迦楼羅先生×寂雷先生

 迦楼羅と寂雷は、三つ子の月詠、神夢威、茉莉花と共にゲームセンターへ向かう途中、4人の男に囲まれた。

「かわいーねぇ。」
「そんなむっさいオジサンとよりさー、俺達と『遊ぼう』よぉ。」
「『サービス』しちゃうからさっ。」
「ちょーど4と4じゃーん。」
「んー、そりゃ『夫』として、『保護者』として、このジジイが断るっつったら、どうなるんだい?」

 迦楼羅の言葉に、男達がヒプノシスマイクを取り出す。
 よく見れば、全てが違法マイクだ。
 寂雷がヒプノシスマイクを取り出そうとしたら、それは迦楼羅から制された。

「なら、このジジイをぶっ倒してみな。」

 迦楼羅がヒプノシスマイクを取り出し、マイクの電源を入れる。
 おどろおどろしい「地獄の門」のスピーカー、そしてクロアゲハチョウに変化したピンマイクを、シャツの襟に付けた。

「先攻、そっちから来たらいいさ。」
「あ゛ぁ?!」
「なめんじゃねーぞジジイ!!」
「後悔させてやらぁ!!」
「俺からいくぞ!!」

 ジジイのラップ?
 そんなモン、イビキと同じで五月蝿えだけだろ?
 なんなら虫除けスプレーかけてやろうかぁ!?
 ただのデカブツが美人侍らせやがってよぉ!
 蛆虫みてえに気持ち悪りぃんだよ!!

 耳を劈くような不協和音と暴風が、寂雷と三つ子の前に立つ迦楼羅を襲う。
 しかし、迦楼羅は不動だ。
 片足が、後ろに動くこともない。

「蛆虫ねぇ……蛆虫か……ふむ……。」

 なんなら蛆虫みてえに、うじゃうじゃ這いつくばってやろうかぁ?
 こりゃえげつねえほど、気持ち悪りぃや。
 俺の「伴侶」と「子供達」を目につける、その審美眼は認めてやるが、打首される覚悟あんのかい?
 ま、ナンパ野郎共の倫理観なんざ、俺にゃあ分からん。
 ジジイの膝つかせてえならよぉ……暇潰し如きのラップじゃなくて、ガチで来やがれってんだぁあ!!

 1人が、吹き飛んだ。

「まだまだぁ!!」
「こちとら3人いるんだからなぁ!!」
「一気に潰してやらぁ!!」

 クールぶってるジジイはイテェだけだぜ?髪で見えねえその眼球、潰すくらい簡単なんだよクソジジイ!!
 三流リリックに俺達が膝つくわけねえだろ!その心臓に俺達のリリックを貫通させてやらぁ!!
 負けたあとに癇癪起こすんじゃねえぞぉ?俺達のライムはジジイを斬殺出来るくらいに鋭利な刃なんだよボケが!!

「ゴポッ……!」

 3人がかりのリリックが、迦楼羅の精神にダメージを負わせる。
 それでも、迦楼羅は不動だ。
 寂雷が片足を前に出したら、三つ子が、制止する。

「迦楼羅の想い、無下にしないで。」
「そ、迦楼羅にだって、プライドがあるからね。」
「俺達が、迦楼羅を信じる。その想いが、迦楼羅に通じるよ。」

 寂雷は、トップスの胸の真ん中で己の両手を組み、強く、強く、握り締める。

「迦楼羅ぁ!『背負ってるものはデカい』からなぁ!」
「迦楼羅ぁ!だからこそ『へばるなよ』ぉ!」
「迦楼羅ぁ!『信じてる』からねぇ!」

 月詠が、神夢威が、茉莉花が、前に立つ迦楼羅を鼓舞する。

「迦楼羅っ!貴方の『想い』をっ、紡いでくださいっ!」

 最後の寂雷の「叫び」に、血反吐が垂れた口角を、ニィ……と不敵に上げる迦楼羅を真正面から見た3人の男は、ゾッとするものを感じた。

 1つ、お前さん達に、教えてやろうか。
 眼球を潰す?
 心臓を貫通させる?
 斬殺する?
 んな生温い言葉で、ジジイがへばると思うんじゃねえよ……。
 「一切の望みを捨てよ」……俺が「背負う」は「地獄の門」だぜ?
 伊達に「Gatekeeper.」名乗ってねえんだ……悪りぃな、「坊や達」の単純すぎる思考回路に折れてやる「優しさ」なんて、ジジイは持ち合わせてねえ。
 自称ラッパー共の拙いリリックに、指導の余地もねえんだよ!!



