夢短編
かなめ
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私は夜型だ。加えて低血圧だ。朝にめっぽう弱い。いつも寝ぼけながら登校している。
今日もフラフラになりながら登校すると、雷蔵と三郎が私の席の前でロールパンを食べていた。何も味のないパンを牛乳も無しによく食べられるな。
「うわ寝ぐせすごっ」
たぶん三郎だ。女子に向かって朝いちばんにかける言葉がそれか。
「おはようかなめ」
雷蔵は優しい。でも少し呆れているのか、憐れんでいるのか、絶妙な表情をしていた。私は美容に興味がなく、朝の支度は五分で済ませている。寝ぐせを直している暇があったら寝ていたい。
「見ていられない。かせ」
三郎は席に座った私の後ろに回り込んで、自分のカバンから何やらスプレーと櫛を取り出した。私の許可なく勝手に私の髪をいじりだす。
男の人の手だなあ、とのんきに考えながら、雷蔵からロールパンを一口もらった。二人とも背が高いけれど、いつから伸びたのだろう。
「こら、じっとしてろ」
「とびきり美人にしてね」
「無理だアホ」
三郎は酷いなあ。ロールパンおいしい。
髪の毛がぐんぐんとまっすぐになっていくのがわかる。三郎に髪を触られるのは何だか気持ちよかった。撫でられている感覚になるからだろうか。誰かに撫でてもらったことなど遠い記憶の彼方だから、少し嬉しい。
「三郎の手って気持ちいいねえ」
「ゴッ」
「いまなんかすごい音したけど」
「お前、そういうの気軽に男に言うなよ……」
背後から爆発音が聞こえた気がしたけれど、気のせいだったようだ。雷蔵はまた呆れた表情をしていたが、今度は私と三郎を交互に見ていた。どうやら三郎に対しても何か呆れているらしい。
「ほら、できたぞ。だいぶマシになった」
「ありがとう、命の恩人」
「昼飯奢れよ」
「やだよ、どんだけ食う気だよ」
私はかろうじて持っていたコンパクトミラーで頭を確認し、その出来栄えに満足した。真っ黒のすっとんとんの髪でなんの飾り気もない髪だが、サラサラでまっすぐになっているだけで、なんだかいつもより美しくなった気がする。
「メイクまでしたら奢ってくれるか?」
「マジで? してくれるの?」
「今はもう時間がないから、昼ならいいけど」
「うへ~助かる」
雷蔵がロールパンの袋をゴミ箱へ捨てに行った瞬間、三郎は屈んで私の耳元へ口を寄せた。いつものふざけている声色ではなかった。
「メイクしたら、放課後、デートするぞ」
「え」
「私のためにめかしこむんだな」
ぽんぽん、と頭を撫でられて、会話は一方的に終わった。だから、私の意思とか許可とか、丸無視かい。チャイムが鳴り、クラスメイトたちが席に戻っていく。三郎は隣のクラスに帰っていった。雷蔵が私の前の席に着きながら、何かあった? とアイコンタクトをしてくる。私はふるふると頭を振って、別に何も、と答えた。
昼休み。三郎はいつも雷蔵と昼食を食べる。私はそれをぼうっと見ながらお弁当を食べた。一番仲のいい友達が休みだったので、自ずと一人で食べることになる。ご飯粒をひとつも残さないよう箸を駆使していると、三郎が私に声をかけた。
「それ食い終わったらメイクするぞ」
「え、ほんとにすんの?」
「する」
「問答無用かよ」
無事に米粒をたいらげた私は、大人しく三郎に顔を差し出した。三郎はまたカバンをごそごそとやって、メイク道具一式を机の上に並べだした。なんでそんなに持ち歩いているんだ。女子かよ。
「いつでも雷蔵になれるようにだよ」
「何も言ってないじゃん」
「目がそう言っていた」
「ごめんあそばせ」
