないかルカは真剣にタイムラインを見つめた。
「それ、面白い?」
 突然ノアに声をかけられ、ルカは思わず肩を震わせて驚く。
「……先生にバレたら面倒くさいから、そういうのは小声で聞いてくれると助かるんだけど」
「それは失敬。で、面白い?」
「うん、まあ」
 密やかに会話をする。時折担任がこちらを見ていないかを確認しつつ、スマートフォンを見、ノアの質問に答えた。
「地球外生命体に興味あるのか?」
「……うん」
 これを言うとその歳になってまだ信じているのかと、馬鹿にしてくる人が多い。だから少し警戒しつつ肯定をする。ノアは一瞬口角を上げ怪しい表情を浮かべたかと思うと、先程からしている微笑みへとすぐ様戻った。ルカは多分気のせいだろうと思う事にする。きっとこの男も他の生徒と同じく馬鹿にするのかもしれない。だが、ノアの返答はルカの想像とは全く違った。
「ルカはよく分かってる。後何年かしたら、地球人以外の生命体がここへやって来る。その時に受け入れられない者は、皆等しく死ぬだろう」
「……わ、分かってんじゃん」
 思わず声が大きくなってしまう。担任に軽く注意をされる。だがルカはそんな事よりも、ノアの発言が分かっている側のそれで、心の底から喜びが溢れ出してきた。
「ノアとは良い友達になれそう」
「私もそう思う」
 笑い合うと目と目で握手をする。ノアとは良い友人となれるかもしれない。そう思うだけで、ルカは心がいっぱいになった。
 気が付けばホームルームはとうに終わっていた。
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