実弥の部屋


 明け方に物音が聞こえたのでそっと隣の部屋の襖を開けると、用意しておいた布団の上に実弥さんが寝転がっていた。
 傍には乱暴に脱ぎ捨てられた隊服の詰襟。わたしは部屋へと入り詰襟を手に取って静かに畳んだ。

「寝てろ」

 布団から掠れた声が飛んでくるけど気にしない。いつものことだ。そしてわたしもいつも通りに薬箱を持ってきて傍に座り、消毒薬の瓶を開けた。

「怪我の手当をしたら寝ます」
「してねぇよ」
「うそつき」

 ひんやりと冷えた薬を染み込ませた布を前触れなく押し当てると、一瞬息を詰めるのがわかった。怪我をする程弱くないくせにこの人は、時折何かを振り切るように無茶な戦い方をする。

「痛覚はあるんでしょう。おとなしくしてください」
「いらねえつってんだろうが」
「布団に血がついたまま放置すると洗っても落ちにくいんです。いいから黙って手当されてください」

 事務的に告げると今度は舌打ちを返してくるけどそれきり黙り込む。わたしは手早く上半身の手当を終え、頬についた小さな傷に軟膏を塗ろうと蓋を開けた。

「ああ、もう……。せめてお顔はなしにしてください。こんなことする必要ないでしょう」
「文句しかねぇなら見んな」

 実弥さんはあからさまにそっぽを向いた。わたしもわざとらしく溜息ひとつを落としてから覆いかぶるようにして覗き込む。

「見ないと確認できないでしょう?」

 むうっと唇を尖らせると実弥さんの瞳がわずかに揺れた。
 小さく息が漏れたのでようやく観念したかと安心して手を伸ばした瞬間、手首をぐっと掴まれ――。

「そんなに見てぇなら、……見せてやるよ」

 低い声とともに問答無用で布団に引きずり込まれた。




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