迦楼羅先生×寂雷先生
ある日の休日、寂雷は迦楼羅の実家に向かうことになった。
実家は神社らしい迦楼羅と共に来たそこは、都会でありネオンに溢れているシンジュクの中とは思えないほど、緑に溢れている神社である。
「たでーまー。」
神社の社務所に身を屈めて、ぬっ……と姿を現した迦楼羅に、周りはポカン顔。
厳密に言うなら、その視線は迦楼羅が肩を抱いている寂雷へと、向けられているものだ。
「「「やぁほ〜、迦楼羅〜。」」」
とここで、同じ顔の若い青年が現れた。
白い着物に松葉色の袴を着ていて、1人は右目の下に縦に2つのホクロあり、1人は左目の下に縦に2つのホクロあり、1人は両目の下に縦に2つのホクロがある。
もしかしなくとも、三つ子だろう。
それから明らかに迦楼羅より、ましてや寂雷より若そうな青年達だが、迦楼羅のことを呼び捨てにしている。
「「「親父は今、お宮参り中〜。」」」
「おー、めでてえこった。」
「「「親父からきいたけど、神宮寺寂雷が恋人になってくれたって、ガチのマジだったんだね〜。」」」
「そうだぞー。別嬪さんだろ?」
「「「デレデレジジイじゃねーか。」」」
寂雷は正直、自分はここでは「浮いた存在」なのでは?と思うくらい、話の輪の中に入れていない。
すると──。
「こーら、あんたら、迦楼羅『さん』やってゆーとるやろ。タメ口も、めっ、やで?」
白い着物に、浅葱色の袴を着ている男性が現れた。
「「「この人が、俺らのパパでーす。親父は迦楼羅の弟のこと〜。」」」
三つ子が、男性のことを紹介する。
そう言えば弟さんは同性婚をされたと仰っていましたね、と寂雷は振り返る。
男性はハスキーで、関西弁のような喋り方をしている。
「もう、お手伝いしてくれるんやなかったの?」
「「「やっぱ生の神宮寺寂雷は見ておきたくてさー。」」」
「はい見ました。持ち場に戻りぃ。」
「「「へーい。んじゃねー。」」」
三つ子は、社務所から出ていった。
「ホンマ、堪忍え。」
「構わんよ、呼び捨てとタメ口許してるのは俺だしな。」
「もう、迦楼羅兄さんは甘々すぎますぅ。」
「はははぁ、俺は伯父さんだからなぁ。」
「夫のお務めは、もう暫くかかりそうやで、先にお父様とお母様へお会いしに行かれます?」
「そーすっかねえ。寂雷ちゃん、いいかい?」
「はっ、はいっ。」
「たはは、んな緊張するこたねえさ。あ、ちなみに、さっき三つ子が言ったように、この人が弟の伴侶だ。」
寂雷よりも低身長な関西弁の男性は、ふんわりと微笑み、以後よろしゅう、と寂雷に言う。
「あ、えと、神宮寺、寂雷、です……。」
「お噂は予々〜。ふふ、【麻天狼】の方と、こないお話出来るなんて夢みたいやわぁ。」
「ちなみに俺と弟より10歳下だ。」
「やぁ、俺の歳バレちゃうやないですか。」
「わはは、まだまだピチピチじゃねーか。」
「「迦楼羅。」」
すると、男女の声が迦楼羅を呼んだ。
現れたのは、老夫婦、だろうか。
白い着物に紫の袴と紫の紋が描かれている袴を着ている。
「寂雷ちゃん、この2人が俺と俺の弟の親父とお袋。」
「初めまして神宮寺くん──いや、寂雷くんとお呼びしてもいいかな?」
「はいっ。」
年老いた男性の言葉に、背筋を伸ばす寂雷。
「あらあら、そんなに緊張しないで?我が家だと思ってちょうだいな。」
年老いた女性が、柔らかく微笑む。
このあたたかい家庭で育ったからこそ、迦楼羅が迦楼羅たらしめる存在へとなれたんだな……そう思う寂雷に、待たせてしまったな、と迦楼羅とは異なる重低音の声が、奥からやって来た。
見るからに宮司らしい格好で、それから迦楼羅の髪色と似ていて(髪の長さはこちらの男性の方が長いが)、アースアイで、迦楼羅までとはいかなくとも、そこそこ体格が良く、寂雷より高身長の男性だ。
その人は、関西弁の男性の肩を抱き寄せ、頭にキスを落とす。
「ふふ、お務めお疲れ様。」
「ん、お前不足だからチャージさせておくれ。」
(いっ、イチャイチャ、です!)
