夢短編
かなめ
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私と綾部はグミ友だ。
友と言っても、グミについて談義するわけではない。私が突如マイブーム・グミ♡になって休み時間に貪り食っていたところたまたま綾部と目が合い、ぱかっと口を開けられたのだ。私はそこにコロロを放り込んだ。私をじっと見つめながら数度咀嚼した綾部は、たっぷり三秒は間を置いて「おいしい」とだけ言った。私には、どうにもそれが愉快だった。
それから綾部は、私がグミを食している間にじっと見つめてくるようになった。ぱか、と口を開けられると、そこにグミを放り込まざるを得ない。様々なグミをあげた、もぎもぎフルーツのぶどう、さけるグミ、つぶグミ、フェットチーネグミ。ピュレグミやシゲキックスは評判が悪かった。眉間に皺を寄せた綾部は、「すっぱい」と文句を垂れた。私はこれが好きなのだから我慢してほしい。
今日は果汁グミだった。ぱかっと開けた口に放り込むと、いつも通り綾部は咀嚼した。いつもと違うのは、その後に綾部の言葉が続いたことだった。
「かなめは、なんのグミが好きなの」
「……うーん」
私は悩んでしまった。食感にハマっているだけで、これといってお気に入りがあるわけではない。ブームが過ぎ去れば飽きるだろう。あたりさわりのないことを返した。
「なんでもいいなあ」
「なんでもいいのかあ」
綾部もぼんやりと答えた。特に理由があって質問したわけでもなさそうだ。彼も彼なりにお気に入りを探している最中なのかもしれない。それ以上特に会話は続かなく、私は二口めのグミを飲み込んだ。
翌日。今日はお腹が痛い日だ。昼食をのろのろと食べ終えた私は、グミに辿り着けず机に突っ伏した。このままひと眠りして体力回復に努めた方がいいかもしれない、だけど痛みで寝られそうにない。ぐるぐると考えながら突っ伏し続けていると、何かが頭の上に乗る感触がした。
「はい、これ」
綾部の声がする。頭の上を触ると、なにやら小袋が乗っていた。顔を上げると綾部は目の前にいて、なんとも感情の読み取れない表情をしていた。
「なあに」
「グミ」
「え……ハリボーじゃん」
「すき?」
「大好き、ありがとう」
思わず痛みも忘れて喜んだところ、綾部はほんの少し口角をあげたように見えた。
「どうしたの、これ」
「別に。たまたま家にあったから」
そっかあ、たまたまかあ、と言いながら袋を開けて、カラフルな小粒を手に乗せた。そのうちの一粒を摘まんで、綾部の顔の前に出す。
「……かなめのなのに」
「ほら。あーん」
「あーん」
綾部の口にグミを放りこむ。綾部が不服そうに口をもごもごやっているのを見て楽しくなり、私はすっかり腹の痛みなど忘れていた。ハリボーは少し硬くておいしい。
その日の放課後、教室の床掃除をしぶしぶやっていると、隣のクラスの田村が顔を覗かせた。
「喜八郎は?」
「さあ、どっかいっちゃった」
「またか。……あ、〇〇、グミどうだった?」
「え?」
田村まで私のグミ好きを知っている? そんなに噂が広まるほどのことではないと思うのだが。不信そうに田村を見つめると、田村もきょとんとした。
「昨日喜八郎とプラザ行ったら、あいつ、かなめにあげるんだ、ってグミ選んでたけど」
「……なにそれ!」
だって、たまたま家にあったって言ってたじゃないか。田村は驚く私に「あ、言わない方がよかった?」と慌てていたけれど、構っていられなかった。
う、嬉しい。綾部、わざわざ買ってくれたんだ。私は自分がニンマリとしていることに気付き、慌てて表情筋を元に戻した。田村に「教えてくれてありがとう」と伝え、平静を装うけれど、やっぱり嬉しいものは嬉しい。
明日、綾部にお礼を言おう。どうしよう、グミを一袋丸ごとあげたほうがいいのかな。それとも、いつも通りの一粒でいいのかな。マイブーム・グミ♡は当分止まないだろう。私は無駄に張り切って床掃除を再開させ、そのあとまた腹痛に丸まるのだった。調子に乗ってはいけない。
