鉢尾
太陽の下が一番生きているという心地がする。
肌がじりじりと焼けていく感覚が、俺は嫌いではなかった。これから夏が始まる陽射し。
「勘右衛門、何をしているんだ」
雷蔵と三郎が長屋の方からやってきたので、おはようと返し、うーんと伸びをする。
「日光浴。天日干し」
「干されてるの?」
雷蔵がくすくすと笑う。図書室の本みたい、と。
「我々は夜に生きるのだから、月光浴も出来たらいいのになあ」
三郎の言葉に、たしかにと頷いた。月光も神秘的で好きだけれど、忍者の敵であるから、つい忌避してしまう。太陽と同じくらい、身体がリフレッシュしてくれるものならよかった。こんなに心底深呼吸ができるのは、やはり太陽さまさまだ。
「いつか月光浴が気持ちよくなるのだろうか?」
「これから仕事、のタイミングなのだがら、緊張するのではないか」
二人の会話もふわふわしている。朝の光景だ。朝はみんなトンチンカンだ。まだ少しだけ夢の中。
「しかし勘右衛門は、本当に気持ちよさそうに日光浴をするよなあ」
「なんだよ」
三郎が感心したように言うもんだから、何か裏があるのかと勘ぐってしまう。お前だって日光浴くらいするだろうに。
「見ていてすがすがしい」
「そ、そうなの?」
雷蔵がまたくすくすと笑う。今度は笑っている意味がわからない。俺が日光浴をしていることの何がおかしいのだろうか。
「三郎は素直じゃないなあ。一緒にやりたいって言えばいいのに」
ほら、と雷蔵が三郎の背中を押し、三郎がよろけたところで、雷蔵は「僕は朝ごはんに行ってくるよ」と言い残して食堂へ行ってしまった。必然的に二人きりになる俺たち。太陽の下、じりじりと肌が焼けていく。
「……天日干し、してく?」
「……日光浴な」
日光の下、大きく伸びをする。指先まで染み渡っていく、朝の空気。頭が冴えていく心地。
「……勘右衛門の夢を見たんだ」
三郎が足のストレッチをしながら言う。どんな夢? と聞くと、彼の眉間に皺が寄った。
「……夜の帳の中、私に一瞥をくれてどこかへ行ってしまう瞬間だった。夢の中だから、詳しい状況設定なんかわからないけれど。私は、いかないでほしい、と思ってしまった」
右足から左足へ、伸ばす部位をかえながら三郎は低く唸った。俺はなんだかもどかしくなり、彼に覆いかぶさる。
「うわっ、何だよ」
「どこへも行かないよ。忍務でどこかに行くとしても、必ずお前のところへ戻ってくるよ。だから俺、目配せしたんじゃん」
「……そうか?」
「そうだよ。だって俺、お前に誘われて同じ委員会に入ったんだよ。もう一蓮托生だろ」
「……そうか」
どうにか納得してくれたようだ。これで彼の不安な気持ちが消えるといいのだが。
「きみ、私のこと好きすぎるだろう」
「……はあ!?」
突如降ってきた台詞に、今度は俺が眉間に皺を寄せる番だった。今の会話の流れで、何がどうしてそうなるんだ。
「そんなに私と一緒にいたいのか」
「それは三郎だろ、俺がいなくてさみしいんだろ」
「ああ、さみしいよ」
いともたやすく肯定され、俺は二の句が継げなくなってしまった。ぱかぱかと開いたり塞がったりするだけの口を、三郎の指がなぞる。
「どこにも行かないでほしいよ」
朝から口吸いはだめです、おてんとうさまがみています。俺は何とかキッスを回避し、乱れた寝間着を直して、三郎の方を見ずに「さ~て食堂に行こうかな」と口笛を吹いた。朝から甘い言葉なんて交わしてたら、身が持たない。
しかし三郎は懲りなかった。俺の手にするりと手を絡ませてきたのである。
「一緒に行こう」
「な、んで」
「どこにも行ってほしくないから」
この独占欲のかたまりめ。俺は根負けして、やれやれと頭を振った。
「俺のこと好きすぎるだろ、お前」
狐が素直なのは天日干ししたせいだろうか。うん、とひとこと返されたので、俺は耳が赤くなったまま食堂に行かなければならなかった。食堂につくと雷蔵がまだA定食かB定食か迷っていたので合流し、三人で朝食を食べはしたけれど、俺はずっと上の空だった。
まったく、気分爽快になるための日光浴だったはずなのに。とんだ一日のはじまりだ。真っ赤な梅干しはすっぱくて、文句を言いたくなる口を洗うにはちょうどいいのだった。