ほら、目を瞑って、と言われたので、あとのことはもう知らない。下地とファンデーションを塗る雷蔵の手はやっぱり男の人の手で、頬を撫でられるとくすぐったかった。
「これで目を開けて私まで雷蔵になってたらウケるね」
「ばか、お前ごときが雷蔵になれると思うなよ」
「ごめんあそばせ」
ブチギレた三郎を、雷蔵がくすくすと笑った。いやお前も止めろよ、彼の奇行を。
筆がさらさらとまぶたを撫でていく。世の女子はこれを毎朝やっているのだからすごいなあ。好きな人がいたりすれば頑張れるのだろうか。
眉を描いて、ノーズシャドーとチークを入れて、最後にリップを乗せて、私の顔は完成した。三郎は私の両肩をポンと叩いて終了の合図を出す。
「はい、完成」
「これが……私……?」
「お前それ言いたかっただけだろ」
三郎に渡された大きな鏡を覗いて見ると、いつもより顔色のよい、少しだけ華やかになった自分の顔があった。
「かわいいよ」
雷蔵は優しい。私は照れ臭くなってすぐに三郎に鏡を返した。だってこれ、デートの約束をしているということは、三郎の好みの顔にされたということではないか。
「じゃ、放課後、私とデートな。ゴンチャ奢れよ」
「わあ、いいな三郎。そんな約束していたの」
「三郎ってゴンチャ飲むんだ……」
メイク用品を片付けた三郎は、いつもの不敵な笑みを浮かべて私を見下ろした。ここまでやってもらったからには腹をくくるけれど、今更恥ずかしくなってきたので、私はもごもごと曖昧な言葉を返した。チャイムが鳴り、三郎は隣のクラスに帰っていく。
「その顔で昼寝してメイク崩すなよ」
「僕が見張ってるよ」
雷蔵、頼むからそっち側に行かないでくれ。私は溜息をつきながら、しゃんと背筋を伸ばした。この顔に恥じない振る舞いをしなければ。
三郎はどうして私とデートしたいのだろう。結局授業は集中できずに、あっという間に訪れた放課後、飲んだタピオカは甘かった。
今日もフラフラになりながら登校すると、雷蔵と三郎が私の席の前でロールパンを食べていた。何も味のないパンを牛乳も無しによく食べられるな。
「うわ寝ぐせすごっ」
たぶん三郎だ。女子に向かって朝いちばんにかける言葉がそれか。
「おはようかなめ」
雷蔵は優しい。でも少し呆れているのか、憐れんでいるのか、絶妙な表情をしていた。私は美容に興味がなく、朝の支度は五分で済ませている。寝ぐせを直している暇があったら寝ていたい。
「見ていられない。かせ」
三郎は席に座った私の後ろに回り込んで、自分のカバンから何やらスプレーと櫛を取り出した。私の許可なく勝手に私の髪をいじりだす。
男の人の手だなあ、とのんきに考えながら、雷蔵からロールパンを一口もらった。二人とも背が高いけれど、いつから伸びたのだろう。
「こら、じっとしてろ」
「とびきり美人にしてね」
「無理だアホ」
三郎は酷いなあ。ロールパンおいしい。
髪の毛がぐんぐんとまっすぐになっていくのがわかる。三郎に髪を触られるのは何だか気持ちよかった。撫でられている感覚になるからだろうか。誰かに撫でてもらったことなど遠い記憶の彼方だから、少し嬉しい。
「三郎の手って気持ちいいねえ」
「ゴッ」
「いまなんかすごい音したけど」
「お前、そういうの気軽に男に言うなよ……」
背後から爆発音が聞こえた気がしたけれど、気のせいだったようだ。雷蔵はまた呆れた表情をしていたが、今度は私と三郎を交互に見ていた。どうやら三郎に対しても何か呆れているらしい。
「ほら、できたぞ。だいぶマシになった」
「ありがとう、命の恩人」
「昼飯奢れよ」
「やだよ、どんだけ食う気だよ」
