夢短編
かなめ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
頭痛が止まないから一刻も早く薬を飲みたいのに、目の前の男がそれを許してくれない。
月のものではないけれど、今日は雨だ。低気圧による片頭痛だと思う。こんなもの薬で対処できる範疇なのに、私がピルケースに手を伸ばそうとするたび、鉢屋はそれを制してくる。
「私以外の物体が、きみの身体を侵食するのが嫌だ」
鉢屋の家に閉じ込められて、もう四日になる。着替えは鉢屋のだぼだぼの服を与えられており、ぱんつだけコンビニで買い足した。ご飯にも風呂にもトイレにも困っていない。性交渉の要求もない。ただ、閉じ込められている。水のような檻の中で、ごぼごぼと息をしている。
鉢屋が私のスマホをどこかに隠してしまったから、親にも友達にも先生にも連絡が出来ない。今頃捜索届けとか出されてるんだろうか。警察沙汰になっていたらと思うと怖い。私は叱られることが大嫌いだ。生きていることを否定される気がしてしまう。
だから鉢屋のことを好きになったのだ。鉢屋は不破に執着しているから、そのほかの人間関係がどうでもいいんだと感じた。私のさまざまな欠点も気にせず、表面上だけ見てもらえればそれでよかった。私のことを叱りもしないし、責めもしない。適当に相槌をうっては、不破の話を楽しそうにする。それでよかった。それがよかった。
「おうちに帰りたい」
「ここがきみのおうちだよ」
鉢屋はこともなげにそう言う。ダメ元で言ったから、まあそうだよねと納得するほかなかった。悲しみも湧かない。本当は特に家に帰りたくもなかった。
「そもそも、きみ、家族の悪口ばかり言ってたじゃないか」
「思春期、反抗期」
「親のことが嫌いで、私のことが好きなら、今の現状を喜ぶべきだ」
「……歪んでるよ」
「いまさら」
鉢屋がゆっくりと私の頭を撫でた。ずきずきと痛む頭に、生ぬるい温もりが広がる。
嬉しいはずなのに、嬉しくなかった。
「鉢屋は私のことが好きなの?」
「好きだよ。だいすきだ」
にっこりと笑う彼の笑顔の、どこを信じればいいのかわからなかった。
いつか警察がやってきて、この生活が終わる日がくると信じてみても、じゃあ鉢屋と私の歪んだ恋心はどう昇華できるのかというところまで、想像ができない。だって鉢屋が逮捕されて、私が事情聴取されて解放されて、そこから先は? 鉢屋ともう会えなくなって、私は居心地の悪い家に帰らされて、それで何の事態が好転するの? 頭痛が増す。薬を飲めない代わりに水を飲む。
「鉢屋はセックスしなくていいの?」
「きみに嫌われたくない」
私が誰とでも寝ること、知ってるくせに。私に身体の価値をなくしたら、何が残るのかもわからない。鉢屋はいったい私のどこを好きなんだろう。
「……もう寝る」
「うん。おやすみ」
何の拘束もされずに、用意された布団に入る。眠れたり、眠れなかったりする。夜中に泣いていると、鉢屋はそっと隣に寝そべって頭を撫でてくれる。私は泣きながら眠る。
朝陽ってなんで昇ってくるんだろう。私一人いなくても街が廻っていることが恐ろしい。鉢屋が私を抱きしめる。「だいすきだよ」と言って。
ただ、閉じ込められている。水のような檻の中で、ごぼごぼと息をしている。いつか全て溶けてしまうだろうか。溶けてしまえたら、楽だろうか。
月のものではないけれど、今日は雨だ。低気圧による片頭痛だと思う。こんなもの薬で対処できる範疇なのに、私がピルケースに手を伸ばそうとするたび、鉢屋はそれを制してくる。
「私以外の物体が、きみの身体を侵食するのが嫌だ」
鉢屋の家に閉じ込められて、もう四日になる。着替えは鉢屋のだぼだぼの服を与えられており、ぱんつだけコンビニで買い足した。ご飯にも風呂にもトイレにも困っていない。性交渉の要求もない。ただ、閉じ込められている。水のような檻の中で、ごぼごぼと息をしている。
鉢屋が私のスマホをどこかに隠してしまったから、親にも友達にも先生にも連絡が出来ない。今頃捜索届けとか出されてるんだろうか。警察沙汰になっていたらと思うと怖い。私は叱られることが大嫌いだ。生きていることを否定される気がしてしまう。
だから鉢屋のことを好きになったのだ。鉢屋は不破に執着しているから、そのほかの人間関係がどうでもいいんだと感じた。私のさまざまな欠点も気にせず、表面上だけ見てもらえればそれでよかった。私のことを叱りもしないし、責めもしない。適当に相槌をうっては、不破の話を楽しそうにする。それでよかった。それがよかった。
「おうちに帰りたい」
「ここがきみのおうちだよ」
鉢屋はこともなげにそう言う。ダメ元で言ったから、まあそうだよねと納得するほかなかった。悲しみも湧かない。本当は特に家に帰りたくもなかった。
「そもそも、きみ、家族の悪口ばかり言ってたじゃないか」
「思春期、反抗期」
「親のことが嫌いで、私のことが好きなら、今の現状を喜ぶべきだ」
「……歪んでるよ」
「いまさら」
鉢屋がゆっくりと私の頭を撫でた。ずきずきと痛む頭に、生ぬるい温もりが広がる。
嬉しいはずなのに、嬉しくなかった。
「鉢屋は私のことが好きなの?」
「好きだよ。だいすきだ」
にっこりと笑う彼の笑顔の、どこを信じればいいのかわからなかった。
いつか警察がやってきて、この生活が終わる日がくると信じてみても、じゃあ鉢屋と私の歪んだ恋心はどう昇華できるのかというところまで、想像ができない。だって鉢屋が逮捕されて、私が事情聴取されて解放されて、そこから先は? 鉢屋ともう会えなくなって、私は居心地の悪い家に帰らされて、それで何の事態が好転するの? 頭痛が増す。薬を飲めない代わりに水を飲む。
「鉢屋はセックスしなくていいの?」
「きみに嫌われたくない」
私が誰とでも寝ること、知ってるくせに。私に身体の価値をなくしたら、何が残るのかもわからない。鉢屋はいったい私のどこを好きなんだろう。
「……もう寝る」
「うん。おやすみ」
何の拘束もされずに、用意された布団に入る。眠れたり、眠れなかったりする。夜中に泣いていると、鉢屋はそっと隣に寝そべって頭を撫でてくれる。私は泣きながら眠る。
朝陽ってなんで昇ってくるんだろう。私一人いなくても街が廻っていることが恐ろしい。鉢屋が私を抱きしめる。「だいすきだよ」と言って。
ただ、閉じ込められている。水のような檻の中で、ごぼごぼと息をしている。いつか全て溶けてしまうだろうか。溶けてしまえたら、楽だろうか。