「相変わらず甘々だなぁ。」
日常風景なのか、誰も何も言わない。
そのことに、この風景がいかに自然なものなのかを感じる寂雷。
「それにしても、お前が【麻天狼】と関わるとはなぁ。しかも恋人にまでなれるとは──やはり人生は奥深い。」
「職場が一緒とは聞いていたけれど、こんな形で家族になれるなんて……ふふ、長生きして良かったわね、貴方。」
「親父もお袋もまだ70後半だろ。まだまだ働けー。」
「「年寄りの親を少しは労われ。」」
「だそうだぞ。」
「俺じゃなくて、どっからどう見ても兄貴に言ってるだろが。」
とても、とても、愛に満ちている家族だ。
そう思う寂雷は、実は、家族の団欒を知らない。
「いい子」で居続けていた過去は冷たく、寂しいものだった。
「いい子」でいれば、みんなが喜んだから、そうした。
「いい子」は、寂雷にとって「当たり前」となっていたのだ。
ゆえに──。
「……狡いな……。」
ポツリ、ベルベットの声が呟いた言葉は、迦楼羅達から凝視されるには、十分すぎるものだった。
ハッとした寂雷は両手で口を塞いだが、時すでに遅し、駟不及舌、覆水盆に返らず──私はなんて最低なことを口走ったんだ……!寂雷は、背筋に流れる冷や汗を感じる。
迦楼羅の無骨な両手が、寂雷の口を塞ぐしなやかな両手を優しく手に取る。
「寂雷ちゃん、『いい子』じゃなくたって、いいんだ。だから、甘えてくれ。いーっぱい、いーっぱい、今まで『お利口さん』にしていた『ご褒美』として、俺に、この家族に、甘えりゃいいんだよ。」
「わっ、わたっ、しっ!」
迦楼羅の、前髪で覆われた額が、寂雷の額にコツンと重なる。
目を隠す白髪混じりの赤毛から、アースアイがチラッと見える。
それは、優しいように見えた。
「いーの。大人だから甘えるなって、誰が決めたんだい?『いい子』がいいって、誰が決めたんだい?『甘えちまえ』よ。『みんな頑張って生きている』んだからさ、時々くらい『甘えたってバチは当たらん』さ。」
寂雷の視界は、滲む。
頬に、冷たいものがつたう。
止めどなく、ポロポロ、ポロポロ──。
「いぃっ、こである、ことがっ、いいとっ、おもって、きましたっ!いい点を取ることがっ、優秀であることがっ、『恩返し』だとっ!『甘える』なんてっ、『失礼』だとっ!」
「んじゃ、これから甘えりゃいいんだ。今日、今から、親父が、お袋が、弟が、弟の伴侶が、三つ子が、この神社が、寂雷ちゃんの『お家』になった。勿論、一番の『避難場所』は俺だが、俺に言いにくいことがありゃ、ここの人達を頼りゃいい。ましてや、一二三や独歩もいるんだ。あの子達から頼られるばかりじゃなくて、あの子達を『頼ってみる』のも、ひとつの手だぞ。」
寂雷は、迦楼羅に抱きついた。
きつく、きつく、背中の服を力一杯握り締める。
そして逞しい胸の中で、嗚咽を押し殺す。
寂雷の頭が、優しく撫でられる。
「愛してるよ、寂雷。」
…
「……ご挨拶に行ったのに、泣くなんて、その……。」
「いいのいいの。」
帰りの車の中、助手席に座る寂雷は申し訳なさそうに縮こまる。
迦楼羅は、そんな気負うなと言外に言う。
「……また、お伺いしても、いいですか……?」
「んー、表現がちげえなぁ。」
「え?」
「『伺う』んじゃねえの。『帰る』んだよ。」
信号待ちで止まった車。
運転中は、シンプルなブラックのカチューシャで前髪を上げている迦楼羅の綺麗なアースアイが、微笑んで寂雷を見る。
「はいっ。」
寂雷は、美しく微笑んで、返事をした。
…
実家は神社らしい迦楼羅と共に来たそこは、都会でありネオンに溢れているシンジュクの中とは思えないほど、緑に溢れている神社である。
「たでーまー。」
