鉢尾

 携帯ショップの前でバルーンアートをやっていた。特段用事がないけれど、なんとなくそれ欲しさに寄ってみた。お兄さんはあっという間に犬を作り上げて私に寄越した。青くて透明な犬は、掴むとギュギュッと音がする。
「で、俺にあげると」
「あげたかったんだよ」
 勘右衛門の家に行くと、梅昆布茶を出された。今どき梅昆布茶て。とろみのついたしょっぱい液体を喉に流し込みながら、それなら羊羹でもあればよかったのにと呟いた。
「マイブームなんだよ。フラペチーノ飲みすぎた反動で」
 青い犬が宙を舞っては床に落ちていく。空を飛べない犬の遊び方は果たしてそれで合っているのか。
「三郎は何かないの? マイブーム」
「……人の鼻唄を横取りすること」
「うわエグ」
 じゃあ試しに、と勘右衛門が奏でだしたのはエレクトリカルパレードだった。試しにで奏でる曲ではないだろう。なんかもっとこう、奪いやすい曲にしろ。
 陽気にパレードを行進させる勘右衛門を目を見つめ、このまま鼻唄を奪わなかったら、コイツは永遠にこのパレードの中に居続けるのだろうか、などと考えた。そのパレードの中には誰がいるだろう。雷蔵、私、兵助、八左ヱ門、勘右衛門。
 勘右衛門の顔がぐっと近づき、ふに、と唇に唇が触れた。私がびっくりしてかたまっていると、勘右衛門はけらけらと笑う。
「俺が奪っちゃったー」
「……このやろう」
 少しだけ梅昆布茶の香り。私が勘右衛門を押し倒すと、勘右衛門は「やめて! 犬が見てる!」と言って青い犬を指さした。私はすっかり力が抜けてしまって、釣られてけらけら笑いだす。
「羊羹買いに行こうよ」
「いいね」
 青い犬、連れて行く? 勘右衛門がそう聞くのに、キスで応えた。いいじゃないか、私たちふたりだけで。犬も満足そうに頷いて、私たちを見守っていた。
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