夢短編
かなめ
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以前、べーあやにオナモミをくっつけたらヘッドロックをかけられたことがある。それ以来私たちは宿敵だ。
体育の授業前、べーあやが私の首筋にひんやりとした手を突っ込んできて、あわや私をショック死させようとしてきたので、今は私がブチ切れているところです。
「お前の机の中にカニクリーム入りコロッケの中身だけを詰め込んでやろうか」
「それはただのカニクリームだよ」
「教科書とかべしょべしょにしてやる」
「そしたら僕はお前の上履きの中にウズラの卵詰めるけど」
「この鬼畜メガネが……」
「メガネじゃないんだけど……」
ため息をつきながら、べーあやは私に「おすわり、お手」とほざく。体育教師は倫理的にそれを叱った。そりゃそうだ。倫理的に叱られろお前は。噛みついてやろうか、私は犬歯が鋭い。
体育の授業をサボり倒してチャイムが鳴るのと同時に、私とべーあやは速攻で更衣室に向かった。二人して狙っているのは焼きそばパン。購買ですぐに売り切れてしまう、至極の一品だ。同級生は汗を拭いたり髪を結い直したりしているというのに、私は着替えだけを済ませて、走ってはいけない廊下を走る。
購買に並ぶと、三人前にべーあやがいた。男子更衣室の方が購買に近いのだ。私は思わず大地を轟かす様な舌打ちをして、前に並ぶ人をビビらせてしまった。いけないけない、おしとやかに。廊下を爆速で走っておいてなにを言っているのか。
べーあやは私に気付くと、あっかんべーをして手をひらひらと振ってきやがった。ムキーッ、私は中在家先輩ばりの不気味な笑顔でそれを威嚇する。無事に焼きそばパンを購入したべーあやは、ご丁寧に私が買い終わるのを傍で待っていた。
「てっきり僕で売り切れるかと思ったのに」
「負けてなるものか、この勝負」
「先に並んだのは僕だよ」
「男女共同参画社会基本法」
「1999年」
一緒に並んで教室に帰ろうとすると、女子のひそひそ話が目に付く。私はそれを知らんぷりするけれど、今日は鈍感なべーあやもそれに気付いたようだ。
「なんで僕らを見てひそひそすることがあるんだろう。腕相撲番付でも賭けてるのかな」
「学校で賭けるな。あと腕相撲ならさすがにべーあやが勝つでしょう」
「じゃあ一体なんで?」
「……あんたは人気があるのよ。自覚ないかもだけど」
私はおでん柄のハンカチで額の汗を拭きながら、何も気にしていない風に言った。べーあやに何かを気にされたくもなかった。それなのに今日の彼は鋭い。私のおでん柄のハンカチを鼻で笑ったあと、「ねえ、なんで」とさらに私に詰め寄る。
「……私があんたをべーあやって呼んでることも、焼きそばパン攻防戦をしていることも、全部気に食わないのよ。あいつらは」
「……それって僕がどうにか出来ること?」
「なーんも。べーあやが私にひれ伏してワンワン言ったとしても、あいつらはひそひそするよ」
「……お手」
「fuck off」
私はべーあやが差し出してきた左手をぺちんと叩き落とした。べーあやは私が触れたところをお墓柄のハンカチで拭いた、お墓柄のハンカチってなに? どこで売ってるの?