神社の社務所に身を屈めて、ぬっ……と姿を現した迦楼羅に、周りはポカン顔。
厳密に言うなら、その視線は迦楼羅が肩を抱いている寂雷へと、向けられているものだ。
「「「やぁほ〜、迦楼羅〜。」」」
とここで、同じ顔の若い青年が現れた。
白い着物に松葉色の袴を着ていて、1人は右目の下に縦に2つのホクロあり、1人は左目の下に縦に2つのホクロあり、1人は両目の下に縦に2つのホクロがある。
もしかしなくとも、三つ子だろう。
それから明らかに迦楼羅より、ましてや寂雷より若そうな青年達だが、迦楼羅のことを呼び捨てにしている。
「「「親父は今、お宮参り中〜。」」」
「おー、めでてえこった。」
「「「親父からきいたけど、神宮寺寂雷が恋人になってくれたって、ガチのマジだったんだね〜。」」」
「そうだぞー。別嬪さんだろ?」
「「「デレデレジジイじゃねーか。」」」
寂雷は正直、自分はここでは「浮いた存在」なのでは?と思うくらい、話の輪の中に入れていない。
すると──。
「こーら、あんたら、迦楼羅『さん』やってゆーとるやろ。タメ口も、めっ、やで?」
白い着物に、浅葱色の袴を着ている男性が現れた。
「「「この人が、俺らのパパでーす。親父は迦楼羅の弟のこと〜。」」」
三つ子が、男性のことを紹介する。
そう言えば弟さんは同性婚をされたと仰っていましたね、と寂雷は振り返る。
男性はハスキーで、関西弁のような喋り方をしている。
「もう、お手伝いしてくれるんやなかったの?」
「「「やっぱ生の神宮寺寂雷は見ておきたくてさー。」」」
「はい見ました。持ち場に戻りぃ。」
「「「へーい。んじゃねー。」」」
三つ子は、社務所から出ていった。
「ホンマ、堪忍え。」
「構わんよ、呼び捨てとタメ口許してるのは俺だしな。」
「もう、迦楼羅兄さんは甘々すぎますぅ。」
「はははぁ、俺は伯父さんだからなぁ。」
「夫のお務めは、もう暫くかかりそうやで、先にお父様とお母様へお会いしに行かれます?」
「そーすっかねえ。寂雷ちゃん、いいかい?」
「はっ、はいっ。」
「たはは、んな緊張するこたねえさ。あ、ちなみに、さっき三つ子が言ったように、この人が弟の伴侶だ。」
寂雷よりも低身長な関西弁の男性は、ふんわりと微笑み、以後よろしゅう、と寂雷に言う。
「あ、えと、神宮寺、寂雷、です……。」
「お噂は予々〜。ふふ、【麻天狼】の方と、こないお話出来るなんて夢みたいやわぁ。」
「ちなみに俺と弟より10歳下だ。」
「やぁ、俺の歳バレちゃうやないですか。」
「わはは、まだまだピチピチじゃねーか。」
「「迦楼羅。」」
すると、男女の声が迦楼羅を呼んだ。
現れたのは、老夫婦、だろうか。
白い着物に紫の袴と紫の紋が描かれている袴を着ている。
「寂雷ちゃん、この2人が俺と俺の弟の親父とお袋。」
「初めまして神宮寺くん──いや、寂雷くんとお呼びしてもいいかな?」
「はいっ。」
年老いた男性の言葉に、背筋を伸ばす寂雷。
「あらあら、そんなに緊張しないで?我が家だと思ってちょうだいな。」
年老いた女性が、柔らかく微笑む。
このあたたかい家庭で育ったからこそ、迦楼羅が迦楼羅たらしめる存在へとなれたんだな……そう思う寂雷に、待たせてしまったな、と迦楼羅とは異なる重低音の声が、奥からやって来た。
見るからに宮司らしい格好で、それから迦楼羅の髪色と似ていて(髪の長さはこちらの男性の方が長いが)、アースアイで、迦楼羅までとはいかなくとも、そこそこ体格が良く、寂雷より高身長の男性だ。
その人は、関西弁の男性の肩を抱き寄せ、頭にキスを落とす。
「ふふ、お務めお疲れ様。」
「ん、お前不足だからチャージさせておくれ。」
(いっ、イチャイチャ、です!)
