夢短編
かなめ
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男の癖にまつ毛が長いってなんなの? と憤慨してみても、目の前の久々知兵助はまばたきをするだけだ。ぱさぱさとまつ毛の羽ばたく音すら聞こえてきそうで、私はまた憤慨する。
「男の癖に、っていうのは、今の時代ナンセンスなんじゃないかな」
「きみにナンセンスとか言われたくない」
センスとかナンセンスとかの話になってくると、豆腐の話になりそうだから避けたい。私はまつ毛の話がしたいのだ!
「まつ毛美容液を塗って寝て、化粧をする時にホットビューラーで持ち上げて、下地を塗って、マスカラをして梳かすんだよ。きみ、そんなことしたことないでしょう。そんなことしなくてもそのバサバサまつ毛なんでしょう」
美容液の種類にも、マスカラの種類にも、悩んだことがない人生。羨ましいったらありゃしない。私はポーチからティントリップを取り出して、唇に乗せる。久々知の前で、わざわざ化粧直しにトイレに立つだなんていう可愛げはもう持ち合わせていない。
「かなめはかわいいよ」
「なんの慰めにもならないの」
かつてあんなに憧れた、かわいいという言葉。欲しくて欲しくてたまらなかったはずなのに、最近は空しくてしょうがない。私はこんなにお金をかけて、いったいどこに行きたいんだろう。
「俺がかなめのこと、かわいいって思ってるのに」
「きみの方が世間では美人なんだよね、皮肉なことに」
こんな言葉を言ってしまう私、なんにもかわいくない。こんなことなら素直に豆腐の話でもしていればよかった、たとえば卵豆腐のやわらかさについてだとか――
頬に影が落ちて、見上げると久々知の顔が近くにあった。唇のやわらかさ、吐息の熱さ、私は驚いてかたまる。
「うわ、これベタベタする」
そりゃあ、ティント塗りたてだからね。久々知の唇がほんのりピンクに染まってしまった。どうしよう、私の責任だ。
「あのさ。その、きみって言うの、やめてほしいんだ」
まつ毛が長いうえに、ピンクになってしまったぷるぷるの唇。久々知を見ていると、どうしても私は泣き出したくなってしまう。
かわいくなりたい。かわいくなりたい。
「ね、かなめはかわいいよ」
「ばか」
「俺、かなめのこと好きだよ」
「久々知のばか」
誰よりもかわいいと思ってもらいたかった男を手に入れた途端、私の世界はからっぽになってしまった。私より長いまつ毛が、私にもう一度迫ってくる。ああ、羽ばたきの音が聞こえる。
「かわいい」
久々知なんて薔薇の蕾にでも生まれ変わればいいんだ。
「男の癖に、っていうのは、今の時代ナンセンスなんじゃないかな」
「きみにナンセンスとか言われたくない」
センスとかナンセンスとかの話になってくると、豆腐の話になりそうだから避けたい。私はまつ毛の話がしたいのだ!
「まつ毛美容液を塗って寝て、化粧をする時にホットビューラーで持ち上げて、下地を塗って、マスカラをして梳かすんだよ。きみ、そんなことしたことないでしょう。そんなことしなくてもそのバサバサまつ毛なんでしょう」
美容液の種類にも、マスカラの種類にも、悩んだことがない人生。羨ましいったらありゃしない。私はポーチからティントリップを取り出して、唇に乗せる。久々知の前で、わざわざ化粧直しにトイレに立つだなんていう可愛げはもう持ち合わせていない。
「かなめはかわいいよ」
「なんの慰めにもならないの」
かつてあんなに憧れた、かわいいという言葉。欲しくて欲しくてたまらなかったはずなのに、最近は空しくてしょうがない。私はこんなにお金をかけて、いったいどこに行きたいんだろう。
「俺がかなめのこと、かわいいって思ってるのに」
「きみの方が世間では美人なんだよね、皮肉なことに」
こんな言葉を言ってしまう私、なんにもかわいくない。こんなことなら素直に豆腐の話でもしていればよかった、たとえば卵豆腐のやわらかさについてだとか――
頬に影が落ちて、見上げると久々知の顔が近くにあった。唇のやわらかさ、吐息の熱さ、私は驚いてかたまる。
「うわ、これベタベタする」
そりゃあ、ティント塗りたてだからね。久々知の唇がほんのりピンクに染まってしまった。どうしよう、私の責任だ。
「あのさ。その、きみって言うの、やめてほしいんだ」
まつ毛が長いうえに、ピンクになってしまったぷるぷるの唇。久々知を見ていると、どうしても私は泣き出したくなってしまう。
かわいくなりたい。かわいくなりたい。
「ね、かなめはかわいいよ」
「ばか」
「俺、かなめのこと好きだよ」
「久々知のばか」
誰よりもかわいいと思ってもらいたかった男を手に入れた途端、私の世界はからっぽになってしまった。私より長いまつ毛が、私にもう一度迫ってくる。ああ、羽ばたきの音が聞こえる。
「かわいい」
久々知なんて薔薇の蕾にでも生まれ変わればいいんだ。