「あのねえ」
「はい」
「僕はお前のことを、犬だと思っているけれど」
「本当になんで?」
「でもそれって、愛情表現だよ。お前が僕から離れない限り、僕はお前を見捨てないよ」
「……」
「噛みつくなら狂犬病ワクチン打ってね」
「誰が、誰が犬じゃい」
だめだ、何も言い返せなかった。なんだか目が潤んだ気がして、おでんで目を拭いていると、隣からお墓がやってきて、私の頬をごしごしと拭った。ああ、お墓が。お墓が濡れてしまう。花も添えないと。
「あのねえ」
「うん」
「私はべーあやのことを、イナゴの醤油煮くらいに思っているけれど」
「全然ピンとこないな」
「でも、一緒にいて、楽しいよ」
「……お手」
「Shit」
教室の隅っこで、一緒に焼きそばパンを食べた。べーあやは私に紅ショウガを寄越す。私は大好物なので喜んで食べる。今日はいつもより塩辛い。べーあやが「ベルサイユ条約」と言うので、私は「1919年6月28日」と答える。
「何で僕のことべーあやって呼ぶの?」
「……綾部って名字かっこよくて、恥ずかしいから」
「ふーん」
なにやら嬉しそうなべーあやに、今度は私が「桜田門外の変」と言う。べーあやは「今日」と答えて、呑気に牛乳を啜った。
体育の授業前、べーあやが私の首筋にひんやりとした手を突っ込んできて、あわや私をショック死させようとしてきたので、今は私がブチ切れているところです。
「お前の机の中にカニクリーム入りコロッケの中身だけを詰め込んでやろうか」
「それはただのカニクリームだよ」
「教科書とかべしょべしょにしてやる」
「そしたら僕はお前の上履きの中にウズラの卵詰めるけど」
「この鬼畜メガネが……」
「メガネじゃないんだけど……」
ため息をつきながら、べーあやは私に「おすわり、お手」とほざく。体育教師は倫理的にそれを叱った。そりゃそうだ。倫理的に叱られろお前は。噛みついてやろうか、私は犬歯が鋭い。
体育の授業をサボり倒してチャイムが鳴るのと同時に、私とべーあやは速攻で更衣室に向かった。二人して狙っているのは焼きそばパン。購買ですぐに売り切れてしまう、至極の一品だ。同級生は汗を拭いたり髪を結い直したりしているというのに、私は着替えだけを済ませて、走ってはいけない廊下を走る。
購買に並ぶと、三人前にべーあやがいた。男子更衣室の方が購買に近いのだ。私は思わず大地を轟かす様な舌打ちをして、前に並ぶ人をビビらせてしまった。いけないけない、おしとやかに。廊下を爆速で走っておいてなにを言っているのか。
べーあやは私に気付くと、あっかんべーをして手をひらひらと振ってきやがった。ムキーッ、私は中在家先輩ばりの不気味な笑顔でそれを威嚇する。無事に焼きそばパンを購入したべーあやは、ご丁寧に私が買い終わるのを傍で待っていた。
「てっきり僕で売り切れるかと思ったのに」
「負けてなるものか、この勝負」
「先に並んだのは僕だよ」
「男女共同参画社会基本法」
「1999年」
一緒に並んで教室に帰ろうとすると、女子のひそひそ話が目に付く。私はそれを知らんぷりするけれど、今日は鈍感なべーあやもそれに気付いたようだ。
「なんで僕らを見てひそひそすることがあるんだろう。腕相撲番付でも賭けてるのかな」
「学校で賭けるな。あと腕相撲ならさすがにべーあやが勝つでしょう」
「じゃあ一体なんで?」
「……あんたは人気があるのよ。自覚ないかもだけど」
私はおでん柄のハンカチで額の汗を拭きながら、何も気にしていない風に言った。べーあやに何かを気にされたくもなかった。それなのに今日の彼は鋭い。私のおでん柄のハンカチを鼻で笑ったあと、「ねえ、なんで」とさらに私に詰め寄る。
「……私があんたをべーあやって呼んでることも、焼きそばパン攻防戦をしていることも、全部気に食わないのよ。あいつらは」
「……それって僕がどうにか出来ること?」
「なーんも。べーあやが私にひれ伏してワンワン言ったとしても、あいつらはひそひそするよ」
「……お手」
「fuck off」
私はべーあやが差し出してきた左手をぺちんと叩き落とした。べーあやは私が触れたところをお墓柄のハンカチで拭いた、お墓柄のハンカチってなに? どこで売ってるの?
「あのねえ」
「はい」
「僕はお前のことを、犬だと思っているけれど」
「本当になんで?」
「でもそれって、愛情表現だよ。お前が僕から離れない限り、僕はお前を見捨てないよ」
「……」
「噛みつくなら狂犬病ワクチン打ってね」
「誰が、誰が犬じゃい」
だめだ、何も言い返せなかった。なんだか目が潤んだ気がして、おでんで目を拭いていると、隣からお墓がやってきて、私の頬をごしごしと拭った。ああ、お墓が。お墓が濡れてしまう。花も添えないと。
「あのねえ」
「うん」
「私はべーあやのことを、イナゴの醤油煮くらいに思っているけれど」
「全然ピンとこないな」
「でも、一緒にいて、楽しいよ」
「……お手」
「Shit」
教室の隅っこで、一緒に焼きそばパンを食べた。べーあやは私に紅ショウガを寄越す。私は大好物なので喜んで食べる。今日はいつもより塩辛い。べーあやが「ベルサイユ条約」と言うので、私は「1919年6月28日」と答える。
「何で僕のことべーあやって呼ぶの?」
「……綾部って名字かっこよくて、恥ずかしいから」
「ふーん」
なにやら嬉しそうなべーあやに、今度は私が「桜田門外の変」と言う。べーあやは「今日」と答えて、呑気に牛乳を啜った。