迦楼羅先生×寂雷先生

 【麻天狼】の伊奘冉一二三は、同じメンバーの観音坂独歩の幼馴染であり、恋人だ。
 それはリーダーである寂雷に報告済み。

『私にも、そんな人が、欲しいな……ふふ、なんて、ね……。』

 そう言っていた寂雷の寂しそうな目を、一二三は覚えている。
 だからこそ今日、メンバー揃っての、一二三と独歩がルームシェアをしているマンションの部屋で行われている食事会で、一二三は気づいた。

(あ、センセ、恋してる。)
「このカルパッチョ、とっても美味しいよ一二三くん。」

 ダイニングテーブルを囲む3人だが、一二三は頬杖をついてボーッと寂雷を見ている。

「一二三くん?」
「おい、一二三、どうしたんだよ……?」
「……ねー、センセー……。」
「なんだい?」

 恋人出来た?
 一二三の飾らない言葉に、ゲホッ!と咽せたのは、一二三の隣に座る独歩だ。

「おーまーえー!オブラートをだなぁ!」

 独歩は、一二三の胸ぐらを掴む。

「どぽちん、センセを見てみ。」
「は?……せ、せん、せい……?」

 独歩の圧に動じない一二三が冷静にそう言うので、独歩はつい寂雷を見る。
 恋する乙女のように頬を両手で包む寂雷は、ポポポと赤くなっている。

「私、そ、そんなに、分かり、やすいのかい……?」
「否定しないってことは、いるんじゃーん。」

 一二三は、にんまり顔。

「どっ、どなたでしょうかぁ!?」

 独歩は、まるで娘に恋人が出来た父親のような反応をする。

「……独歩くんは、たまに、お会い、しているよ……。」
「へっ?」
「んじゃ、病院関係?」

 一二三の鋭さに、寂雷はコクッと首を縦に動かす。

「ましてやセンセが、こぉんなに乙女になるっつーことは、年上の男とみた。」
「なっ、なんでそこまで分かるんだい?!」
「だぁって、センセ、めちゃくちゃ『乙女』だもん。」
「……お、俺は、会って、いる……?」
「……独歩くんは、その、私以外の、精神科の先生にも、診察、してもらっているだろう……?」
「……。……。……え゛っ!?まさか巫迦楼羅先生!?」

 独歩は一二三の胸ぐらから両手を離し、身を乗り出すように椅子から立ち上がる。
 寂雷は、頷く。

「だれー?その、カンナギ?カルラって人。」

 独歩は、椅子に座る。

「まぁ、一二三は、お会いしたことないよな……。……その、俺は寂雷先生以外の精神科の先生からも診察していただいているんだが、その方が、巫先生なんだよ──ご自分のことを、ジジイと仰っている。」
「え、センセ、その人いくつなんすか?」

 55です……。
 答えた寂雷に、一二三と独歩はハモって、20年上!?と揃って立ち上がった。

「……ねー、どぽちん、そのカルラって人、イケおじ?」
「……その、天パ?ぽい髪でな、前髪で、目を隠してらっしゃって、よくは分からんが、まぁ、でも……55には、見えないな……40代かと、思ってた……。」
「えと、ね……ヒプノシスマイクも、持っていらっしゃるんだ……以前、助けていただいたことが、あってね……。」
「ラスボスじゃん!」
「一二三ぃ!言葉を選べぇ!」
「センセ!恋バナ聞かせて!」
「一二三ぃい!!」



「──ほぉほぉ、そんなこんなで今は同棲中……俺っち、会ってみたい!」
「失礼だろうがっ!」
「あ、お迎え頼んでいるから、会うかい?」
「やったー!」
「すいませんっ!すいませんっ!」



 そして、迎えの時間。
 外で待っていた寂雷、の他に一二三はワクワクしながら、独歩はそんな一二三に、余計なことを言うなよ!?言うんじゃないぞ!?と念を押しまくっている。

「あ、来た。」

 軽自動車が向かってきて、寂雷の近くに停まった。
 そして運転席から、ぬっ……と出てきたのは、寂雷よりも高身長、且つガタイのいい赤毛と白髪混じりな天然パーマの目隠れ男、つまり巫迦楼羅である。

