夢短編
かなめ
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竹谷の周りはいつも賑やかだ。不破と鉢屋、他クラスから久々知と尾浜も、よく竹谷の席に遊びに来る。私は竹谷の隣の席で、あらまあ賑やかなこと、とそれを見ながら、どいた方がいいかしら? などと思っている。面倒くさいからどいたことはない。
私は友達とわいわい騒ぐより一人でぼーっとしている方が好きなので、その賑やかさの隣でただなんとなく座っているだけ、をしていた。読書をすることもあれば、友達からのメモに返事を書いて過ごすこともあるけれど、基本、ぼーっとしている。たぶん頭の回転がにぶいんだと思う。テストもいつも時間切れになるし。
今日の一時間目は、先生の都合なのか自習だった。これ幸いとみんなが二度寝ややってこなかった宿題に追われているのを見ながら、私はプリント整理でもするか、とノートやファイルを広げていた。
「な、なあ、かなめ」
「ん?」
隣を見ると、竹谷が私を拝んでいる。いや違う、ごめんのポーズだ。私が神々しくて拝んでいるのかと思った。
「昨日の古文のノート、見せてくれないか……?」
「いいけど」
「ありがとう!」
私はカバンの中から古文のノートを取り出し、竹谷に渡した。そういえば昨日の授業、竹谷は爆睡していたっけ。先生にあてられずにすんでよかったねと思ったのを思い出した。
「うわ、かなめ、字綺麗だな」
「え、そう? ふつうじゃない?」
「かなり見やすいし。ノートまとめるの得意なんだな」
まあ、竹谷よりかは字は綺麗かもしれない。読めなくはないけど、彼はけっこうガサガサとした字を書くから。私は数学のプリント整理に着手し、穴をあけてリングノートに閉じていった。
「……なあ。かなめ」
「なんか読めなかった?」
「いや。これ」
竹谷がノートの端を指さす。私は身を乗り出して覗き込んだ。そこには泣いている棒人間と、笑っている棒人間の落書きがあった。うわ、恥ずかしい。落書きしてたんだ私。
「ねえこれ、俺と兵助?」
「……よくわかったね」
「豆腐地獄の絵だろ」
ご名答。久々知が豆腐を持ち笑顔で迫っている様子の絵だ。私は竹谷や尾浜がそれにヒンヒンいっているところをこっそり見るのが好きなのだ。人の不幸は蜜の味ってね。
「ははは。この絵、味があっていいな」
「やめて恥ずかしい」
どうやらツボに入ったらしい。竹谷はひとしきり笑ったあとスマホを取り出して、私の落書きを写真に収めた。
「あとで兵助に見せよ」
「ほんとうにやめて」
顔が火照っていくのを感じながら、竹谷からノートを取り返した。竹谷は「ああっ」と言ってまた私に拝むポーズをとる。
「頼む、あと少し写させて」
「これ以上弄るならヤダ」
「アルフォートあげるから」
「仕方ないな」
竹谷はカバンの底からアルフォートを探し当て、私にかしずきながら献上した。私は粛々と受け取り、しぶしぶノートを渡す。あれ以外に落書きがないといいんだけれど。
プリントのファイリングが無事終わった私は、竹谷の方を眺めた。凛々しい眉だな、男の骨格だな、と思う。シャーペンを握る手も大きい。私は気が付いたら手を伸ばしていた。竹谷の肌はかさかさしていた。
「……な、なに」
「あ、いや、ごめん。なんか邪魔したくなって」
「アルフォートあげたのに」
「一個あげるから」
「やった!」
ニカッと笑った顔が眩しい。最後の数行を書き写した竹谷は「ありがとう」とノートを返してきて、やっぱりその手は大きくて、男の子だなあと実感する。
「助かったよ。また助けてくれ」
「今度は俺が助けるとか言ってよ」
「あ、そうか。その手があった」
からからと笑う竹谷を見ていると、なんだかほっこりする。彼は笑顔がよく似合う。
「かなめ、俺たちのこと見てるの好きだよな」
「え」
「よく見てるじゃん」
「……ば、ばれて」
「隠す気ないだろ?」
今日だけで私は何回松千代先生になればいいのだろう。なぜこんな辱めを受けなければならないのだ。ごめんねと言うのも違う気がする。
「今度から一緒に話そう」
「……楽しそうなのを見てるのが好きだから」
「俺はかなめともっと話したいよ」
チャイムが鳴った。寝ていたクラスメイトたちがのっそりと起き始める。私はずっと頬が熱いままで、それを見ていた竹谷は楽しそうにノートをカバンに仕舞って席を立った。
