夢短編
かなめ
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死ぬにも金がかかる。
家の中で死ぬなら、首をくくるロープなり、練炭なりを買わなきゃいけない。毒を食らうか浴びるかするにも知識が必要だ。
排気ガスを吸うのは汚いから嫌、高いところから飛び降りるのは下にいる人を巻き込むと申し訳ないから嫌。車にも電車にも轢かれたら後処理が大変そう。
なんて我儘な希死念慮。
私は泣きながらLINEの画面を開いて、久々知とのメッセージを読み返す。当たり障りのなり豆腐の話をしたのち、私がPMSで激昂し、突然連絡を絶っている。
向こうからしたら、「いつものこと」なんだろう。だから何も追撃しないし、放っておいてくれている。
「ごめん」
それだけ送って、スマホを放った。服も着られないのに、充電だけはしているのが可笑しかった。冷蔵庫の電源をつけている意味がなかった。ふらふらと立ち上がって、コップに水道水を汲む。心は死にたがっているのに、身体は生きようとしている。
スマホが振動している。頭が働かないので、振動している、という認識だけする。何故振動しているのかまではわからない。抗うつ剤の悪いところだと思う、靄がかかって、低空飛行になる感じ。沈み切らない代わりに、もがいてももがいても先が見えない。
スマホに手を伸ばし、表示されているボタンを適当に押すと、久々知の声が聞こえた。聞こえてから、ああなんだ電話がきていたのかと理解する。
「いまどこ?」
「家だけど」
「だけど、じゃないよ、心配したんだよ」
「……うん」
「行くから、せめて服着てて。カギあけて、変な気起こさないこと」
それだけ一方的に言われると、電話が切られた。部屋に虚空が戻ってきて、ああ、服さえ着れば私は人間になれるのだ、と考えた。
のろのろとぱんつを履き、ブラトップとTシャツを着る。その辺に落ちていたハーフパンツを履いて、その足で玄関の鍵を開けた。このままどこかに行こうという気は起こさなかった。靴を履く力までは残っていなかったので。
二杯目の水道水を飲み干して、やっと思考が戻ってきはじめた。その結果、「このままではいけない」ということに気付く。私はのろのろと歯を磨き、顔を洗い、窓を開けて換気をする。がりがりに痩せた手首は白かった。
「かなめ」
ドアを開けながら、久々知が叫ぶ。叫ばなくたって聞こえてるよ。わたしは振り返って声を出そうとしたけれど、がさがさの小さい声しか出せなかった。
「食べれてる?」
「……なにを?」
「だめだこりゃ」
久々知が両手にぶら下げていたビニール袋から、ポカリやらヨーグルトやらが零れ落ちていくのを見ていたが、その中にはやはりというか、豆腐が入っていた。私が笑ったのを見逃さなかった久々知が、なんだよ、と呟く。
「胃に優しいんだよ、豆腐は。湯豆腐とか、作ってやろうと思ったんだよ」
「……ありがとうね」
冷蔵庫の電源を切らないでいてよかった。一通り食品を仕舞い終えると、久々知は私に向かい直る。
「さて。風呂は入っていますか」
「……いいえ」
「だろうね」
「くさい?」
「少し。入れそう?」
「……むりそう」
久々知が溜息を吐くのを見て、私は「一緒にはいる?」ときいてみた。自分でも自分が何を言っているのかわからなかった。
「……男だよ、俺も」
「うん、でも、久々知だよ」
「……かなめがいいなら、いいけど」
久々知は私の服に手をかけて、ゆっくりと脱がしていった。久々知とセックスはしたことないのに、それはセックスをする時よりもだいぶ丁寧なんだろうな、と思いながら、裸になる。しなびた胸が露になったが、胸を見られたことよりも、しなびていることのほうが恥ずかしかった。
久々知も裸になった。健康的な、引き締まった、美しい身体。彼の肌に触れると冷たかった。冷たい腕や胸に触れていると、いくよ、と浴室へ手を引かれる。
風呂場でお互いにシャワーをかけあった。お湯を溜めながら髪を洗ってもらった時、私が欲しかった優しさというのはこういうことなのだ、と思って、泣いてしまった。久々知はそれに気が付かない振りをして、お湯で流してくれる。久々知の手はどこまでもやさしくて、いやらしさを感じなかった。
狭い湯舟に浸かって、ふう、と深呼吸をしてみると、最近深呼吸をしていなかったことに気付いた。久々知は私の右手をにぎって、湯の中で揉みしだく。
「ありきたりなことしか言えないなあ。かなめは一人じゃないんだよ」
「知ってるんだよなあ。知っている上で、鬱なんだよ」
ばしゃ、と顔に水をかけられて、慌てて酸素を求めて顔を擦っていると、久々知はからからと笑いながら「出るよ」と言った。しなしなのバスタオルで身体を拭いてもらった時に、残りの人生を金に換えられるなら久々知にあげたい、と思った。
