鉢尾

 いつかオーロラを見に行きたいと言うから、二人で百万円貯金することにした。
 昼飯のパンをひとつ我慢したから二百円の得、飲み会を断ったから三千円の得。
「全部貯まった時、どこかに行ってしまいたくなったりして」
 百万円がぱんぱんに詰まったカバンを抱きしめたら、何かしらの衝動に駆られそうだ。それを聞いた鉢屋はムスッとして、
「そんなの、許さないからな。地球の果てまで探し尽くしてやる」
と言った。鉢屋のことだからやりそうで怖い。そもそも俺は逃げない。オーロラを見たいだけなんだ、俺たちは。
「オーロラを見たら、次は何がしたい?」
 願いのその先の願いを考えるのは楽しい。生きる目的はいくつあったっていいから。俺は、そうだなあ、花畑に寝ころびたい。それは百万円なくても出来るか。
 鉢屋は雑誌のオーロラ特集のページを閉じて、一呼吸置いてから俺に言った。
「キス」
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