次の授業の用意をせねばならないのに、私はまたぼーっとしていた。竹谷の笑顔が頭から離れない。アルフォートの箱は私の手の中で航海に出ていて、頼むから私もその船に乗せてくれ、と思った。いっそ泳いでしまったほうが、このぼーっとした頭も冴えるだろうか。
私は友達とわいわい騒ぐより一人でぼーっとしている方が好きなので、その賑やかさの隣でただなんとなく座っているだけ、をしていた。読書をすることもあれば、友達からのメモに返事を書いて過ごすこともあるけれど、基本、ぼーっとしている。たぶん頭の回転がにぶいんだと思う。テストもいつも時間切れになるし。
今日の一時間目は、先生の都合なのか自習だった。これ幸いとみんなが二度寝ややってこなかった宿題に追われているのを見ながら、私はプリント整理でもするか、とノートやファイルを広げていた。
「な、なあ、かなめ」
「ん?」
隣を見ると、竹谷が私を拝んでいる。いや違う、ごめんのポーズだ。私が神々しくて拝んでいるのかと思った。
「昨日の古文のノート、見せてくれないか……?」
「いいけど」
「ありがとう!」
私はカバンの中から古文のノートを取り出し、竹谷に渡した。そういえば昨日の授業、竹谷は爆睡していたっけ。先生にあてられずにすんでよかったねと思ったのを思い出した。
「うわ、かなめ、字綺麗だな」
「え、そう? ふつうじゃない?」
「かなり見やすいし。ノートまとめるの得意なんだな」
まあ、竹谷よりかは字は綺麗かもしれない。読めなくはないけど、彼はけっこうガサガサとした字を書くから。私は数学のプリント整理に着手し、穴をあけてリングノートに閉じていった。
「……なあ。かなめ」
「なんか読めなかった?」
「いや。これ」
竹谷がノートの端を指さす。私は身を乗り出して覗き込んだ。そこには泣いている棒人間と、笑っている棒人間の落書きがあった。うわ、恥ずかしい。落書きしてたんだ私。
「ねえこれ、俺と兵助?」
「……よくわかったね」
「豆腐地獄の絵だろ」
ご名答。久々知が豆腐を持ち笑顔で迫っている様子の絵だ。私は竹谷や尾浜がそれにヒンヒンいっているところをこっそり見るのが好きなのだ。人の不幸は蜜の味ってね。
「ははは。この絵、味があっていいな」
「やめて恥ずかしい」
どうやらツボに入ったらしい。竹谷はひとしきり笑ったあとスマホを取り出して、私の落書きを写真に収めた。
「あとで兵助に見せよ」
「ほんとうにやめて」
顔が火照っていくのを感じながら、竹谷からノートを取り返した。竹谷は「ああっ」と言ってまた私に拝むポーズをとる。
「頼む、あと少し写させて」
「これ以上弄るならヤダ」
「アルフォートあげるから」
「仕方ないな」
竹谷はカバンの底からアルフォートを探し当て、私にかしずきながら献上した。私は粛々と受け取り、しぶしぶノートを渡す。あれ以外に落書きがないといいんだけれど。
プリントのファイリングが無事終わった私は、竹谷の方を眺めた。凛々しい眉だな、男の骨格だな、と思う。シャーペンを握る手も大きい。私は気が付いたら手を伸ばしていた。竹谷の肌はかさかさしていた。
「……な、なに」
「あ、いや、ごめん。なんか邪魔したくなって」
「アルフォートあげたのに」
「一個あげるから」
「やった!」
ニカッと笑った顔が眩しい。最後の数行を書き写した竹谷は「ありがとう」とノートを返してきて、やっぱりその手は大きくて、男の子だなあと実感する。
「助かったよ。また助けてくれ」
「今度は俺が助けるとか言ってよ」
「あ、そうか。その手があった」
からからと笑う竹谷を見ていると、なんだかほっこりする。彼は笑顔がよく似合う。
「かなめ、俺たちのこと見てるの好きだよな」
「え」
「よく見てるじゃん」
「……ば、ばれて」
「隠す気ないだろ?」
今日だけで私は何回松千代先生になればいいのだろう。なぜこんな辱めを受けなければならないのだ。ごめんねと言うのも違う気がする。
「今度から一緒に話そう」
「……楽しそうなのを見てるのが好きだから」
「俺はかなめともっと話したいよ」
チャイムが鳴った。寝ていたクラスメイトたちがのっそりと起き始める。私はずっと頬が熱いままで、それを見ていた竹谷は楽しそうにノートをカバンに仕舞って席を立った。
次の授業の用意をせねばならないのに、私はまたぼーっとしていた。竹谷の笑顔が頭から離れない。アルフォートの箱は私の手の中で航海に出ていて、頼むから私もその船に乗せてくれ、と思った。いっそ泳いでしまったほうが、このぼーっとした頭も冴えるだろうか。