鉢尾
寝ぼけ眼でスマホを確認したら三郎から「死にたい」というLINEが来ていて、飛び起きて迎えに行くための準備をする。どうせ死んでないのは明確だった。彼は押し悩んでいるだけで、悩んだ末に溜まったものをどこに吐き出していいのかわからないだけで、決して人を傷つけたりはしない。時折俺や雷蔵にこうしてSOSがくるので、忙しくない時は飛んでいくことにしている。今日は俺だったようだ。彼が頭痛薬を飲みすぎていないことを祈る。
「いまどこ?」
「崖」
「なわけないだろ、嘘つくな」
「蒲田」
「蒲田ぁ? なんで? まあいいや、グランデュオ蒲田で待ち合わせな」
入口のところでボーッとしている三郎を見つけたので、捕まえる。上下黒のジャージだった。外着に着替えられていないあたり、だいぶキているのがわかる。
俺たちはそのままユニクロに行った。三郎の服を見立てて、その場で着替えさせる。三郎の荷物はポケットに突っ込まれていたスマホと財布、家のカギだけだった。
「食欲ある? 何食べたい?」
「勘ちゃんと食べられるのならなんでも」
「身体に優しいものの方がいい? そういう気の使われ方嫌?」
「……勘ちゃんが食べてるとこが見たい」
そうかそうか、じゃあ俺の食べたいものにしよう。暑いけど鍋とかにしちゃおうかな、〆の雑炊ならコイツも食べられるかもだし。
家の最寄り駅まで戻ってきて、駅前のスーパーでカゴにぽいぽいと野菜を放っていった。鍋の素は三郎に選ばせたけれど、たぶん何も考えずに指さしただけだ。三郎の腹に何か入れてやりたくて、ゼリーとヨーグルトも買ってやった。
「別にいいのに」
「俺も一緒に食べるからいいの」
二人で並んで帰りながら、鳩の数を数えた。ふくふくとしたのが三羽いた。いいもん食ってるんだろうな。
「俺も鳩になりたい」
「全知全能だから?」
「平和の象徴だから。鳩って全知全能なの?」
とんちんかんな会話をして家に着く。風呂を溜めて、三郎と一緒に入った。湯舟のなかでも三郎は静かだったので、俺はアヒルさんで三郎をつつく。
「お湯かげんはいかがですか」
「……勘右衛門は、どうして私を見放さないんだ」
「好きだから」
それ以外にあるか? 俺はきょとんとした。どんな三郎も三郎じゃないか。
湯舟から上がって、ふわふわのタオルで三郎をくるんだ。三郎はほんの少し顔色がよくなっていたので、お湯さまさまだ。
「さて、最強無敵の時間がやってまいりました。マリカとスマブラ、どっちでも戦い放題です」
三郎をテレビの前に座らせて、俺たちはしばらくスマブラで殴り合った。途中、どしぇーっとかあぎゃーっとか変な叫び声をあげていると、三郎の方からくすくすと笑い声が聞こえてくる。彼は強い。どのキャラでも一通り使いこなしている。
「……ありがとうな」
「最強無敵だからね」
ピースサインを返すと、「今負けたじゃないか」と返されたので、なにおう、と眉をしかめた。俺がいまピカチュウだったら雷を落としているところだぞ。
ひとやすみするタイミングで、三郎の頬にキスを落とした。無味無臭だった。三郎は俺の額を舐めた。ざらざらした舌だった。
「人間も、時期によって男になるか女になるか選べたらいいのに」
「そうしたら、確実に人間であることを忘れるよ」
俺たちは手を繋いで、でも、そこで終わった。今セックスをする気にはならなかった。三郎が目を閉じたので、俺も目を閉じる。
同じ夢を見られたらいいのに。そういう枕を開発する人になろうかな。それこそ、人間であることを忘れてしまうかな。
もうすぐ夏がくる。忌々しい夏が。いつまでも指先の冷たい三郎のかく汗は、やっぱり無味無臭なんだろうか。
「いまどこ?」
「崖」
「なわけないだろ、嘘つくな」
「蒲田」
「蒲田ぁ? なんで? まあいいや、グランデュオ蒲田で待ち合わせな」
入口のところでボーッとしている三郎を見つけたので、捕まえる。上下黒のジャージだった。外着に着替えられていないあたり、だいぶキているのがわかる。
俺たちはそのままユニクロに行った。三郎の服を見立てて、その場で着替えさせる。三郎の荷物はポケットに突っ込まれていたスマホと財布、家のカギだけだった。
「食欲ある? 何食べたい?」
「勘ちゃんと食べられるのならなんでも」
「身体に優しいものの方がいい? そういう気の使われ方嫌?」
「……勘ちゃんが食べてるとこが見たい」
そうかそうか、じゃあ俺の食べたいものにしよう。暑いけど鍋とかにしちゃおうかな、〆の雑炊ならコイツも食べられるかもだし。
家の最寄り駅まで戻ってきて、駅前のスーパーでカゴにぽいぽいと野菜を放っていった。鍋の素は三郎に選ばせたけれど、たぶん何も考えずに指さしただけだ。三郎の腹に何か入れてやりたくて、ゼリーとヨーグルトも買ってやった。
「別にいいのに」
「俺も一緒に食べるからいいの」
二人で並んで帰りながら、鳩の数を数えた。ふくふくとしたのが三羽いた。いいもん食ってるんだろうな。
「俺も鳩になりたい」
「全知全能だから?」
「平和の象徴だから。鳩って全知全能なの?」
とんちんかんな会話をして家に着く。風呂を溜めて、三郎と一緒に入った。湯舟のなかでも三郎は静かだったので、俺はアヒルさんで三郎をつつく。
「お湯かげんはいかがですか」
「……勘右衛門は、どうして私を見放さないんだ」
「好きだから」
それ以外にあるか? 俺はきょとんとした。どんな三郎も三郎じゃないか。
湯舟から上がって、ふわふわのタオルで三郎をくるんだ。三郎はほんの少し顔色がよくなっていたので、お湯さまさまだ。
「さて、最強無敵の時間がやってまいりました。マリカとスマブラ、どっちでも戦い放題です」
三郎をテレビの前に座らせて、俺たちはしばらくスマブラで殴り合った。途中、どしぇーっとかあぎゃーっとか変な叫び声をあげていると、三郎の方からくすくすと笑い声が聞こえてくる。彼は強い。どのキャラでも一通り使いこなしている。
「……ありがとうな」
「最強無敵だからね」
ピースサインを返すと、「今負けたじゃないか」と返されたので、なにおう、と眉をしかめた。俺がいまピカチュウだったら雷を落としているところだぞ。
ひとやすみするタイミングで、三郎の頬にキスを落とした。無味無臭だった。三郎は俺の額を舐めた。ざらざらした舌だった。
「人間も、時期によって男になるか女になるか選べたらいいのに」
「そうしたら、確実に人間であることを忘れるよ」
俺たちは手を繋いで、でも、そこで終わった。今セックスをする気にはならなかった。三郎が目を閉じたので、俺も目を閉じる。
同じ夢を見られたらいいのに。そういう枕を開発する人になろうかな。それこそ、人間であることを忘れてしまうかな。
もうすぐ夏がくる。忌々しい夏が。いつまでも指先の冷たい三郎のかく汗は、やっぱり無味無臭なんだろうか。