夢短編
かなめ
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あー、腹が痛い。吐き気と頭痛と浮腫みもつらい。
私は机に突っ伏して唸っていた。ハイエナの如くヴーッヴーッと唸っていたので、「誰かスマホ鳴ってる?」という声が聞こえた。残念でした私です。窓際の席はほんの少し隙間風が吹いてきて寒い。
「かなめ……? 大丈夫か?」
竹谷の声がする。隣の席だから私の唸り声が煩かったのだろう。くらくらする頭を持ち上げて、「ごめんごめん」と謝った。目を瞑っていたから視界が歪む。前の席に座って竹谷と会話をしていたであろう久々知が「うわ、顔真っ青だよ」と言った。
「貧血?」
「あの……あれです。毎月の呪い」
「ああ、お大事にね……なんかあったかいもの買ってこようか」
「おかまいなく……」
二人とも優しい。困った顔を見合わせて、どうしたものかと悩んでくれている。いいのよ、どうすることもできないのよ、と私は力無く笑った。薬は飲んだし、カフェインは控えてるし、スカートの下にジャージを履いてるし、ブランケットを腰に巻いて部族みたいになってるし、もうこれ以上出来ることがないのだ。
「兵助ー、どうした?」
「ああ勘右衛門、えーと……なんでもない」
久々知は気を遣ってくれたのだろう、通りがかりの尾浜にそれとなく誤魔化してくれた。尾浜はそれでも気づいたみたいで、「あちゃー」とだけ言ってどこかへ行った。何があちゃーじゃい。お前は拳法家かい。
私は再びうずくまり、ヴーッヴーッと唸った。隣の席から唸り声が聞こえてくる竹谷には大変申し訳ないけれど、我慢してもらうしかない。ぎりぎりと内臓を絞られる感覚がする。私がなんの罪を犯したというのか。
「かなめ」
名前を呼ばれたので必死に頭を持ち上げると、尾浜がペットボトルをこちらに差し出していた。ホットレモンと書いてある。階段横の自動販売機で売っているやつだ。
「貸しな。お礼はポッキーでいいから」
「……ぐ……この私が借りをつくるとは……ありがとう」
武士かよという竹谷のツッコミを聞き流しながら、私はホットレモンを受け取った。久々知が私の代わりに尾浜にポッキーをあげている。それでチャラになんないかな。ホットレモンは甘酸っぱく、カラカラの口内をまたたくまに潤した。食道を伝って胃の中が温まっていく。全身の強張りがほぐれていく気がした。
「よかった、顔色すこし戻ったね」
久々知はにこやかにそう言うと、自分の無調整豆乳パックをずずっと飲み込んだ。こんなに優しくて眉目秀麗なのに、なんで無調整豆乳で全てが台無しになってしまうんだお前は。
ホットレモンで力を取り戻した私は、三人に心配をかけたことを謝る。いいんだよ、何も悪いことしてないんだから、と微笑んでくれた竹谷にも、今度ポッキーを分けてやろう。久々知は豆乳でいいでしょう。
「なんか、男も痛みを体験できるらしいよ。電極パッド貼って」
尾浜はワイシャツをぺろりとめくって、美しい腹を出し、へその両脇を指差した。なんていうか、その、えっちだからやめなさい。
「男だとのたうちまわる痛さなんだろう?」
「私ものたうちまわってるけど」
「それもそうか」
久々知と竹谷がスマホで調べだすと、痛みを体験する男芸人がひっくり返っている動画があった。そのサムネイルを見ただけで竹谷はひいっと声を上げる。
「カマキリとかさ、メスがオス食べるんだけど、当たり前だよな、こんだけ辛いんだもんな……」
「カマキリにも生理痛ってあるの?」
「ないと思うけど……」
くだらない会話をしているうちにチャイムが鳴った。久々知は豆乳パックを捨て、尾浜は腹をしまう。尾浜から、ポッキーな!! と目配せをされたので、わかってるよ!! と合図を返した。
ホットレモンを腹に抱える。ほかほかと全身に血が巡っていく。指先と頬に熱が宿っていく。