私はかろうじて持っていたコンパクトミラーで頭を確認し、その出来栄えに満足した。真っ黒のすっとんとんの髪でなんの飾り気もない髪だが、サラサラでまっすぐになっているだけで、なんだかいつもより美しくなった気がする。
「メイクまでしたら奢ってくれるか?」
「マジで? してくれるの?」
「今はもう時間がないから、昼ならいいけど」
「うへ~助かる」
雷蔵がロールパンの袋をゴミ箱へ捨てに行った瞬間、三郎は屈んで私の耳元へ口を寄せた。いつものふざけている声色ではなかった。
「メイクしたら、放課後、デートするぞ」
「え」
「私のためにめかしこむんだな」
ぽんぽん、と頭を撫でられて、会話は一方的に終わった。だから、私の意思とか許可とか、丸無視かい。チャイムが鳴り、クラスメイトたちが席に戻っていく。三郎は隣のクラスに帰っていった。雷蔵が私の前の席に着きながら、何かあった? とアイコンタクトをしてくる。私はふるふると頭を振って、別に何も、と答えた。
昼休み。三郎はいつも雷蔵と昼食を食べる。私はそれをぼうっと見ながらお弁当を食べた。一番仲のいい友達が休みだったので、自ずと一人で食べることになる。ご飯粒をひとつも残さないよう箸を駆使していると、三郎が私に声をかけた。
「それ食い終わったらメイクするぞ」
「え、ほんとにすんの?」
「する」
「問答無用かよ」
無事に米粒をたいらげた私は、大人しく三郎に顔を差し出した。三郎はまたカバンをごそごそとやって、メイク道具一式を机の上に並べだした。なんでそんなに持ち歩いているんだ。女子かよ。
「いつでも雷蔵になれるようにだよ」
「何も言ってないじゃん」
「目がそう言っていた」
「ごめんあそばせ」
ほら、目を瞑って、と言われたので、あとのことはもう知らない。下地とファンデーションを塗る雷蔵の手はやっぱり男の人の手で、頬を撫でられるとくすぐったかった。
「これで目を開けて私まで雷蔵になってたらウケるね」
「ばか、お前ごときが雷蔵になれると思うなよ」
「ごめんあそばせ」
ブチギレた三郎を、雷蔵がくすくすと笑った。いやお前も止めろよ、彼の奇行を。
筆がさらさらとまぶたを撫でていく。世の女子はこれを毎朝やっているのだからすごいなあ。好きな人がいたりすれば頑張れるのだろうか。
眉を描いて、ノーズシャドーとチークを入れて、最後にリップを乗せて、私の顔は完成した。三郎は私の両肩をポンと叩いて終了の合図を出す。
「はい、完成」
「これが……私……?」
「お前それ言いたかっただけだろ」
三郎に渡された大きな鏡を覗いて見ると、いつもより顔色のよい、少しだけ華やかになった自分の顔があった。
「かわいいよ」
雷蔵は優しい。私は照れ臭くなってすぐに三郎に鏡を返した。だってこれ、デートの約束をしているということは、三郎の好みの顔にされたということではないか。
「じゃ、放課後、私とデートな。ゴンチャ奢れよ」
「わあ、いいな三郎。そんな約束していたの」
「三郎ってゴンチャ飲むんだ……」
メイク用品を片付けた三郎は、いつもの不敵な笑みを浮かべて私を見下ろした。ここまでやってもらったからには腹をくくるけれど、今更恥ずかしくなってきたので、私はもごもごと曖昧な言葉を返した。チャイムが鳴り、三郎は隣のクラスに帰っていく。
「その顔で昼寝してメイク崩すなよ」
「僕が見張ってるよ」
雷蔵、頼むからそっち側に行かないでくれ。私は溜息をつきながら、しゃんと背筋を伸ばした。この顔に恥じない振る舞いをしなければ。
三郎はどうして私とデートしたいのだろう。結局授業は集中できずに、あっという間に訪れた放課後、飲んだタピオカは甘かった。