鉢尾
何の予定もない日曜日に雨が結構な勢いで降ってるのって何だか虚しい。別に自分は洗濯干しをする訳でないし買い物に行くわけでもないのだが、どんよりした空気が部屋の中を取り巻くような感覚は寂しい気がする。きっと空の色が暗いから、部屋の中もいつもより暗く見えるだけの話なのだ。しかしここで部屋の電気をつけると人工的すぎる白い光が眩しくてたまらないので、まだこのまま窓辺に座っていようと思った。
雨の音は案外落ち着く。家の中から空を見ていると心地よく思うし、雨音に安心する。それと同時に襲ってくる空虚感を防げる程ではないが、かつてこの中につったって物思いに耽るようなことがあったのを思い出し、少し自分に羞恥するような余裕を作ることができる。あの頃の私はガキだった。
暫くぼーっとしていると、1Kの城の玄関のドアノブがうるさく震えた。こんな日に俺様の城に踏み入ろうとする勇猛果敢な勇者はそうとうな勇者だ、と働かない頭で考えながら、怠さの残る左手で鍵を外し勇者を迎え入れた。
「お前さぁ! 雨だと外に出ないとかさぁ! まぁいつものことだけどさぁ!」
勇者は綺麗な茶髪をしっとりとさせて、私に膨らんだスーパーの袋を2つ押し付け勝手にシャワーを浴びに行った。勇者がわざわざこのわたくしめに施し下さったブツは一体なんだろうと袋の中身を広げれば、空っぽの冷蔵庫の中身を満たすべき食料たちで、おぉはるばるよくこの我が城へやってきた、さぁゆっくりくつろげしかしお前たちは二度と外には出られない!! などと遊びながら冷蔵庫へ客人たちを閉じ込めてみた。
「お前いくつだよ」
といつの間にかシャワーを浴びおわった勇者さまにつっこまれ、目撃されていたことの恥ずかしさをごまかすために「えいえんのじゅうろくさい」と答えたら濡れたタオルを投げつけられた。部屋着が濡れたではないか。
「どうせお前のことだからとわざわざこの俺がお買い物してきてやったんですけど?」
ははぁその通りでございます勇者さま。おかげで我が国は安泰を保つことができます。あぁありがたやありがたや。
「お礼くらい言ってほしいんだけど」
「ありがとうだいすきあいしてるここあのむ?」
「のむのむ」
「ちょっと待ってて」
この勇者はこの城の王が雨だと外出しないこと、飢えを覚えるまで冷蔵庫の中身を調達しないこと、そして日曜日に雨が降ると寂しく思うことを全て知っているのだ。分かっていてわざわざ雨の中電車で二駅揺られ、東急ストアで買い物をし、雨に濡れながら大きな袋を抱えて自分のもとへやってきてくれたのだ。
何だか無性に嬉しかった。
「なあ」
「ん」
「やっぱコーヒーがいい」
「お」
「お前が淹れたコーヒーうまいからすき」
「ありがと」
「ブラックでいい」
「ん」
自分の恋人は私がいま口を開くことすらままならない程に嬉しさを噛み締めて泣きそうになっていることも、人工的な光を嫌っていることも知っている。
だから簡単な会話を交わしたあとも、少し暗めの照明をつけただけで、この1Kは沈黙で満たされる。
「勘右衛門」
「ん」
「ありがと」
「ん」
コーヒーの香りに包まれて思った。世界中の誰よりも、この目の前にいる人が愛しい。
雨の降る日曜日はやはり感傷的になっていけない。
雨の音は案外落ち着く。家の中から空を見ていると心地よく思うし、雨音に安心する。それと同時に襲ってくる空虚感を防げる程ではないが、かつてこの中につったって物思いに耽るようなことがあったのを思い出し、少し自分に羞恥するような余裕を作ることができる。あの頃の私はガキだった。
暫くぼーっとしていると、1Kの城の玄関のドアノブがうるさく震えた。こんな日に俺様の城に踏み入ろうとする勇猛果敢な勇者はそうとうな勇者だ、と働かない頭で考えながら、怠さの残る左手で鍵を外し勇者を迎え入れた。
「お前さぁ! 雨だと外に出ないとかさぁ! まぁいつものことだけどさぁ!」
勇者は綺麗な茶髪をしっとりとさせて、私に膨らんだスーパーの袋を2つ押し付け勝手にシャワーを浴びに行った。勇者がわざわざこのわたくしめに施し下さったブツは一体なんだろうと袋の中身を広げれば、空っぽの冷蔵庫の中身を満たすべき食料たちで、おぉはるばるよくこの我が城へやってきた、さぁゆっくりくつろげしかしお前たちは二度と外には出られない!! などと遊びながら冷蔵庫へ客人たちを閉じ込めてみた。
「お前いくつだよ」
といつの間にかシャワーを浴びおわった勇者さまにつっこまれ、目撃されていたことの恥ずかしさをごまかすために「えいえんのじゅうろくさい」と答えたら濡れたタオルを投げつけられた。部屋着が濡れたではないか。
「どうせお前のことだからとわざわざこの俺がお買い物してきてやったんですけど?」
ははぁその通りでございます勇者さま。おかげで我が国は安泰を保つことができます。あぁありがたやありがたや。
「お礼くらい言ってほしいんだけど」
「ありがとうだいすきあいしてるここあのむ?」
「のむのむ」
「ちょっと待ってて」
この勇者はこの城の王が雨だと外出しないこと、飢えを覚えるまで冷蔵庫の中身を調達しないこと、そして日曜日に雨が降ると寂しく思うことを全て知っているのだ。分かっていてわざわざ雨の中電車で二駅揺られ、東急ストアで買い物をし、雨に濡れながら大きな袋を抱えて自分のもとへやってきてくれたのだ。
何だか無性に嬉しかった。
「なあ」
「ん」
「やっぱコーヒーがいい」
「お」
「お前が淹れたコーヒーうまいからすき」
「ありがと」
「ブラックでいい」
「ん」
自分の恋人は私がいま口を開くことすらままならない程に嬉しさを噛み締めて泣きそうになっていることも、人工的な光を嫌っていることも知っている。
だから簡単な会話を交わしたあとも、少し暗めの照明をつけただけで、この1Kは沈黙で満たされる。
「勘右衛門」
「ん」
「ありがと」
「ん」
コーヒーの香りに包まれて思った。世界中の誰よりも、この目の前にいる人が愛しい。
雨の降る日曜日はやはり感傷的になっていけない。