夢短編
かなめ
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なぜ私は女性なのか。腹痛を耐えているだなんて決して悟られてはいけない。涼しい顔をして木の茂みに身を潜めていた。
忍務と穢れの期間が重なると、これだから嫌だ。日頃どれだけ体調に気をつけていても、月に一度、どうしても血が流れる。この期間は色の忍務も引き受けられない。とんだハンデだ。きりきりと痛む下腹部を押さえながら、近くの茂みに潜む文次郎に矢羽音を飛ばす。
「どうする? あと少し探る?」
「いや、一旦引くぞ。すでに充分な情報を得た」
私たちは合図をしてその場を去った。山を一つ越えた先の泉のほとりまで、一息。痛みに気づかないように、知らないふりをして木々の間を飛ぶ。冷や汗が背中を伝い、吐き気が喉に迫る。
「かなめ。一度止まれ」
「え」
何か問題があったのかと立ち止まり、文次郎の元へ近寄った。一晩かければ忍術学園に帰れるのに、わざわざ野宿を? 別にいいけれど。
「お前、体調が悪いだろう。もう情報収集は終わったのだから、無理をするな」
「え、な、なんで?」
「……その。血の匂いが」
「……っ」
恥ずかしい、匂いなんて一番残しちゃいけないのに。顔が真っ赤になるのを感じながら、意味もなく「ごめん」と謝ってしまった。
「謝るな。何も悪いことはしていないだろう」
ここで少し休んでいこう、と文次郎は言い、さっと木々の間に縄を張ってくれた。あとは布を被せて寝床の完成だ。地面はひんやりとしていて腰が冷えるが仕方ない。
ひと心地つくと、途端に具合が悪くなる。貧血だろうか、頭がくらくらして、私はへたりこんでしまった。
「……大丈夫か」
「休めば大丈夫よ」
「眠れそうか」
文次郎は一瞬手を彷徨わせたのち、私の背中をさすってくれた。いつもなら払いのけるソレが、今だけはとても心地よい。
「……本当なら、見捨てなきゃだめよ。手負いの女なんて」
「バカタレ。無事に帰ってこその忍務だろう」
手の温かさに安心して気が抜けたのか、痛みがどっと襲ってくる。うずくまる私を、文次郎はずっとさすってくれた。
「男にはわからん痛みを抱えている仲間を、放っておけるか」
仲間。その言葉が心強かった。私は文次郎の方に身体を傾ける。
今だけ。今だけ、少し甘えさせて。
文次郎は多少動揺していたけれど、背中をさする手は止めなかった。そのお人良しさ、いつか命取りになるよ。あなたは優しいから、傷ついた味方をきっとかばう。……伊作もか。まったく、危なっかしいな、同期の忍たまたちは。
「少し眠れ。見張っててやるから」
私より大きな、男の人の手。伝わる温もりに安心して眠気がやってくる。
ありがとうと言おうとして、私は微睡に落ちてしまった。低い、優しい声色で、おやすみという言葉が降ってきた頃には、私は意識を手放していた。
忍務と穢れの期間が重なると、これだから嫌だ。日頃どれだけ体調に気をつけていても、月に一度、どうしても血が流れる。この期間は色の忍務も引き受けられない。とんだハンデだ。きりきりと痛む下腹部を押さえながら、近くの茂みに潜む文次郎に矢羽音を飛ばす。
「どうする? あと少し探る?」
「いや、一旦引くぞ。すでに充分な情報を得た」
私たちは合図をしてその場を去った。山を一つ越えた先の泉のほとりまで、一息。痛みに気づかないように、知らないふりをして木々の間を飛ぶ。冷や汗が背中を伝い、吐き気が喉に迫る。
「かなめ。一度止まれ」
「え」
何か問題があったのかと立ち止まり、文次郎の元へ近寄った。一晩かければ忍術学園に帰れるのに、わざわざ野宿を? 別にいいけれど。
「お前、体調が悪いだろう。もう情報収集は終わったのだから、無理をするな」
「え、な、なんで?」
「……その。血の匂いが」
「……っ」
恥ずかしい、匂いなんて一番残しちゃいけないのに。顔が真っ赤になるのを感じながら、意味もなく「ごめん」と謝ってしまった。
「謝るな。何も悪いことはしていないだろう」
ここで少し休んでいこう、と文次郎は言い、さっと木々の間に縄を張ってくれた。あとは布を被せて寝床の完成だ。地面はひんやりとしていて腰が冷えるが仕方ない。
ひと心地つくと、途端に具合が悪くなる。貧血だろうか、頭がくらくらして、私はへたりこんでしまった。
「……大丈夫か」
「休めば大丈夫よ」
「眠れそうか」
文次郎は一瞬手を彷徨わせたのち、私の背中をさすってくれた。いつもなら払いのけるソレが、今だけはとても心地よい。
「……本当なら、見捨てなきゃだめよ。手負いの女なんて」
「バカタレ。無事に帰ってこその忍務だろう」
手の温かさに安心して気が抜けたのか、痛みがどっと襲ってくる。うずくまる私を、文次郎はずっとさすってくれた。
「男にはわからん痛みを抱えている仲間を、放っておけるか」
仲間。その言葉が心強かった。私は文次郎の方に身体を傾ける。
今だけ。今だけ、少し甘えさせて。
文次郎は多少動揺していたけれど、背中をさする手は止めなかった。そのお人良しさ、いつか命取りになるよ。あなたは優しいから、傷ついた味方をきっとかばう。……伊作もか。まったく、危なっかしいな、同期の忍たまたちは。
「少し眠れ。見張っててやるから」
私より大きな、男の人の手。伝わる温もりに安心して眠気がやってくる。
ありがとうと言おうとして、私は微睡に落ちてしまった。低い、優しい声色で、おやすみという言葉が降ってきた頃には、私は意識を手放していた。