留伊
山中、やけに黄色い花が咲いていた。用具委員会で使う木材を調達しに、裏裏山まで訪れていた。空は晴れてはいるが、ぶあつい雲もちらほら流れている。そのうち雨が降るかもしれない。急いだほうがいいだろう、と思っていたところで目に入ったのが、その花だ。
たしか薬になるんじゃなかったか。俺はいくつかを根から抜き、持ち帰ることにした。伊作がきっと喜ぶ。
伊作は今日、合戦場に行っていた。傷薬を配るのだと、乱太郎を連れて。相変わらず命知らずな奴だ。しかしそれを言う権利は俺にはない。俺も大概、命知らずだからだ。
六年生同士で額を突き合わせるごとに、将来の話になる。そこで必ず、一番先に死ぬのは俺だろうと言われている。
俺の武器は近接タイプだ。最前線にでるしかない。体格も大きく、体力もある若い人材など、使い捨ての駒と思われるだろう。戦があれば、そのたびに最前線に放り込まれるはずだ。そして俺は血気盛んだ、自覚がある。戦いを好む。好んでしまう。
「どうか、長生きしてほしいと願ってしまうよ」
この話題が出る度に決まってそう言うのが、伊作だ。俺はそれに首を振る。
「それは、俺だって伊作に思っている。どうか長生きしてくれ。医者にでもなって、家族を持って、人々を助けて暮らせばいい」
多くの人を助けてきたのだ。それを続けていけばいいのだ。いつもの山伏の姿で、微笑みを絶やさずに。
「長生きしようね、僕たち。いつか再会しよう」
この会話を終わらせるのも、決まって伊作だ。他の同級生もそれに頷く。みんな死にたくはないのだ。けれど、死ぬことが決まっている忍務を命じられてしまったら、誰しもが受け入れるのだろう。俺たちは顔も名前も残さずに死ぬ。
あれは三年生のころだったか。伊作が泣いていた。萌黄色の忍者装束は目に鮮やかで、桜の木の下でよく目立った。
「僕は薬を作るのが好きだよ。けれど、いつかは毒を作らないといけない。それで人を殺すんだ」
俺はその手を包み込んだ。伊作の濡れた瞳をまっすぐに見たのをよく覚えている。彼の目は吸い込まれそうに優しかった。
「その毒が、俺のことを助けるとしたら?」
「……え?」
「俺が敵に掴まっている。密室で抜け出せない。目の前には殿様。首を切られるかと思いきや、運ばれてきた祝い酒。口にした殿様はその場で倒れる、それは毒入りだった。俺は間一髪助かるんだ」
「……そうか。そうだね。助ける毒を作れるかもしれないんだ」
笑った伊作の顔に胸が高鳴った。あの時から伊作に惚れている。彼の手の温度を覚えている。
長屋に帰り、自室に戻ると、伊作はすでに戻っており、薬を煎じていた。俺は黄色い花を手渡した。伊作は嬉しそうに言った。
「これで猛毒が作れるよ。次の実践で使うんだ」
おっと、薬の材料じゃなかったか。逞しくなったものだ。伊作は振り返り、俺におかえりを言うと、ねえ、と笑ってみせた。
「こんなに黄色い花なのに、作れる毒は、真っ黒なんだよ」
たしか薬になるんじゃなかったか。俺はいくつかを根から抜き、持ち帰ることにした。伊作がきっと喜ぶ。
伊作は今日、合戦場に行っていた。傷薬を配るのだと、乱太郎を連れて。相変わらず命知らずな奴だ。しかしそれを言う権利は俺にはない。俺も大概、命知らずだからだ。
六年生同士で額を突き合わせるごとに、将来の話になる。そこで必ず、一番先に死ぬのは俺だろうと言われている。
俺の武器は近接タイプだ。最前線にでるしかない。体格も大きく、体力もある若い人材など、使い捨ての駒と思われるだろう。戦があれば、そのたびに最前線に放り込まれるはずだ。そして俺は血気盛んだ、自覚がある。戦いを好む。好んでしまう。
「どうか、長生きしてほしいと願ってしまうよ」
この話題が出る度に決まってそう言うのが、伊作だ。俺はそれに首を振る。
「それは、俺だって伊作に思っている。どうか長生きしてくれ。医者にでもなって、家族を持って、人々を助けて暮らせばいい」
多くの人を助けてきたのだ。それを続けていけばいいのだ。いつもの山伏の姿で、微笑みを絶やさずに。
「長生きしようね、僕たち。いつか再会しよう」
この会話を終わらせるのも、決まって伊作だ。他の同級生もそれに頷く。みんな死にたくはないのだ。けれど、死ぬことが決まっている忍務を命じられてしまったら、誰しもが受け入れるのだろう。俺たちは顔も名前も残さずに死ぬ。
あれは三年生のころだったか。伊作が泣いていた。萌黄色の忍者装束は目に鮮やかで、桜の木の下でよく目立った。
「僕は薬を作るのが好きだよ。けれど、いつかは毒を作らないといけない。それで人を殺すんだ」
俺はその手を包み込んだ。伊作の濡れた瞳をまっすぐに見たのをよく覚えている。彼の目は吸い込まれそうに優しかった。
「その毒が、俺のことを助けるとしたら?」
「……え?」
「俺が敵に掴まっている。密室で抜け出せない。目の前には殿様。首を切られるかと思いきや、運ばれてきた祝い酒。口にした殿様はその場で倒れる、それは毒入りだった。俺は間一髪助かるんだ」
「……そうか。そうだね。助ける毒を作れるかもしれないんだ」
笑った伊作の顔に胸が高鳴った。あの時から伊作に惚れている。彼の手の温度を覚えている。
長屋に帰り、自室に戻ると、伊作はすでに戻っており、薬を煎じていた。俺は黄色い花を手渡した。伊作は嬉しそうに言った。
「これで猛毒が作れるよ。次の実践で使うんだ」
おっと、薬の材料じゃなかったか。逞しくなったものだ。伊作は振り返り、俺におかえりを言うと、ねえ、と笑ってみせた。
「こんなに黄色い花なのに、作れる毒は、真っ黒なんだよ」
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