鉢尾

「結婚したい」
 勘右衛門は床に寝っ転がって、雑誌を読みながらひとりごちた。足でげしげしと私を蹴る。
「宇宙で結婚したい」
「……式なら挙げられるけど。宇宙婚」
 え、三郎、俺と結婚してくれるの。勘右衛門はがばりと起き上がって、私の手を取った。とんだプロポーズだ。私は「式は可能だ」と伝えただけだ。
「ロケット、六人までしか乗れないんだよ」
「俺でしょ、三郎でしょ、兵助、雷蔵、八左ヱ門。余裕!」
 あ、親とかいいんだ。私は勘右衛門に脳内でウエディングドレスを着せていると、勘右衛門に「いや着ないけどね!?」と突っ込まれた。人の思考回路を読むな。
「三郎、お坊さんとかにならないかな。それで俺と結婚してくれないかな」
「寺の嫁は苦労するって聞くけれど」
「俺なんでもするよ。三郎がいてくれるなら」
 勘右衛門は読みかけだった雑誌を再び手に取り、ぱらぱらと捲っては閉じてを繰り返した。ドッグイヤーがところどころにある。随分読み込んでいるようだ。
「何の雑誌?」
「後楽園から池袋までの散策コース」
「嘘つけ」
 ラムネをぽりぽりと食べる勘右衛門の手を取った。食べすぎはなんだってよくない。薬よりよっぽどいいけれど。
 勘右衛門は私の首に手を回した。私は彼にキスを落とす。はじめは軽く、次第に深く。勘右衛門から漏れる声が甘くなってきたところで押し倒すと、ふふふ、と笑い声が零れた。
「ロケットに、神父様乗せるの忘れてた。誓えないじゃんね」
「寺の嫁になるのに神父様?」
「本当だ、言ってることがあべこべだね、俺」
 私の指が勘右衛門の身体を滑るごとに、勘右衛門は笑った。好き、好き、好き、とお互い唱えながら、戯れる。
 宇宙でキスをしたら、息苦しくならないだろうか。息継ぎの合間に、誓いの言葉を言うんだ。勘右衛門のまつ毛が頬に当たるのをくすぐったく思いながら、私はプロポーズの言葉を考えていた。
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