鉢尾

 二年前の卓上カレンダーが出てきた。三郎が家に遊びに来るというので仕方なく掃除をしていたら、たまたま目についたのだった。うわ、なつかし、とひとりごちながらパラパラと捲っていると、小さな丸のマークを見つけた。月に一回、あるかないか。なんのマークだったか。それ以外は特に目立った書き込みもなかったので、紙の部分と立てかける部分をそれぞれ分別して捨てた。
「生理じゃなくて?」
「ぶちのめすぞ」
 遊びに来た三郎にその話をしたら第一声がそれだったので、俺は彼の分のお煎餅を頬張った。仮に俺が女子だったとしてもその質問の仕方はデリカシーに欠けるだろう。
「ごめんごめん。でも本当に、あれじゃない? イタシタ日」
「……イタシタヒ」
「二年前って、私たち付き合った頃だろう? 月に一回するかしないかじゃなかった?」
 ――そうかもしれない。俺は三郎と付き合えたのが嬉しくて、肌を重ねるまでになれたのが嬉しくて、繋がれるのが嬉しくて。スケジュール帳はスマホのアプリを使っているから、何かに書き残しておきたくて、卓上カレンダーにそっと記していたのだっけ。
 だとしたら、恥ずかしすぎる。俺はなんてことを三郎に告白してしまったのか。三郎を見るとやっぱりニヤつき全開で、ああこんなこと打ち明けなければよかったと遅い後悔をした。
「勘ちゃんのすーけべ」
「うるさい! 三郎のえっち!!」
 クッションを三郎に投げつけるとひょいとかわされてしまった。無防備になった俺は三郎に抱き着くことしか出来なかった。他に何の攻撃手段もなかった。
「くらえー」
「わあー」
 三郎は無様にも俺に倒されて、けらけらと笑っている。俺は悪魔を倒した勇者の証として三郎の腹から剣を抜く。おお、と村人が湧きたつ。村人というのはテレビやら冷蔵庫やらのことを指す。
「勘右衛門さまー! きゃー!」
「ひかえおろう、ひかえおろう」
「それは何か違くない?」
 倒された悪魔は俺を抱き寄せて、頬に噛みついた。こいつはしばしば俺の頬を食い物だと勘違いすることがある。よく言って聞かせねばならない。痛いんだよ歯って。
「勘ちゃん。食べたい」
「……すけべ」
「かーんちゃん」
「……めしあがれ」
 俺の尖らせた唇をぺろりと舐め上げた三郎は「いただきます」と唱えた。勇者の次はまな板の上の鯉になってしまった。めくるめく変身をとげた俺は、仕返しに三郎の耳に噛みついた。復活した悪魔の耳は赤く染まっていた。あとで退治しておかないと。
 三郎が勝手に今日の卓上カレンダーに小さく丸をつけていたことに気付くのは、それから三日経ってからだった。俺はムキ―と叫んだ。
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