英語の宿題をやってこなかったのを思い出して竹谷に泣きつくのは、痛みがすっかり引いた後のことだった。やっぱり竹谷にもポッキーをあげなければ。
私は机に突っ伏して唸っていた。ハイエナの如くヴーッヴーッと唸っていたので、「誰かスマホ鳴ってる?」という声が聞こえた。残念でした私です。窓際の席はほんの少し隙間風が吹いてきて寒い。
「かなめ……? 大丈夫か?」
竹谷の声がする。隣の席だから私の唸り声が煩かったのだろう。くらくらする頭を持ち上げて、「ごめんごめん」と謝った。目を瞑っていたから視界が歪む。前の席に座って竹谷と会話をしていたであろう久々知が「うわ、顔真っ青だよ」と言った。
「貧血?」
「あの……あれです。毎月の呪い」
「ああ、お大事にね……なんかあったかいもの買ってこようか」
「おかまいなく……」
二人とも優しい。困った顔を見合わせて、どうしたものかと悩んでくれている。いいのよ、どうすることもできないのよ、と私は力無く笑った。薬は飲んだし、カフェインは控えてるし、スカートの下にジャージを履いてるし、ブランケットを腰に巻いて部族みたいになってるし、もうこれ以上出来ることがないのだ。
「兵助ー、どうした?」
「ああ勘右衛門、えーと……なんでもない」
久々知は気を遣ってくれたのだろう、通りがかりの尾浜にそれとなく誤魔化してくれた。尾浜はそれでも気づいたみたいで、「あちゃー」とだけ言ってどこかへ行った。何があちゃーじゃい。お前は拳法家かい。
私は再びうずくまり、ヴーッヴーッと唸った。隣の席から唸り声が聞こえてくる竹谷には大変申し訳ないけれど、我慢してもらうしかない。ぎりぎりと内臓を絞られる感覚がする。私がなんの罪を犯したというのか。
「かなめ」
名前を呼ばれたので必死に頭を持ち上げると、尾浜がペットボトルをこちらに差し出していた。ホットレモンと書いてある。階段横の自動販売機で売っているやつだ。
「貸しな。お礼はポッキーでいいから」
「……ぐ……この私が借りをつくるとは……ありがとう」
武士かよという竹谷のツッコミを聞き流しながら、私はホットレモンを受け取った。久々知が私の代わりに尾浜にポッキーをあげている。それでチャラになんないかな。ホットレモンは甘酸っぱく、カラカラの口内をまたたくまに潤した。食道を伝って胃の中が温まっていく。全身の強張りがほぐれていく気がした。
「よかった、顔色すこし戻ったね」
久々知はにこやかにそう言うと、自分の無調整豆乳パックをずずっと飲み込んだ。こんなに優しくて眉目秀麗なのに、なんで無調整豆乳で全てが台無しになってしまうんだお前は。
ホットレモンで力を取り戻した私は、三人に心配をかけたことを謝る。いいんだよ、何も悪いことしてないんだから、と微笑んでくれた竹谷にも、今度ポッキーを分けてやろう。久々知は豆乳でいいでしょう。
「なんか、男も痛みを体験できるらしいよ。電極パッド貼って」
尾浜はワイシャツをぺろりとめくって、美しい腹を出し、へその両脇を指差した。なんていうか、その、えっちだからやめなさい。
「男だとのたうちまわる痛さなんだろう?」
「私ものたうちまわってるけど」
「それもそうか」
久々知と竹谷がスマホで調べだすと、痛みを体験する男芸人がひっくり返っている動画があった。そのサムネイルを見ただけで竹谷はひいっと声を上げる。
「カマキリとかさ、メスがオス食べるんだけど、当たり前だよな、こんだけ辛いんだもんな……」
「カマキリにも生理痛ってあるの?」
「ないと思うけど……」
くだらない会話をしているうちにチャイムが鳴った。久々知は豆乳パックを捨て、尾浜は腹をしまう。尾浜から、ポッキーな!! と目配せをされたので、わかってるよ!! と合図を返した。
ホットレモンを腹に抱える。ほかほかと全身に血が巡っていく。指先と頬に熱が宿っていく。
英語の宿題をやってこなかったのを思い出して竹谷に泣きつくのは、痛みがすっかり引いた後のことだった。やっぱり竹谷にもポッキーをあげなければ。