夢短編
かなめ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私としたことが、太ってしまった。三キロも。文化祭に向けて力を付けねばと食べすぎて、文化祭で食べすぎて、文化祭の打ち上げで食べすぎてしまった。スカートはいつもより折る回数を減らしている。足に出やすいのだ、私は。
「かなめ、また豆乳飲んでるの?」
友人の呆れた声に、紙パックをズズッと吸って応えた。私だって好きで飲んでいるのではない。しかも朝練のあと、購買に残っているのはこの味しかなかった。バニラアイス。うちの学校で一番不人気のやつ。
あー、甘ったるい。どうせ甘いならココア味を飲みたかった。ズズズ。顔がどんどん死んでいく。毎日この味を飲んでいる、さすがに飽きてきた。せめて豊胸効果がありますように。
思考を停止させながら豆乳を啜っていると、廊下から男子たちの笑い声が聞こえた。お前の女装なかなかに美人だったぞ、いやいや俺のほうが、という会話からして、文化祭の出し物の話だろう。ぼーっと廊下を眺めていたら、隣のクラスの久々知と目が合った。
「あ! バニラアイス味!」
「……ズズ?」
あんた咥えたままだよ、と友人にせっつかれて、慌ててストローを噛むのを辞めた。久々知はいつのまにか教室に入ってきていて、廊下では尾浜が「あー」と頭を抱えているのが見える。
「それ、飲んでるの俺しかいなくてさ! 豆乳、好きなの? 最近、毎日飲んでるよね」
「何故知っている」
「毎日豆乳を買っている人がいたら、わかるよ」
恐ろしい。曇りなき眼。尾浜が廊下で「ゴメン」のジェスチャーをしている。私は久々知の長いまつ毛を見ながら、「好きで飲んでいるわけじゃ……」と言いかけて、やめた。太った話なんて、男子にしても仕方がない。
「……久々知は好きな味、あるの?」
「まあ、一番は無調整豆乳だよね」
恐怖だ。曇りなき眼。尾浜が深々と頭を下げている。お前は久々知のなんなんだ。
「豆乳は美容にもいいからね」
久々知は満面の笑みでそう言った。そんなに私と豆乳トークがしたいのか。でも確かに、久々知の肌はつやつやで、健康的だ。私は今朝もニキビが出来ていたところで、とてもじゃないが比べたくない。
久々知は目を輝かせるだけ輝かせて、それじゃ、と教室を出て行った。結局何がしたかったんだ。
「すごかったね、豆腐王子」
「豆腐王子?」
友人は「知らないの?」とまた呆れた声を出した。今日は彼女の呆れた声ばかり聞いている。
「久々知、豆腐が好きすぎて、三人ぐらい女子から振られてんだよ。私と豆腐、どっちが大事なのって」
「豆腐が好きすぎて?」
なんじゃそりゃ。ただの豆乳好きかと思ったら、とんだ狂人だ。私は紙パックを折りたたんで、ごみ箱に放った。ナイッシュー。
「あんた、気に入られてんじゃない? 毎日豆乳買ってるの見られてるんだから、意識されてるよ」
「げ」
「いいじゃん、文武両道成績優秀の美人」
確かに久々知は体育祭でも活躍してて恰好よかったし、この前の考査でも首位だったし、見た目も整ってるけども。
「久々知が興味あるのは私じゃなくて、豆乳だろうから……」
付き合うなら、豆乳と、いや豆腐と付き合ってもろて。
淡い夢だった。とりあえず私は三キロ痩せて、胸も大きくなりますように。豆乳を飲まなくなってもよくなって、それでも久々知が私に話しかけてくるのなら、その時はやっと向き合えるだろうな。チャイムの音と共に、机から降りた。次の移動教室で久々知と同じクラスになることを、この時はすっかり忘れていた。
「かなめ、また豆乳飲んでるの?」
友人の呆れた声に、紙パックをズズッと吸って応えた。私だって好きで飲んでいるのではない。しかも朝練のあと、購買に残っているのはこの味しかなかった。バニラアイス。うちの学校で一番不人気のやつ。
あー、甘ったるい。どうせ甘いならココア味を飲みたかった。ズズズ。顔がどんどん死んでいく。毎日この味を飲んでいる、さすがに飽きてきた。せめて豊胸効果がありますように。
思考を停止させながら豆乳を啜っていると、廊下から男子たちの笑い声が聞こえた。お前の女装なかなかに美人だったぞ、いやいや俺のほうが、という会話からして、文化祭の出し物の話だろう。ぼーっと廊下を眺めていたら、隣のクラスの久々知と目が合った。
「あ! バニラアイス味!」
「……ズズ?」
あんた咥えたままだよ、と友人にせっつかれて、慌ててストローを噛むのを辞めた。久々知はいつのまにか教室に入ってきていて、廊下では尾浜が「あー」と頭を抱えているのが見える。
「それ、飲んでるの俺しかいなくてさ! 豆乳、好きなの? 最近、毎日飲んでるよね」
「何故知っている」
「毎日豆乳を買っている人がいたら、わかるよ」
恐ろしい。曇りなき眼。尾浜が廊下で「ゴメン」のジェスチャーをしている。私は久々知の長いまつ毛を見ながら、「好きで飲んでいるわけじゃ……」と言いかけて、やめた。太った話なんて、男子にしても仕方がない。
「……久々知は好きな味、あるの?」
「まあ、一番は無調整豆乳だよね」
恐怖だ。曇りなき眼。尾浜が深々と頭を下げている。お前は久々知のなんなんだ。
「豆乳は美容にもいいからね」
久々知は満面の笑みでそう言った。そんなに私と豆乳トークがしたいのか。でも確かに、久々知の肌はつやつやで、健康的だ。私は今朝もニキビが出来ていたところで、とてもじゃないが比べたくない。
久々知は目を輝かせるだけ輝かせて、それじゃ、と教室を出て行った。結局何がしたかったんだ。
「すごかったね、豆腐王子」
「豆腐王子?」
友人は「知らないの?」とまた呆れた声を出した。今日は彼女の呆れた声ばかり聞いている。
「久々知、豆腐が好きすぎて、三人ぐらい女子から振られてんだよ。私と豆腐、どっちが大事なのって」
「豆腐が好きすぎて?」
なんじゃそりゃ。ただの豆乳好きかと思ったら、とんだ狂人だ。私は紙パックを折りたたんで、ごみ箱に放った。ナイッシュー。
「あんた、気に入られてんじゃない? 毎日豆乳買ってるの見られてるんだから、意識されてるよ」
「げ」
「いいじゃん、文武両道成績優秀の美人」
確かに久々知は体育祭でも活躍してて恰好よかったし、この前の考査でも首位だったし、見た目も整ってるけども。
「久々知が興味あるのは私じゃなくて、豆乳だろうから……」
付き合うなら、豆乳と、いや豆腐と付き合ってもろて。
淡い夢だった。とりあえず私は三キロ痩せて、胸も大きくなりますように。豆乳を飲まなくなってもよくなって、それでも久々知が私に話しかけてくるのなら、その時はやっと向き合えるだろうな。チャイムの音と共に、机から降りた。次の移動教室で久々知と同じクラスになることを、この時はすっかり忘れていた。