 初めて入るゲームセンターの爆音に、寂雷は迦楼羅の左腕に抱きついた。
 4人の男達?
 さて、どうなったのやら。
 ただ、こうやって三つ子達と遊べているということは、迦楼羅の勝利であったことは間違いない。
 店内をプラプラしていたら三つ子から、これ欲しい!とおねだりされて狙うのは、ゲームのキャラクターらしいぬいぐるみだ。
 バーバーカットと呼ばれるクレーンゲームを、身長215cm体重100kgのガタイがいい「おじさん」が挑んでる姿は、なかなか、シュールである。

「お、『天井』きたんじゃない?」
「意外と早ーい。」
「ま、2000円溶かしてるけどね〜。」
「言うんじゃないよー──お、切れた。」
「「「ありがと〜。あとプラスで4000円溶かして?」」」
「あざといったらありゃしないねえ、お前達。」

 そして迦楼羅は、可愛い甥っ子達の為にプラス4000円を費やした。



「もふもふ〜。」
「やっぱ俺この子が好き〜。」
「推しキャラこそ最強〜。」

 それぞれのぬいぐるみを抱き締める三つ子は、あ、と声を揃え。

「「「寂雷さんも、なんか欲しいのあったら『おねだり』したら?」」」
「わ、私、ですか?」
「「「そ、なんかあるかもしれないし、見て回ろうよ。」」」
「ですが、その……もう6000円……いえ、お昼代の分を合わせたら……。」
「構わんよ。見て回ろうじゃねえの。」

 迦楼羅の無骨な両手が、寂雷の頬を包み込む。

「甘えとくれ。な?」
「「「そーそー、たまには自分に『ご褒美』しなきゃね。」」」
「ぁ、ありがとう、ございます……その……実は、あの子が、気になって……。」

 寂雷が丁寧な手で示したのは真後ろのクレーンゲームで、そこには三つ子達が持つぬいぐるみ以上の大きさを誇る、もふもふなクマのぬいぐるみがコロンと横たわっている。
 これはバーバーカットではなくUFOキャッチャーのクレーンゲームだ。

「さて、ジジイの根気が上か、UFOキャッチャーの確率が上か、試そうじゃねえの。」

 迦楼羅は親指にのせた100円玉をピンッと真上に飛ばして、キャッチした。



「「「迦楼羅の勝利〜!」」」
「ありがとうございますっ、迦楼羅。」
「デカいから、俺が持っとくよ。」

 迦楼羅の片腕の中には、ビッグサイズのクマのぬいぐるみが抱えられている。

「このデカさので1000円だけって、めっちゃラッキーじゃんか。」
「確かに〜。5000円は余裕で溶かすかと思った。」
「愛が成せる技かなぁ?んふふ〜。」

 すると、何か思った三つ子は顔を見合わせたあと、迦楼羅と寂雷を見てこう言った。

「「「俺らが払うからさー、プリクラ撮ってみたら?」」」
「ぷり、くら……?」

 寂雷が小首を傾げる。

「俺が入るにゃあ、狭すぎるんだがねぇ。」
「親父、パパとプリクラ撮ったよ。」
「めちゃくちゃねー、イチャイチャしまくってた。」
「だから、迦楼羅も入れるって。」
「阿修羅は俺より、ちぃと細身だからなぁ。」
「「「いや215cmの100kgと213cmの98kgの筋肉質は微々たる誤差だわ。」」」
「その微々が重要なんだぜ?」
「「「はいはい、照れてるのは分かったから、寂雷さんと入れー。」」」
「んー、鋭いねえ、お前達。てか阿修羅が玻璃と撮ったの、いつの話だい?」
「えーと、おじいちゃんから宮司を継ぐ前だったはず。」
「4年か5年前だったかなぁ。」
「うん、そんくらい。」
「俺55よ?」
「「「誤差誤差。」」」



 ぬいぐるみを三つ子に預けた迦楼羅は、寂雷とプリクラを撮ることになった。
 ただでさえ狭いプリクラの中の「圧」が凄い。

(55のジジイが20歳年下とプリクラたぁねぇ……はっずいわ。よく玻璃と撮れたな、阿修羅。)

 双子の弟を、ある意味尊敬してしまう兄。
 阿修羅は玻璃と10歳差だが、俺らは20歳差だぜ?ワケがちげえ気がすんだよなぁ……なんて思っている。

「こ、これが、プリクラ、ですか……ライトの光が、凄いですね……。」
「悪りぃねえ、デカブツジジイが入る場所じゃねえんだが……。」
「そ、の……迦楼羅は、私と撮るの、嫌、ですか……?」
「んー、そうじゃねえんだが……あ、撮るなら髪上げとくか。」

 シンプルな黒のカチューシャを取り出した迦楼羅が、前髪を上げてアースアイを露わにする。

「嫌じゃねえのよ。ただ、ジジイの心臓バックバクなんだわ。」
「へっ?」

 画面に入ってないよ!もっと近づこう!

