夢短編
かなめ
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八左ヱ門と隣の席になってから、兵助、勘右衛門、雷蔵、三郎と仲良くなった。私がたまたま豆腐が好きで、みんなの代わりに兵助の豆腐地獄をくらっていた功績らしい。地獄というより食費が浮いて助かってるんだけどな。
「今日、三郎の家でオーバークックやるんだけど、来る?」
「甘えならやらない、ガチなら行く」
「ガチに決まってんじゃん」
「おっけ」
八左ヱ門からお誘いを受け、今日の放課後の予定が決まった。先週はマリカーだった。雷蔵がずっとアイテムをいつ使うか悩み続けて負けまくり、甘えるなと叱咤したばかりだ。オーバークックなら容赦しない。彼の直観力を鍛える練習にもきっとなる。
放課後、私と兵助は豆乳を飲みながら下駄箱でみんなを待っていた。私はいろんな味を試すのが好きだが、兵助は無調整豆乳一筋だ。なんであんなにおいしそうに飲めるのだろう。無調整はさすがにまずいと思う。
「かなめは、バレンタイン、誰かにあげないの?」
「友達と交換の約束はしてるよ。みんな本気出してくるから私も挑まなきゃ」
「女の子たちって友達同士で交換する時のほうが本気出すよね」
「そうなの。負けられない戦いなの」
ずず、とココア豆乳を飲み終わって、私はパックを折りたたんだ。折り紙みたいに小さく折るのがマイブームで、ちまちま畳んでいると、兵助が「一緒に捨ててくるよ」と手を差し出す。私は小さくなったパックをちょこんと手の上に乗せた。
兵助がゴミを捨てている間に八左ヱ門たちが「お待たせ」と小走りでやって来た。掃除を無事に終えたらしい。兵助が戻ってきて、三郎が「それじゃあ」と先頭に立つ。三郎の家は最寄りの駅近くなのでみんなのたまり場になっている。家広いし。
「おかしのまちおか寄らない?」
勘右衛門がそう言って、我々は赤い屋根の店にすいこまれていった。三郎の家への献上物をそれぞれが買い出てくると、勘右衛門の袋だけぱんぱんだった。どれだけ買ったんだお前は。
「お腹すいちゃってさ」
「勘ちゃんさっきも何か食べてなかった?」
「おにぎり」
勘右衛門は食いしん坊だと思う。なのにスタイルはいいからムカつく。男子の成長期っていつまでなんだろう。私は豆腐ダイエットを続ける。
「かなめは俺らにチョコくれないの?」
「え、いる?」
「いるよ!!」
勘右衛門はとんでもないほどびっくりしていて、逆に私がびっくりしてしまった。さっき兵助に聞かれた時も、暗に「ちょうだい」と言っていたのか。今気づいた。
「てっきりくれるもんだと」
三郎も八左ヱ門もきょとんとしている。雷蔵だけは「まあ作る手間もあるから」とフォローしてくれた。北風がびゅうと頬を冷やしていくから、みんなの鼻が赤い。
「じゃあさ、今日のゲーム、かなめのチョコ賭けようぜ」
「あ、三郎卑怯だぞ、自分は得意だからって」
なんだかとんでもないことになってしまった。私ごときのチョコなんて、そんな大層なものじゃないのに。
「絶対勝つ」
八左ヱ門は見たことがないほどメラメラと燃えていた。オーバークック下手そうなのに大丈夫かな。
「いや、友達用に作るから、あまりでよければ皆にもあげるし……」
「あまりじゃなくて、本命がほしいんだよ。みんな」
兵助にそう言われて、今度は私がきょとんとする番だった。本命。本命ってなんだっけ。
「でも本命を賭けるっておかしくないか?」
雷蔵の意見になんとか頷きながら、私はなおも首をかしげる。みんな私と付き合いたいってこと? まさか。
「私が勝ったらどうなるんだ……?」
「……俺たちが本命チョコあげるよ」
すでにチョコパイを口に放り込んでいる勘右衛門が呟いた。いや、だから、なんで本命?
