鉢尾

 頭痛がやまない。薬を飲んだが効果なし。
 部屋でうずくまっていると、鉢屋がOS1を買ってきてくれた。飲むと美味く感じてしまったので、軽い熱中症だったのかもしれない。
 夏風邪が流行っていると聞くが、ただの頭痛とはこれいかに。眉間に皺を寄せて目を瞑っていると、鉢屋が頭を撫でてきた。
「かわいそうに」
「同情するなら金をくれ」
「やらないけど、かわいそうに」
 薄情なやつめ。いや、薄情だったらOS1を買ってこない。仕方ないから感謝をしてやる。
 俺は鉢屋にもたれかかった。鉢屋はそれを受け止めて、背中をポンポンと撫でてくれた。冷房が寒いような、暑いような。
「目が見えないのって本当につらい」
「なにか読み聞かせしてやろうか」
「何を読んでくれる?」
「……クソデカ羅生門とか」
「いらね~」
 いらないと言っているのに、鉢屋はクソデカ羅生門を読み上げてくる。しかも情感たっぷりに。俺は痛む頭に苦しみながら笑った。笑うとガンガンするのに。
 鉢屋の腕のなかでひとしきり笑い終わり、おかしさの余韻に浸りながら、俺たちはいったい何をしているんだろうと深刻に話し合った。いいか、俺は頭痛でバイトを休んでるんだ。お前も心配で予定をキャンセルして看病している最中なんだ。笑っているバヤイではないのだ。
「笑いって免疫力つくって言うし」
「頭痛には効かないだろ」
 はあ、と大きなため息をついて、鉢屋の胸に頭をこすりつける。いつもつけている香水は、今日はつけていない。鉢屋の自然体の香り。なにより落ち着く。
「……シーツをさ」
「シーツ?」
「シーツを、夏用のに変えたいと思っているのに、ずっと手をつけていないんだ」
「そういえば、そうだね」
「勘右衛門とぐっしょぐしょになるまでまぐわってから交換しようと思っていたから」
「言い方」
 確かに最近、まぐわってなかった。お互い日々が忙しくて、疲れていたから。または、帰るのが夜遅かったから。まぐわうのには体力も時間も必要だから、都合を合わせるのが難しかった。
「……頭痛がなおったら、しような」
「いいのか?」
「しようよ。たっぷり、ぐっしょぐしょになるまで」
 俺の耳はたぶん、赤いんだろう。そして鉢屋の耳も、たぶん赤くなっているはずだ。目を開けなくてもわかる。
 鉢屋がそっと俺の額に唇を落とした。今はこれで我慢、ということだろう。俺じゃなくて、鉢屋が。
 鉢屋は存外、俺に触れる時は丁寧だ。はじめてまぐわった時、優しくする、と言ったのは本当だった。彼はずっと優しい。
 その優しさがもどかしかった。
 そうだ、次は俺がリードしよう。俺が鉢屋をぐっしょぐしょにしてやろう。そんなことを思いながら、鉢屋の首筋に顔を埋める。
 頭痛が少しずつ治まってきたことは秘密にして、この機会に存分に甘えてやる。鉢屋に予定をキャンセルしたことを後悔させないくらい、存分に。
 鉢屋の手が俺の髪の毛先をくるくると遊びだした。俺はそれがとても心地よかった。
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