村田の部屋
「……そして厠の前に立っていたのは……冨岡だった」
「やだなにそれこわっ! 冨岡くんこわっ!」
揃いの寝間着を着た彼女が口元を両手で押さえながら震えるのを見て、俺は満足して話を締めくくった。
次の合同任務には数名の隊士が赴くらしい。一足早く辿り着いた集合場所の藤の家紋の家に夕方やってきたのが同期の彼女だった。他は明日になりそうだ。
「そろそろお布団入ろっか」
「え!!!!」
「あれ、まだ寝ない? 任務あるし休んでおいた方がいいよ」
「ああ、いや、そうだな!休むためにな、ははは」
二組並べて敷かれた布団に移動する彼女に素っ頓狂な声をあげてしまい首を傾げられ、乾いた笑いをこぼして後に続く。
「今度の任務が一緒なのが村田くんでよかった」
「冨岡の方がよかっただろ」
「もちろん水柱の冨岡くんがいたら心強いけど、村田くんにも、安心して背中……まかせられる……よ……」
休める時に休むという特技の持主らしく、あっという間に眠りに落ちた顔を横目で見る。
「……安心、かぁ」
安心安全平々凡々人畜無害。優しくていい人。女子の俺への評価は大体そんなもんだ。
嬉しいことを言われたはずなのに聞こえてきた微かな寝息にも冨岡の名前を出した自分にも無性にやるせなくなって、あどけない寝顔の脇に両手をついて覆い被さった。
「そんなに油断してると後ろから襲われるぞ」
わざとらしく出した低い声も台詞もあまりに自分らしくなくて思わず吹き出しそうになる。自分の布団に横たわり両手を頭の後ろで組んだ。
「……なんてな。……あーあ、眠れるのかぁ、俺」
それでも万年寝不足の身におそいかかる眠気に、俺はすぐにいびきを立て始めていた。
いいよ、という小さな声に気づきもせずに。