「相変わらず甘々だなぁ。」
日常風景なのか、誰も何も言わない。
そのことに、この風景がいかに自然なものなのかを感じる寂雷。
「それにしても、お前が【麻天狼】と関わるとはなぁ。しかも恋人にまでなれるとは──やはり人生は奥深い。」
「職場が一緒とは聞いていたけれど、こんな形で家族になれるなんて……ふふ、長生きして良かったわね、貴方。」
「親父もお袋もまだ70後半だろ。まだまだ働けー。」
「「年寄りの親を少しは労われ。」」
「だそうだぞ。」
「俺じゃなくて、どっからどう見ても兄貴に言ってるだろが。」
とても、とても、愛に満ちている家族だ。
そう思う寂雷は、実は、家族の団欒を知らない。
「いい子」で居続けていた過去は冷たく、寂しいものだった。
「いい子」でいれば、みんなが喜んだから、そうした。
「いい子」は、寂雷にとって「当たり前」となっていたのだ。
ゆえに──。
「……狡いな……。」
ポツリ、ベルベットの声が呟いた言葉は、迦楼羅達から凝視されるには、十分すぎるものだった。
ハッとした寂雷は両手で口を塞いだが、時すでに遅し、駟不及舌、覆水盆に返らず──私はなんて最低なことを口走ったんだ……!寂雷は、背筋に流れる冷や汗を感じる。
迦楼羅の無骨な両手が、寂雷の口を塞ぐしなやかな両手を優しく手に取る。
「寂雷ちゃん、『いい子』じゃなくたって、いいんだ。だから、甘えてくれ。いーっぱい、いーっぱい、今まで『お利口さん』にしていた『ご褒美』として、俺に、この家族に、甘えりゃいいんだよ。」
「わっ、わたっ、しっ!」
迦楼羅の、前髪で覆われた額が、寂雷の額にコツンと重なる。
目を隠す白髪混じりの赤毛から、アースアイがチラッと見える。
それは、優しいように見えた。
「いーの。大人だから甘えるなって、誰が決めたんだい?『いい子』がいいって、誰が決めたんだい?『甘えちまえ』よ。『みんな頑張って生きている』んだからさ、時々くらい『甘えたってバチは当たらん』さ。」
寂雷の視界は、滲む。
頬に、冷たいものがつたう。
止めどなく、ポロポロ、ポロポロ──。
「いぃっ、こである、ことがっ、いいとっ、おもって、きましたっ!いい点を取ることがっ、優秀であることがっ、『恩返し』だとっ!『甘える』なんてっ、『失礼』だとっ!」
「んじゃ、これから甘えりゃいいんだ。今日、今から、親父が、お袋が、弟が、弟の伴侶が、三つ子が、この神社が、寂雷ちゃんの『お家』になった。勿論、一番の『避難場所』は俺だが、俺に言いにくいことがありゃ、ここの人達を頼りゃいい。ましてや、一二三や独歩もいるんだ。あの子達から頼られるばかりじゃなくて、あの子達を『頼ってみる』のも、ひとつの手だぞ。」
寂雷は、迦楼羅に抱きついた。
きつく、きつく、背中の服を力一杯握り締める。
そして逞しい胸の中で、嗚咽を押し殺す。
寂雷の頭が、優しく撫でられる。
「愛してるよ、寂雷。」
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「……ご挨拶に行ったのに、泣くなんて、その……。」
「いいのいいの。」
帰りの車の中、助手席に座る寂雷は申し訳なさそうに縮こまる。
迦楼羅は、そんな気負うなと言外に言う。
「……また、お伺いしても、いいですか……?」
「んー、表現がちげえなぁ。」
「え?」
「『伺う』んじゃねえの。『帰る』んだよ。」
信号待ちで止まった車。
運転中は、シンプルなブラックのカチューシャで前髪を上げている迦楼羅の綺麗なアースアイが、微笑んで寂雷を見る。
「はいっ。」
寂雷は、美しく微笑んで、返事をした。
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