肌がじりじりと焼けていく感覚が、俺は嫌いではなかった。これから夏が始まる陽射し。
「勘右衛門、何をしているんだ」
雷蔵と三郎が長屋の方からやってきたので、おはようと返し、うーんと伸びをする。
「日光浴。天日干し」
「干されてるの?」
雷蔵がくすくすと笑う。図書室の本みたい、と。
「我々は夜に生きるのだから、月光浴も出来たらいいのになあ」
三郎の言葉に、たしかにと頷いた。月光も神秘的で好きだけれど、忍者の敵であるから、つい忌避してしまう。太陽と同じくらい、身体がリフレッシュしてくれるものならよかった。こんなに心底深呼吸ができるのは、やはり太陽さまさまだ。
「いつか月光浴が気持ちよくなるのだろうか?」
「これから仕事、のタイミングなのだがら、緊張するのではないか」
二人の会話もふわふわしている。朝の光景だ。朝はみんなトンチンカンだ。まだ少しだけ夢の中。
「しかし勘右衛門は、本当に気持ちよさそうに日光浴をするよなあ」
「なんだよ」
三郎が感心したように言うもんだから、何か裏があるのかと勘ぐってしまう。お前だって日光浴くらいするだろうに。
「見ていてすがすがしい」
「そ、そうなの?」
雷蔵がまたくすくすと笑う。今度は笑っている意味がわからない。俺が日光浴をしていることの何がおかしいのだろうか。
「三郎は素直じゃないなあ。一緒にやりたいって言えばいいのに」
ほら、と雷蔵が三郎の背中を押し、三郎がよろけたところで、雷蔵は「僕は朝ごはんに行ってくるよ」と言い残して食堂へ行ってしまった。必然的に二人きりになる俺たち。太陽の下、じりじりと肌が焼けていく。
「……天日干し、してく?」
「……日光浴な」
日光の下、大きく伸びをする。指先まで染み渡っていく、朝の空気。頭が冴えていく心地。
「……勘右衛門の夢を見たんだ」
三郎が足のストレッチをしながら言う。どんな夢? と聞くと、彼の眉間に皺が寄った。
「……夜の帳の中、私に一瞥をくれてどこかへ行ってしまう瞬間だった。夢の中だから、詳しい状況設定なんかわからないけれど。私は、いかないでほしい、と思ってしまった」
右足から左足へ、伸ばす部位をかえながら三郎は低く唸った。俺はなんだかもどかしくなり、彼に覆いかぶさる。
「うわっ、何だよ」
「どこへも行かないよ。忍務でどこかに行くとしても、必ずお前のところへ戻ってくるよ。だから俺、目配せしたんじゃん」
「……そうか?」
「そうだよ。だって俺、お前に誘われて同じ委員会に入ったんだよ。もう一蓮托生だろ」
「……そうか」
どうにか納得してくれたようだ。これで彼の不安な気持ちが消えるといいのだが。
「きみ、私のこと好きすぎるだろう」
「……はあ!?」
突如降ってきた台詞に、今度は俺が眉間に皺を寄せる番だった。今の会話の流れで、何がどうしてそうなるんだ。
「そんなに私と一緒にいたいのか」
「それは三郎だろ、俺がいなくてさみしいんだろ」
「ああ、さみしいよ」
いともたやすく肯定され、俺は二の句が継げなくなってしまった。ぱかぱかと開いたり塞がったりするだけの口を、三郎の指がなぞる。
「どこにも行かないでほしいよ」
朝から口吸いはだめです、おてんとうさまがみています。俺は何とかキッスを回避し、乱れた寝間着を直して、三郎の方を見ずに「さ~て食堂に行こうかな」と口笛を吹いた。朝から甘い言葉なんて交わしてたら、身が持たない。
しかし三郎は懲りなかった。俺の手にするりと手を絡ませてきたのである。
「一緒に行こう」
「な、んで」
「どこにも行ってほしくないから」
この独占欲のかたまりめ。俺は根負けして、やれやれと頭を振った。
「俺のこと好きすぎるだろ、お前」
狐が素直なのは天日干ししたせいだろうか。うん、とひとこと返されたので、俺は耳が赤くなったまま食堂に行かなければならなかった。食堂につくと雷蔵がまだA定食かB定食か迷っていたので合流し、三人で朝食を食べはしたけれど、俺はずっと上の空だった。
まったく、気分爽快になるための日光浴だったはずなのに。とんだ一日のはじまりだ。真っ赤な梅干しはすっぱくて、文句を言いたくなる口を洗うにはちょうどいいのだった。