「つまり、こう──。」

 身を屈めている迦楼羅が、寂雷の腰を抱き寄せる。
 コツコツッ、ヒールが鳴って、目線が同じになり、アナウンスが、カメラの方を向いて!と呼びかけた。

「はい、あっち向くぞー。」
「は、はぃ……っ。」

 笑顔でいこう!
 3・2・1・!



 出来上がったプリクラを、見せて!と強請る三つ子に迦楼羅が見せた。

「へぇ、ハグしたり、ほっぺた合わせたり。」
「ハート半分こに、Vサイン合わせてWでしょー。」
「おでこコツンに、最終的には迦楼羅が寂雷さんのほっぺにチューねぇ。」
「「「ふむふむ、イチャラブですなぁ。」」」
「ぷ、ぷりくら、すごい、です、ね……。」

 ポポポ、と赤らむ顔を両手で包む寂雷に、もう1回チューしたろか、と思う迦楼羅だが、それは微塵も出さない。
 そもそも前髪は撮影後に下ろしたので、どんな目の表情をしているのかが分からないのだ。

「さて、もう寄るところはないかい?」

 ビッグサイズのクマのぬいぐるみを受け取った迦楼羅は片腕に抱き、もう片方は寂雷の腰を抱き寄せていて、寂雷はプリクラを大事そうに握っている。

「「「満足〜。」」」
「んじゃ、神社まで見送る。」
「「「Thank you.」」」



 神社の離れまで三つ子を送った迦楼羅と寂雷。

「「「パパ〜、ただいま〜。」」」
「おかえりなさい。兄さんと寂雷はんとご一緒やったんね。」
「「「ファミレスで会ったんだ。」」」

 縁側には三つ子のパパである玻璃と──。

「お、浄蔵に夜叉──あ、今日は定休日か。」
「んだ、此処に来っと、やっぱ落ち着くっぺよ。」
「……。……。……よう……。」

 神社近くのカフェを経営している夜叉に、寡黙も寡黙な、しかし体格のいい男が夜叉の隣に座っている。

「迦楼羅、こちらの方、は……?」
「浄蔵だ。夜叉の旦那でね、カフェじゃあ厨房担当で、一切表にゃ出てこねえんだ。初めましてだな。」
「……。……。……夜叉から、聞いている……。……。……迦楼羅の、伴侶が……神宮寺、寂雷、だと……。……初、浄蔵、だ……。」
「初めまして、神宮寺寂雷です。」
「む、帰ってきたか。」

 と、何か感じ取ったのか、宮司で迦楼羅の弟の阿修羅までやって来た。

「「「あ、ナンパから絡まれてさー、違法マイク持ってたんだけど、迦楼羅が相手してくれたよ。」」」
「あ、コラッ、シーッだ!」

 珍しく慌てる様子の迦楼羅に、寂雷がキョトンとしたら。

「「「「どこのどいつだ?」」」」

 重低音と低音が、4つ重なった。

「お前らー、落ち着けー。」
「「「「落ち着いている。で?どこのどいつだ?」」」」
「もう終わったことだからなー?」
「……はぁ、この子達や寂雷さんを護ってくれたのには感謝してもしきれんが、兄貴は優しいがすぎる。……で?特徴は?」
「せやよ、特徴くらい教えてぇなぁ。……喉仏を潰すくらいやで……。」
「……。……。……阿修羅と、俺で、行くか……。」
「なぁんもせんで、言ってくれ。……ちびぃーっと、ジジイ共の『小言』に付き合ってもらうだけだべ……。」
「Okay, calm down.お前らの気持ちは受け取ったから、それだけで十分だから。」

 寂雷は阿修羅、玻璃、浄蔵、夜叉の変貌ぶりに、三つ子にヒソヒソと話しかける。

「ど、どうしたのかな……?」
「親父達、迦楼羅のこと大好きだからさ。」
「迦楼羅が痛い目に遭ったとか聞いたら、ね。」
「相手の『息の根潰しそうな勢い』で『説教』するんだよねぇ〜。」
「「「ちなみに親父と浄蔵さんは、ちゃんとしたヒプノシスマイク持ってるから、ラップバトルも出来るよん。」」」
「……な、成程……。」

 迦楼羅の愛そのものなんだな、寂雷の胸の奥がじんわりとあたたかくなった。

(……迦楼羅が、否定をしない、拒否をしない、だからこそ、阿修羅さん達も、迦楼羅のことが大切なんですね……。)

「マジで落ち着けお前達っ!終わったこと!」

 迦楼羅は、なんとしてでも特定したい阿修羅達を窘めるのに必死だった。
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