鉢尾
許して、と乞われたから、有罪有罪、と突き放した。俺の大事なプリンを食べるなんて。
「名前書いといてって」
「二人暮らしで、自分の分じゃなかったら相手のだってわかるだろ」
へにょへにょと崩れる鉢屋に、心が痛まないでもない。けれど俺は怒っているのだ。それを楽しみに今日を頑張ってきたのだから。
「コンビニのプリンじゃないんだぞ、お取り寄せの、ちょっと良いプリンだったんだ」
「同じの買うから」
「限定生産で、もうないんだよ!」
俺がぷりぷりと怒ると、鉢屋は土下座をする。のっぴきならないほど空腹だったそうだが、知ったこっちゃない。それこそひとっ走りコンビニに行って、ファミチキでもななチキでも食べればよかったんだ。
「どのくらいギルティ?」
「俺に触るの禁止くらい」
「そんなあ」
肩を揉みます。お背中流します。足のマッサージだってします。そんなことをブツブツ言うが、だから俺に触れることを許していないんだってば。俺は大きなため息を吐く。
「被告人」
「はい」
「では、俺の好きなところを十個言う罰を与えます」
「私のことがすきなところ」
「……え」
固まるのは、俺のほうだった。てっきり鉢屋が固まるんだと思っていた。恥ずかしいとか何とか言って、顔を逸らしたり真っ赤にしたりすると思ったのだ。
なんでそんなに堂々と見つめるんだよ。そして一個目に言う事がそれかよ。
鉢屋は続けた。食いしん坊なところ、おいしそうに食うところ。笑顔がかわいいところ、声が意外と渋いところ。淀みなくスラスラと出てくるそれらの言葉を聞いていられなくなって、俺は両耳を塞いでわあわあと大声を出した。
「罪状を読み上げたのは裁判官だろ」
「ぎるてぃ、ぎるてぃ」
鉢屋はいつのまにか俺の手首を掴んで、耳から手を離させた。おかげで俺の耳は無防備だ。そのまま彼は俺を押し倒し、後頭部に床があたる。
「だから、俺に触っちゃダメなんだって」
「まだ好きなところ全部言ってない」
私に憧れて密かにペン回しを練習するも失敗し、授業中にデカイ音を響かせてペンを落としまくったこと。マラソンで本気出しすぎて吐きそうになったこと。兵助にテストの点数で負けて豆乳パンケーキを奢ることになっていたこと。ボーリングでフォームは完璧なのにガーターだしたこと。
「それ、ぜんぶカッコ悪いところじゃないか!」
「好きだよ。だいすき」
あと一個言われたら、俺はどうなってしまうのだろうか。ぎるてぃ、ぎるてぃ。俺はなんとか鉢屋の下から這い出て、鉢屋のカバンを指さした。
「コンビニのプリン、奢れよな。それで許してやる」
「残りの一個、聞かなくていいの?」
「いい!」
鉢屋はくすくす笑って、それから、本当にすまなかった、と頭を下げた。あの鉢屋が誠心誠意謝っているのだから、許してやろう。だいぶ罪も償ったし。
俺たちは夜のコンビニへ繰り出した。街はまだにぎやかだ。視界を横切る大半の人の服が半袖になっており、夏、到来、という気分になる。夜風はまだ涼しいけれど。
結局ファミチキも買っている鉢屋と、ビニール袋をはんぶんこして歩く。ガサガサ言うそれに歩くリズムを合わせていると、鉢屋はまたにへらっと笑った。
「好きなとこ、十個じゃ足りない」
帰ったら一緒に風呂に入るんだろう。そしたら背中を流させてやる。泡の向こうで、俺も鉢屋に言ってやるんだ。鉢屋の好きなところ、十一個。
「負けないからな」
「のぞむところだ」
通りすがりの女性二人に、あ、カップルだ、ちくしょーと言われた。ちくしょーなのか。
「カップルだってさ」
そう言って笑った鉢屋に、なんだよ、罪人のくせに、と笑い返してやった。ぎるてぃなものは、ぎるてぃなのだ。
