鉢尾

 紺色だ、と思った。
 何度となく続いた話し合いの中で、勘右衛門が吐く溜息の色が。
「黙っていたって、はじまらないじゃないか」
 罵り合うのが昼、赦し合うのが夜の役目だと思う。私は勘右衛門の右手に触れた。
「せっかく二人きりなんだからさ」
 ああ、そうだ。ここには誰もいない。
 二人でいる、ということは、手を繋いで迷路を進むようなものだ。
 階段をのぼったり、おりたり。ゴールから見下ろす街、迎える朝陽。二人だから見える景色たち。
「傷つけあってきただろう。俺たち」
「でも、必要な傷だったはずだ」
「お前は優しすぎるんだよ。鉢屋」
 優しいという言葉は、免罪符にならない。
「俺の誕生日に、花束を抱えて立っていたお前のこと、俺はずっと忘れないよ」
 紺色だ。紺色が広がっていく。
 触れた右手はあたたかく、彼の脈動が伝わってくる。
 勘右衛門は笑って、左手を私の頬に伸ばした。
「泣かなくたって、いいだろ」
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