うめあめ
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「散らかしててすみません、なかなか乾かなくて」
昼過ぎに任務から帰ってきた義勇さんが部屋の入り口で立ちすくむのを見て慌てて襖を大きく開けた。
羽織を脱いだ隊服の肩に追加で持って来た手拭いをかけ、連日の雨で部屋いっぱいに干してあった洗濯物を何枚か取り込む。まだ少し湿っているけれど仕方がない。構わないから気にするな、と言ってはくれるものの自分の褌が頭上でひらひらしているのはさすがに落ち着かないだろう。
「よくもまあ飽きずに降りますね」
「梅雨はそんなものだろう」
「そうですけど、こうも雨が続くとさすがに。どうせなら本当に梅が降ればいいですよねぇ。そうしたら少しは楽しいのに」
もしそうなったらわざわざ買わなくてもたくさん漬けられるな、と樽いっぱいの梅干しを想像してみたら途端にきゅっとしてきた耳の下を指でぐりぐりと押していると聞こえてきた、かすかな笑い声。
湧き出ていた唾を飲み込むのを縁側にあぐらをかいて襟元のボタンをはずしている義勇さんにしっかりと見られていた。
お風呂沸かしますね、と火照る頬を隠すように部屋を出ようとすると、それならちょうどよかった、と引き留められ促されるまま隣に座る。
刀や携帯用の薬などと一緒に傍に置かれていた赤い缶の蓋を開き中身を取り出すと、それがなんなのか覗こうとしたわたしの口元へとその手を運んだ。
「ほら」
「え……?」
突然指先で唇を割られ何かが押し込まれる。
ころりと歯に当たった感覚にそのまま呆けていると口の中に徐々に広がるのは、甘い蜜の味。
……飴?
「梅が好きだっただろう」
……うめ? あめじゃなくて?
舌の上で転がしながら何度か瞬くと手渡された缶の蓋に書かれていたのは、たしか日本橋辺りにあるという人気の和菓子屋の名前と商品名。その名も『うめぼしあめ』。
「食べ終わる頃には梅雨も終わるだろう」
四角い缶の中でつやつやとまぶしいべっ甲色と紅色の小さな三角の飴は、たしかに毎日一粒食べてもひと月近くはかかりそうだ。
「……おいしい。ありがとうございます。義勇さんもおひとついかがですか」
「お前に買ってきたものだ。俺はいい」
「そう、ですか? でもお疲れの身体に甘いものはきっと効きますよ。お嫌いじゃなければ」
缶の中の鮮やかな紅色の一粒をつまみながら思わず笑みがこぼれる。
たしかこれ、形が梅干しに似ているからそういう名前がついただけで梅は入っていないんだ。まぎらわしい名前だから勘違いするのも無理はない。食べたら当然気づいてしまうだろうけど……まあいいか。無事に帰ってきてくれるだけで充分なのに任務の合間にわたしのことを思い出して選んでくれたことが嬉しくて、でもこういうところは案外確認しないんだよな、義勇さんは。食べたらきっとするだろうきょとんとした顔を想像しただけでもうおかしい。
すると、また伸びてきた指にあごをぐいと押された。あれ、と思っているうちに口が開き、唇の隙間を柔らかいものがさらっていく。
「……っ⁈」
「……これで充分だ」
わたしの口の中で溶けた蜜をすくいとっていった舌が味わうように唇を舐めた。早速気づいたんだろうか、何の味だ、と不思議そうに目を瞬かせている顔をあまり見ないままにその腕を掴む。
「……あの、もし必要なら、まだこれだけありますから……」
はっきりと言えずにいると、わかった、と言いたげに細められた目尻に黒髪を束にしていた雨粒が一雫落ちた。あまりに綺麗で見ていられず雨空を見上げる。
……ねぇ。
あめのたびにこれがあるなら、もう少し降り続いていても、いいよ。