鉢尾
デートで行った水族館のはじっこに、捨てペンギンがいるのが目に留まった。
段ボールに入れられた、たぶんあれはコウテイペンギン。換毛期は済んでいるようなので、もうヒナではなさそうだ。もらってください、という看板を読み上げる。
「定員オーバーしちゃって」
隣に立つ係員さんは苦笑する。ペンギンは大人しく、やれやれとでも言いたげに首を振った。
「餌は?」
「この水族館の仕入れ先から別口で送ってもらえますよ」
「よし。飼おう、勘右衛門」
三郎はこともなげにそう言うと、ペンギンに手を差し伸ばした。ペンギンはしばらくその手をみつめたあと、そっと手(ヒレっていうのか?)を乗せたので、こうしてペンギンが、うちにくる運びとなったのだった。
「おほー、いいじゃないか」
狭いベランダにビニールプールを広げて水を張り、そこに突っ込んだペンギンが嬉しそうにぱしゃぱしゃと遊んでいた。水滴が太陽に反射して眩しい。
俺たちがペンギンを飼い始めたことを聞きつけた八左ヱ門が遊びに来たので、ことのあらましをざっくり説明した。水族館からの帰り道、ペンギンと手を繋いで帰ったこと。魚を朝昼晩、二キロずつ食べること。わりと聞きわけがいいこと。
「トイレも猫砂にしてくれるし、お留守番も完璧なんだ」
「いいペンギンを飼ったね」
自分の家族を褒められると、少し誇らしくなる。ペンギンがこちらを見て、おまえらも遊べばいいのに、と言いたそうにしていたので、俺も八左ヱ門もびしょびしょになりながら、ジョウロで水をかけあった。
「ひどい有様じゃないか」
仕事から帰って来た三郎が、俺たちの惨状を見て笑った。結局リビングの中までびしょ濡れになってしまったのだ。
「なに買ってきたの?」
「人間用の魚。八左ヱ門も食ってくだろ」
「いいのか?」
ペンギンが頷く。お前に決定権はない。
アジを焼き、きゅうりの浅漬けを皿に盛り、たまねぎの味噌汁。三人でビールで乾杯した。三郎がいつものようにペンギンに魚を与えようとするのを見て、八左ヱ門が「俺もやりたい」と言い、手際よく魚を飲み込ませていく。
「名前は決めないのか?」
「……ぺんぎん、って名前なのかと」
「私もそのつもりだったな」
すっかり忘れていた。ペットには名前をつけるものだった。ペンギンと呼んで事足りていた。近所の人にも「ペンギンちゃん」と呼ばれている。
ペン介、ペン郎、ペン蔵、ペン衛門、ペン左ヱ門。俺たちはうんうん唸って、とりあえず「ペン太」でいいか、となった。ありきたりこそ正義。
八左ヱ門とペン太はすっかり仲良くなり、その晩はリビングに隣り合って寝た。うちのペン太は布団で寝るタイプのペンギンだ。
あくる日、八左ヱ門を見送ったついでに、俺と三郎とペン太の三人(二人と一匹)で散歩をした。あっちのローソンからこっちのローソンまでを、ゆっくりゆっくり、ぺたぺた、ぺたぺた。
「いつか海にも行こうな」
「……帰っちゃわないかな? ペン太」
「帰らないよ。我が家に帰るんだから」
三郎はそう言って、な、とペン太の手を撫でた。ペン太はこくりと頷いたけれど、ペンギンの真意はわからない。
俺はこの三人で住む我が家が好きだ。最近は魚臭いけれど。
段ボールに入れられた、たぶんあれはコウテイペンギン。換毛期は済んでいるようなので、もうヒナではなさそうだ。もらってください、という看板を読み上げる。
「定員オーバーしちゃって」
隣に立つ係員さんは苦笑する。ペンギンは大人しく、やれやれとでも言いたげに首を振った。
「餌は?」
「この水族館の仕入れ先から別口で送ってもらえますよ」
「よし。飼おう、勘右衛門」
三郎はこともなげにそう言うと、ペンギンに手を差し伸ばした。ペンギンはしばらくその手をみつめたあと、そっと手(ヒレっていうのか?)を乗せたので、こうしてペンギンが、うちにくる運びとなったのだった。
「おほー、いいじゃないか」
狭いベランダにビニールプールを広げて水を張り、そこに突っ込んだペンギンが嬉しそうにぱしゃぱしゃと遊んでいた。水滴が太陽に反射して眩しい。
俺たちがペンギンを飼い始めたことを聞きつけた八左ヱ門が遊びに来たので、ことのあらましをざっくり説明した。水族館からの帰り道、ペンギンと手を繋いで帰ったこと。魚を朝昼晩、二キロずつ食べること。わりと聞きわけがいいこと。
「トイレも猫砂にしてくれるし、お留守番も完璧なんだ」
「いいペンギンを飼ったね」
自分の家族を褒められると、少し誇らしくなる。ペンギンがこちらを見て、おまえらも遊べばいいのに、と言いたそうにしていたので、俺も八左ヱ門もびしょびしょになりながら、ジョウロで水をかけあった。
「ひどい有様じゃないか」
仕事から帰って来た三郎が、俺たちの惨状を見て笑った。結局リビングの中までびしょ濡れになってしまったのだ。
「なに買ってきたの?」
「人間用の魚。八左ヱ門も食ってくだろ」
「いいのか?」
ペンギンが頷く。お前に決定権はない。
アジを焼き、きゅうりの浅漬けを皿に盛り、たまねぎの味噌汁。三人でビールで乾杯した。三郎がいつものようにペンギンに魚を与えようとするのを見て、八左ヱ門が「俺もやりたい」と言い、手際よく魚を飲み込ませていく。
「名前は決めないのか?」
「……ぺんぎん、って名前なのかと」
「私もそのつもりだったな」
すっかり忘れていた。ペットには名前をつけるものだった。ペンギンと呼んで事足りていた。近所の人にも「ペンギンちゃん」と呼ばれている。
ペン介、ペン郎、ペン蔵、ペン衛門、ペン左ヱ門。俺たちはうんうん唸って、とりあえず「ペン太」でいいか、となった。ありきたりこそ正義。
八左ヱ門とペン太はすっかり仲良くなり、その晩はリビングに隣り合って寝た。うちのペン太は布団で寝るタイプのペンギンだ。
あくる日、八左ヱ門を見送ったついでに、俺と三郎とペン太の三人(二人と一匹)で散歩をした。あっちのローソンからこっちのローソンまでを、ゆっくりゆっくり、ぺたぺた、ぺたぺた。
「いつか海にも行こうな」
「……帰っちゃわないかな? ペン太」
「帰らないよ。我が家に帰るんだから」
三郎はそう言って、な、とペン太の手を撫でた。ペン太はこくりと頷いたけれど、ペンギンの真意はわからない。
俺はこの三人で住む我が家が好きだ。最近は魚臭いけれど。