炭治郎の部屋
寝間着の袖を指先まで引っ張り上げると、
「もしかして寒いですか」
と炭治郎くんが手を伸ばして上から包んでくれた。
藤の家紋の家で鉢合わせした彼と、縦に並べた布団の枕の方を近づけてずっと小声で他愛もない話をしている。うつ伏せで布団をかぶって笑い合っているわたし達は秘密の話をする子供みたいだ。
「寒くはないんだけどすぐ手足が冷えちゃって」
「俺は大体いつも暑いです。常中のせいかなぁ」
もう常中ができるんだ、と少し驚いた。わたしの両手を覆っているその手を片方ひっくり返して広げて見ると、掌は固く鍛え抜かれていて年下で後輩とは思えないほど立派だった。
「手、大きいね。わたしと全然違う」
「貴女は女性で俺は男ですから」
ゆっくりと答える声に顔をあげると、体勢を変えて左肘をついた手に顎を乗せて微笑んでいた。乾ききっていない湿った前髪が顔の前に降りていて、行燈の仄灯りで影の形を変えている。こんなに大人びた雰囲気の子だったっけと息を呑んだ。
「だから違って当然です。……どうかしましたか」
上目遣いの赤みを帯びた瞳に絡め取られそうで咄嗟に手を離すと、不思議そうに首を傾げる仕草で耳飾りが揺れた。うつ伏せでいる衿元の緩みが急に気になりはじめた。再び伸びてきた手が今度は冷えた指先を摘む。熱くてたまらない。焦がされてしまいそう。
「……もう少し握ってて」
「いいですよ。眠るまでこうしてます」
「ううん、……朝まで」
熱に浮かされたように口走っていた。大きく目を見開かれても、温もりが心地よくて離せないだけだよとはもう言ってあげられない。
さっきまでただの年下で後輩だった男の子の喉仏が一度上下して、繋いだ指が深く絡んだ。
1/1ページ