久々知は上裸のまま湯豆腐を作った。おかゆじゃないんだ。私はまた泣きながら笑って、なんとか一命を取り留める。
家の中で死ぬなら、首をくくるロープなり、練炭なりを買わなきゃいけない。毒を食らうか浴びるかするにも知識が必要だ。
排気ガスを吸うのは汚いから嫌、高いところから飛び降りるのは下にいる人を巻き込むと申し訳ないから嫌。車にも電車にも轢かれたら後処理が大変そう。
なんて我儘な希死念慮。
私は泣きながらLINEの画面を開いて、久々知とのメッセージを読み返す。当たり障りのなり豆腐の話をしたのち、私がPMSで激昂し、突然連絡を絶っている。
向こうからしたら、「いつものこと」なんだろう。だから何も追撃しないし、放っておいてくれている。
「ごめん」
それだけ送って、スマホを放った。服も着られないのに、充電だけはしているのが可笑しかった。冷蔵庫の電源をつけている意味がなかった。ふらふらと立ち上がって、コップに水道水を汲む。心は死にたがっているのに、身体は生きようとしている。
スマホが振動している。頭が働かないので、振動している、という認識だけする。何故振動しているのかまではわからない。抗うつ剤の悪いところだと思う、靄がかかって、低空飛行になる感じ。沈み切らない代わりに、もがいてももがいても先が見えない。
スマホに手を伸ばし、表示されているボタンを適当に押すと、久々知の声が聞こえた。聞こえてから、ああなんだ電話がきていたのかと理解する。
「いまどこ?」
「家だけど」
「だけど、じゃないよ、心配したんだよ」
「……うん」
「行くから、せめて服着てて。カギあけて、変な気起こさないこと」
それだけ一方的に言われると、電話が切られた。部屋に虚空が戻ってきて、ああ、服さえ着れば私は人間になれるのだ、と考えた。
のろのろとぱんつを履き、ブラトップとTシャツを着る。その辺に落ちていたハーフパンツを履いて、その足で玄関の鍵を開けた。このままどこかに行こうという気は起こさなかった。靴を履く力までは残っていなかったので。
二杯目の水道水を飲み干して、やっと思考が戻ってきはじめた。その結果、「このままではいけない」ということに気付く。私はのろのろと歯を磨き、顔を洗い、窓を開けて換気をする。がりがりに痩せた手首は白かった。
「かなめ」
ドアを開けながら、久々知が叫ぶ。叫ばなくたって聞こえてるよ。わたしは振り返って声を出そうとしたけれど、がさがさの小さい声しか出せなかった。
「食べれてる?」
「……なにを?」
「だめだこりゃ」
久々知が両手にぶら下げていたビニール袋から、ポカリやらヨーグルトやらが零れ落ちていくのを見ていたが、その中にはやはりというか、豆腐が入っていた。私が笑ったのを見逃さなかった久々知が、なんだよ、と呟く。
「胃に優しいんだよ、豆腐は。湯豆腐とか、作ってやろうと思ったんだよ」
「……ありがとうね」
冷蔵庫の電源を切らないでいてよかった。一通り食品を仕舞い終えると、久々知は私に向かい直る。
「さて。風呂は入っていますか」
「……いいえ」
「だろうね」
「くさい?」
「少し。入れそう?」
「……むりそう」
久々知が溜息を吐くのを見て、私は「一緒にはいる?」ときいてみた。自分でも自分が何を言っているのかわからなかった。
「……男だよ、俺も」
「うん、でも、久々知だよ」
「……かなめがいいなら、いいけど」
久々知は私の服に手をかけて、ゆっくりと脱がしていった。久々知とセックスはしたことないのに、それはセックスをする時よりもだいぶ丁寧なんだろうな、と思いながら、裸になる。しなびた胸が露になったが、胸を見られたことよりも、しなびていることのほうが恥ずかしかった。
久々知も裸になった。健康的な、引き締まった、美しい身体。彼の肌に触れると冷たかった。冷たい腕や胸に触れていると、いくよ、と浴室へ手を引かれる。
風呂場でお互いにシャワーをかけあった。お湯を溜めながら髪を洗ってもらった時、私が欲しかった優しさというのはこういうことなのだ、と思って、泣いてしまった。久々知はそれに気が付かない振りをして、お湯で流してくれる。久々知の手はどこまでもやさしくて、いやらしさを感じなかった。
狭い湯舟に浸かって、ふう、と深呼吸をしてみると、最近深呼吸をしていなかったことに気付いた。久々知は私の右手をにぎって、湯の中で揉みしだく。
「ありきたりなことしか言えないなあ。かなめは一人じゃないんだよ」
「知ってるんだよなあ。知っている上で、鬱なんだよ」
ばしゃ、と顔に水をかけられて、慌てて酸素を求めて顔を擦っていると、久々知はからからと笑いながら「出るよ」と言った。しなしなのバスタオルで身体を拭いてもらった時に、残りの人生を金に換えられるなら久々知にあげたい、と思った。
久々知は上裸のまま湯豆腐を作った。おかゆじゃないんだ。私はまた泣きながら笑って、なんとか一命を取り留める。