「それって誰か一人選ばないといけないってこと? ずっとこのメンバーで遊んでたいのに?」
「そこが難しいところだ」
八左ヱ門はそう言って、くしゃみをひとつした。この人、最近また背が伸びた様な気がする。隣に立つとわかる。
「かなめは誰かひとり選べそう?」
三郎が私を見ずに言う。家はもうすぐそこだ。そこに着くまでに、答えなきゃいけない気がした。
「……八?」
「うそだあ」
勘右衛門がおおげさにうなだれた。三郎と雷蔵は顔を見合わせており、八左ヱ門と兵助はまたきょとんとしている。
「絶対俺だと思ったのに」
「どこから出るんだその自信は。いやだって、隣の席だし、一番知ってるし」
「これから知って行けばいいじゃん」
三郎はそう言ってカバンから鍵を取り出した。玄関が開かれ、あたたかな室内にお邪魔する。
「みんなと一緒に付き合えたらいいんだけどなあ」
雷蔵が夢物語を言いながら靴を脱ぐ。みんな靴が大きい。私のローファーだけ小人サイズみたい。
「……なんかよくわからないけど、チョコならあげるから」
ひとまずそう決着をつけて、私たちは三郎の部屋へ向かった。これから白熱したバトルを展開しないといけないのだ。気持ちを切り替えなければならない。
この日の勝負は見事に大荒れで、何個もレコードを更新した。寿司を作り、ハンバーガーを作り、叫び、いななき、ブチ切れ、波乱万丈の戦いだった。私も本気を出した。バイト漬けの胆力を舐めないでもらいたい。
全員が力尽き、息切れして倒れ込んだ。結局誰が一番強いんだ? よくわからない。雷蔵も迷い癖が出なかった。これはすごいことだ。明日は雨かもしれない。
「本命チョコ……」
勘右衛門がそう唸って気絶した。お前はさっきまでチョコパイ食ってたろうが。
今年はとんだバレンタインになりそうだ。私は本命チョコを五人分用意しなければならなくなった。あれ、本命ってなんだっけ。ジョイコンの汗を拭きながら、こんな毎日が続くのが一番楽しいのになあ、とひとりごちる。まあそれはそうなんだけどね、と微笑んだ八左ヱ門はびっしょりと汗をかいていて、いやジョイコンよりお前の方が汗を拭け、とウエットティッシュを差し出した。
「今日、三郎の家でオーバークックやるんだけど、来る?」
「甘えならやらない、ガチなら行く」
「ガチに決まってんじゃん」
「おっけ」
八左ヱ門からお誘いを受け、今日の放課後の予定が決まった。先週はマリカーだった。雷蔵がずっとアイテムをいつ使うか悩み続けて負けまくり、甘えるなと叱咤したばかりだ。オーバークックなら容赦しない。彼の直観力を鍛える練習にもきっとなる。
放課後、私と兵助は豆乳を飲みながら下駄箱でみんなを待っていた。私はいろんな味を試すのが好きだが、兵助は無調整豆乳一筋だ。なんであんなにおいしそうに飲めるのだろう。無調整はさすがにまずいと思う。
「かなめは、バレンタイン、誰かにあげないの?」
「友達と交換の約束はしてるよ。みんな本気出してくるから私も挑まなきゃ」
「女の子たちって友達同士で交換する時のほうが本気出すよね」
「そうなの。負けられない戦いなの」
ずず、とココア豆乳を飲み終わって、私はパックを折りたたんだ。折り紙みたいに小さく折るのがマイブームで、ちまちま畳んでいると、兵助が「一緒に捨ててくるよ」と手を差し出す。私は小さくなったパックをちょこんと手の上に乗せた。
兵助がゴミを捨てている間に八左ヱ門たちが「お待たせ」と小走りでやって来た。掃除を無事に終えたらしい。兵助が戻ってきて、三郎が「それじゃあ」と先頭に立つ。三郎の家は最寄りの駅近くなのでみんなのたまり場になっている。家広いし。
「おかしのまちおか寄らない?」
勘右衛門がそう言って、我々は赤い屋根の店にすいこまれていった。三郎の家への献上物をそれぞれが買い出てくると、勘右衛門の袋だけぱんぱんだった。どれだけ買ったんだお前は。