「名前書いといてって」
「二人暮らしで、自分の分じゃなかったら相手のだってわかるだろ」
へにょへにょと崩れる鉢屋に、心が痛まないでもない。けれど俺は怒っているのだ。それを楽しみに今日を頑張ってきたのだから。
「コンビニのプリンじゃないんだぞ、お取り寄せの、ちょっと良いプリンだったんだ」
「同じの買うから」
「限定生産で、もうないんだよ!」
俺がぷりぷりと怒ると、鉢屋は土下座をする。のっぴきならないほど空腹だったそうだが、知ったこっちゃない。それこそひとっ走りコンビニに行って、ファミチキでもななチキでも食べればよかったんだ。
「どのくらいギルティ?」
「俺に触るの禁止くらい」
「そんなあ」
肩を揉みます。お背中流します。足のマッサージだってします。そんなことをブツブツ言うが、だから俺に触れることを許していないんだってば。俺は大きなため息を吐く。
「被告人」
「はい」
「では、俺の好きなところを十個言う罰を与えます」
「私のことがすきなところ」
「……え」
固まるのは、俺のほうだった。てっきり鉢屋が固まるんだと思っていた。恥ずかしいとか何とか言って、顔を逸らしたり真っ赤にしたりすると思ったのだ。
なんでそんなに堂々と見つめるんだよ。そして一個目に言う事がそれかよ。
鉢屋は続けた。食いしん坊なところ、おいしそうに食うところ。笑顔がかわいいところ、声が意外と渋いところ。淀みなくスラスラと出てくるそれらの言葉を聞いていられなくなって、俺は両耳を塞いでわあわあと大声を出した。
「罪状を読み上げたのは裁判官だろ」
「ぎるてぃ、ぎるてぃ」
鉢屋はいつのまにか俺の手首を掴んで、耳から手を離させた。おかげで俺の耳は無防備だ。そのまま彼は俺を押し倒し、後頭部に床があたる。
「だから、俺に触っちゃダメなんだって」
「まだ好きなところ全部言ってない」
私に憧れて密かにペン回しを練習するも失敗し、授業中にデカイ音を響かせてペンを落としまくったこと。マラソンで本気出しすぎて吐きそうになったこと。兵助にテストの点数で負けて豆乳パンケーキを奢ることになっていたこと。ボーリングでフォームは完璧なのにガーターだしたこと。
「それ、ぜんぶカッコ悪いところじゃないか!」
「好きだよ。だいすき」
あと一個言われたら、俺はどうなってしまうのだろうか。ぎるてぃ、ぎるてぃ。俺はなんとか鉢屋の下から這い出て、鉢屋のカバンを指さした。
「コンビニのプリン、奢れよな。それで許してやる」
「残りの一個、聞かなくていいの?」
「いい!」
鉢屋はくすくす笑って、それから、本当にすまなかった、と頭を下げた。あの鉢屋が誠心誠意謝っているのだから、許してやろう。だいぶ罪も償ったし。
俺たちは夜のコンビニへ繰り出した。街はまだにぎやかだ。視界を横切る大半の人の服が半袖になっており、夏、到来、という気分になる。夜風はまだ涼しいけれど。
結局ファミチキも買っている鉢屋と、ビニール袋をはんぶんこして歩く。ガサガサ言うそれに歩くリズムを合わせていると、鉢屋はまたにへらっと笑った。
「好きなとこ、十個じゃ足りない」
帰ったら一緒に風呂に入るんだろう。そしたら背中を流させてやる。泡の向こうで、俺も鉢屋に言ってやるんだ。鉢屋の好きなところ、十一個。
「負けないからな」
「のぞむところだ」
通りすがりの女性二人に、あ、カップルだ、ちくしょーと言われた。ちくしょーなのか。
「カップルだってさ」
そう言って笑った鉢屋に、なんだよ、罪人のくせに、と笑い返してやった。ぎるてぃなものは、ぎるてぃなのだ。