「マジラスボスじゃん!」
「一二三ぃいい!!」

 独歩は、すみません!すみません!ペコペコ勢いよく頭を何度も下げる。

「わははぁ、初対面で『ラスボス』言ってくるのは初診の子供達だけだと思ったが、大人からも思われちまってたかぁ。ま、いいってことさ。だから観音坂くん、君が責任を感じることはこれっぽっちもない。いいかい?」

 独歩の頭を優しく撫でる無骨な右手に独歩は、はわわぁ……!と声にならない声を出す。

「あ、俺っち伊奘冉一二三って言います!」
「まぁ、各ディビジョンの有名どころは知ってるが、俺は巫迦楼羅──あ、名刺を渡しとこうかねぇ。」

 名刺を持ち歩いているのか、迦楼羅はスラックスのポケットから名刺入れを取り出して、名刺を一二三に渡した。

「ほおほお、これで巫迦楼羅ね!精神科と小児科かぁ。」
「呼び捨てするなアホッ!」
「ま、好きに呼んで構わんよ。巫でカンちゃん、迦楼羅でカルラやらカルちゃんとか呼ばれてっからよ。」
「じゃあ、父ちゃん?」
「なんでだよぉおおお!!」

 一二三の胸ぐらを掴み、一二三をガクガク揺らす独歩。
 にゃはは〜、と一二三は笑っている。

「んじゃ、『母ちゃん』は寂雷ちゃんかねぇ?」
「へっ?!」

 寂雷を覗き込むように上半身を屈める迦楼羅が、突拍子もないことを言った。

「わはは、『母ちゃん』にするにゃ、伊奘冉くんと観音坂くんとの年の差がなさすぎるか。」
「んでも〜、やっぱセンセは『お母さん』っぽいとこあるっすよねー。」
「そっ、そうなのかいっ?!」
「一二三!ハウス!」
「賑やかでよろしい。寂雷ちゃんがリーダーやれてんのは、伊奘冉くんと観音坂くんのおかげだろうなぁ。」
「にゃはは〜。」
「え、えへ……?」

 一二三と独歩は、どこか照れた様子で、後頭部を掻く。
 偉大なる神宮寺寂雷にとっての恋人(ましてや20歳年上の男)から【麻天狼】のメンバーとしてあることを褒められたことは、照れくさくも嬉しいからだ。

「んね、マジで『父ちゃん』でもいい感じすか?」

 一二三は、迦楼羅に父性でも感じてしまったのだろうか。

「好きに呼びゃあいいさ。俺は、否定はせんよ。」
「やったー!父ちゃんで決定〜!」

 独歩の内心は、ヒィイイイ!!!だ。

(あの巫先生を『父ちゃん』?!やっぱり一二三はジャケット羽織らせればっ!いやっ、ホストモードでも何か余計なこと言いそうだしっ──あああああ!!どーする!観音坂独歩ぉおお!!)
「観音坂くん。」
「ひぁいい!?」

 迦楼羅からの声かけに、妙な返事で返してしまった独歩の背筋はピンと伸びる。

「俺が、観音坂くんから、独歩って呼び方を変えりゃあ、ちぃとは俺のことも呼びやすくなるかねぇ?」
「どぽぽんも、父ちゃんって呼んじゃえば?」
(お前の強心臓と一緒にするなぁあああ!!)
「ま、無理強いするわけじゃねえさ。ただ、そうさなぁ、伊奘冉くんのことは一二三って呼ぶし、観音坂くんのことは独歩って呼ぶから、よろしくな。あ、診察ん時もそう呼ぶから、リラックスしろよぉ?」
「す、すいません……。」
「ほーら、なぁんも悪いことしてねえのに、謝っちまってる。それが独歩の良さでもあるが、ちぃとは、ジジイを頼れ。な?」

 無骨な両手で、独歩の頬を包み込んで、むにむにする迦楼羅。
 独歩の瞳から、涙が溢れてきた。

「ぉっ、おどゔざんんんっ!!」
「たははっ、いいぜいいぜ。今日も、昨日も、一昨日も、その前も、よぉく頑張ったな、独歩。」



 一二三と独歩のルームシェアの部屋にて。

「マジで父ちゃんだったなぁ。」
「お、俺、お父さん、なんて、呼んじゃった……。次の診察の時っ、どーすりゃいいんだぁああ!!」



 軽自動車の車内では。

「ふふっ。」
「ん?どした?」
「いいえ、本当のお父さんみたいだったなと。」
「……母ちゃんになるか?」
「ふふっ、どうしましょうか?」

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