義勇の部屋


 湯を浴びて戻ると部屋にはすでに布団が並べてあった。先に上がった義勇さんが敷いてくれたみたいだ。

 お互いに任務明け、久しぶりの逢瀬だった。
 明かりもつけずくつろいだ様子で庭へと向けている顔は涼しげだけれど、大きくくつろげた胸元からのぞく肌にいまから与えられる熱を想像してしまい湯上がりの体がますます火照りそうになる。

 髪を拭いながら縁側に座ると夜風が衿元を通り抜けた。心地よさに目を細めているといつの間にかうつらうつらと船を漕いでしまい慌てて目をこする。

 髪が乾いたころ後ろで身じろぐ気配がした。振り返り、布団で肘枕で待ち受けている眼差しに誘われるように傍へ寄る。そのまま隣に横になるとすぐに伸びてきた手に頬を包まれ目を閉じた。けれど。

「……義勇さん……?」

 てっきりいつものように口付けから始まるのだろうと思ったのに、瞼を閉じた目元を覆うように移動した掌はそのまま動かない。じわりとほどけていくような温もりにとろとろと微睡んでしまいそうだ。

「義勇さん、だめです。それ眠っちゃいそうです」
「眠いなら眠っていい」
「でも」

 さっき玄関先で顔を合わせた瞬間の奪うような口付けの仕方で、義勇さんが今夜そのつもりだったのは伝わっていた。わたしだって期待してここへ来た。
 だけど腕の中に閉じ込められ背中をゆっくりと撫でられているうちに、抗いきれない眠気の波が押し寄せてくる。
 迷いながら見上げると、言い聞かせるように髪をくしゃくしゃとかき混ぜられた。

「いい。今夜はこのまま」

 その柔らかな声音にもう逆らわず身を任せる。
 久しぶりの穏やかな眠りの海を揺蕩うわたしに、おやすみ、と優しい唇が一度触れた。


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