友と言っても、グミについて談義するわけではない。私が突如マイブーム・グミ♡になって休み時間に貪り食っていたところたまたま綾部と目が合い、ぱかっと口を開けられたのだ。私はそこにコロロを放り込んだ。私をじっと見つめながら数度咀嚼した綾部は、たっぷり三秒は間を置いて「おいしい」とだけ言った。私には、どうにもそれが愉快だった。
それから綾部は、私がグミを食している間にじっと見つめてくるようになった。ぱか、と口を開けられると、そこにグミを放り込まざるを得ない。様々なグミをあげた、もぎもぎフルーツのぶどう、さけるグミ、つぶグミ、フェットチーネグミ。ピュレグミやシゲキックスは評判が悪かった。眉間に皺を寄せた綾部は、「すっぱい」と文句を垂れた。私はこれが好きなのだから我慢してほしい。
今日は果汁グミだった。ぱかっと開けた口に放り込むと、いつも通り綾部は咀嚼した。いつもと違うのは、その後に綾部の言葉が続いたことだった。
「かなめは、なんのグミが好きなの」
「……うーん」
私は悩んでしまった。食感にハマっているだけで、これといってお気に入りがあるわけではない。ブームが過ぎ去れば飽きるだろう。あたりさわりのないことを返した。
「なんでもいいなあ」
「なんでもいいのかあ」
綾部もぼんやりと答えた。特に理由があって質問したわけでもなさそうだ。彼も彼なりにお気に入りを探している最中なのかもしれない。それ以上特に会話は続かなく、私は二口めのグミを飲み込んだ。
翌日。今日はお腹が痛い日だ。昼食をのろのろと食べ終えた私は、グミに辿り着けず机に突っ伏した。このままひと眠りして体力回復に努めた方がいいかもしれない、だけど痛みで寝られそうにない。ぐるぐると考えながら突っ伏し続けていると、何かが頭の上に乗る感触がした。
「はい、これ」
綾部の声がする。頭の上を触ると、なにやら小袋が乗っていた。顔を上げると綾部は目の前にいて、なんとも感情の読み取れない表情をしていた。
「なあに」
「グミ」
「え……ハリボーじゃん」
「すき?」
「大好き、ありがとう」
思わず痛みも忘れて喜んだところ、綾部はほんの少し口角をあげたように見えた。
「どうしたの、これ」
「別に。たまたま家にあったから」
そっかあ、たまたまかあ、と言いながら袋を開けて、カラフルな小粒を手に乗せた。そのうちの一粒を摘まんで、綾部の顔の前に出す。
「……かなめのなのに」
「ほら。あーん」
「あーん」
綾部の口にグミを放りこむ。綾部が不服そうに口をもごもごやっているのを見て楽しくなり、私はすっかり腹の痛みなど忘れていた。ハリボーは少し硬くておいしい。
その日の放課後、教室の床掃除をしぶしぶやっていると、隣のクラスの田村が顔を覗かせた。
「喜八郎は?」
「さあ、どっかいっちゃった」
「またか。……あ、〇〇、グミどうだった?」
「え?」
田村まで私のグミ好きを知っている? そんなに噂が広まるほどのことではないと思うのだが。不信そうに田村を見つめると、田村もきょとんとした。
「昨日喜八郎とプラザ行ったら、あいつ、かなめにあげるんだ、ってグミ選んでたけど」
「……なにそれ!」
だって、たまたま家にあったって言ってたじゃないか。田村は驚く私に「あ、言わない方がよかった?」と慌てていたけれど、構っていられなかった。
う、嬉しい。綾部、わざわざ買ってくれたんだ。私は自分がニンマリとしていることに気付き、慌てて表情筋を元に戻した。田村に「教えてくれてありがとう」と伝え、平静を装うけれど、やっぱり嬉しいものは嬉しい。
明日、綾部にお礼を言おう。どうしよう、グミを一袋丸ごとあげたほうがいいのかな。それとも、いつも通りの一粒でいいのかな。マイブーム・グミ♡は当分止まないだろう。私は無駄に張り切って床掃除を再開させ、そのあとまた腹痛に丸まるのだった。調子に乗ってはいけない。