「お腹すいちゃってさ」
「勘ちゃんさっきも何か食べてなかった?」
「おにぎり」
勘右衛門は食いしん坊だと思う。なのにスタイルはいいからムカつく。男子の成長期っていつまでなんだろう。私は豆腐ダイエットを続ける。
「かなめは俺らにチョコくれないの?」
「え、いる?」
「いるよ!!」
勘右衛門はとんでもないほどびっくりしていて、逆に私がびっくりしてしまった。さっき兵助に聞かれた時も、暗に「ちょうだい」と言っていたのか。今気づいた。
「てっきりくれるもんだと」
三郎も八左ヱ門もきょとんとしている。雷蔵だけは「まあ作る手間もあるから」とフォローしてくれた。北風がびゅうと頬を冷やしていくから、みんなの鼻が赤い。
「じゃあさ、今日のゲーム、かなめのチョコ賭けようぜ」
「あ、三郎卑怯だぞ、自分は得意だからって」
なんだかとんでもないことになってしまった。私ごときのチョコなんて、そんな大層なものじゃないのに。
「絶対勝つ」
八左ヱ門は見たことがないほどメラメラと燃えていた。オーバークック下手そうなのに大丈夫かな。
「いや、友達用に作るから、あまりでよければ皆にもあげるし……」
「あまりじゃなくて、本命がほしいんだよ。みんな」
兵助にそう言われて、今度は私がきょとんとする番だった。本命。本命ってなんだっけ。
「でも本命を賭けるっておかしくないか?」
雷蔵の意見になんとか頷きながら、私はなおも首をかしげる。みんな私と付き合いたいってこと? まさか。
「私が勝ったらどうなるんだ……?」
「……俺たちが本命チョコあげるよ」
すでにチョコパイを口に放り込んでいる勘右衛門が呟いた。いや、だから、なんで本命?
「それって誰か一人選ばないといけないってこと? ずっとこのメンバーで遊んでたいのに?」
「そこが難しいところだ」
八左ヱ門はそう言って、くしゃみをひとつした。この人、最近また背が伸びた様な気がする。隣に立つとわかる。
「かなめは誰かひとり選べそう?」
三郎が私を見ずに言う。家はもうすぐそこだ。そこに着くまでに、答えなきゃいけない気がした。
「……八?」
「うそだあ」
勘右衛門がおおげさにうなだれた。三郎と雷蔵は顔を見合わせており、八左ヱ門と兵助はまたきょとんとしている。
「絶対俺だと思ったのに」
「どこから出るんだその自信は。いやだって、隣の席だし、一番知ってるし」
「これから知って行けばいいじゃん」
三郎はそう言ってカバンから鍵を取り出した。玄関が開かれ、あたたかな室内にお邪魔する。
「みんなと一緒に付き合えたらいいんだけどなあ」
雷蔵が夢物語を言いながら靴を脱ぐ。みんな靴が大きい。私のローファーだけ小人サイズみたい。
「……なんかよくわからないけど、チョコならあげるから」
ひとまずそう決着をつけて、私たちは三郎の部屋へ向かった。これから白熱したバトルを展開しないといけないのだ。気持ちを切り替えなければならない。
この日の勝負は見事に大荒れで、何個もレコードを更新した。寿司を作り、ハンバーガーを作り、叫び、いななき、ブチ切れ、波乱万丈の戦いだった。私も本気を出した。バイト漬けの胆力を舐めないでもらいたい。
全員が力尽き、息切れして倒れ込んだ。結局誰が一番強いんだ? よくわからない。雷蔵も迷い癖が出なかった。これはすごいことだ。明日は雨かもしれない。
「本命チョコ……」
勘右衛門がそう唸って気絶した。お前はさっきまでチョコパイ食ってたろうが。
今年はとんだバレンタインになりそうだ。私は本命チョコを五人分用意しなければならなくなった。あれ、本命ってなんだっけ。ジョイコンの汗を拭きながら、こんな毎日が続くのが一番楽しいのになあ、とひとりごちる。まあそれはそうなんだけどね、と微笑んだ八左ヱ門はびっしょりと汗をかいていて、いやジョイコンよりお前の方が汗を拭け、とウエットティッシュを差し出した。