竹くく

 晴れている空から雨が降ることを、天泣と呼ぶらしい。
 俺と兵助は大学からの帰り道、駅までをとにかく走っていた。雨の予報なんて聞いていなかった。
 兵助は折り畳み傘でも持っていそうなものを、今日たまたま家に忘れてきたという。梅雨なのに不用心なやつだ。
「八左ヱ門はそもそも折り畳み傘持ってないじゃないかッ」
 肘で顔を守りながら兵助が叫ぶ。おっしゃる通りなので何も言い返せない。生ぬるい雫がびしゃびしゃと頬を濡らしていき、服が重たくなっていく。空はいっそすがすがしいほど青かった。
 拭っても拭っても視界は良好にはならず、わずらわしさがおかしくなっていく。俺はついに、走りながら笑いだしてしまった。
「ど、どうした!?」
「なんかおかしくて。はははっ」
 なんでこんなに晴れてるのに、俺たちは傘もなくびしょ濡れで走っているのだろう? おかしくてたまらなくて、声をあげて笑っていた。笑いながら走っていた。そんな俺が滑稽だったのか釣られたのか、次第に兵助も笑いだす。
「は、はは、なんなんだ、もう」
「兵助もびしょびしょだ、はは」
「八左ヱ門こそ、ふ、ははっ」
 二人で爆笑しながら、顔を守るのも水たまりを避けるのも忘れて、ただただ走りつづけた。どうするんだ、こんなに濡れて、このあとの電車とか。兵助んちに寄るつもりだったのに!
「絶対このあと虹がかかるよな」
「一緒に見ようね」
 言ってるそばから虹の気配。虹のふもとには宝物が埋まっていると聞いたことがあるけれど、このまま兵助と探しに行ってみようか。
「なんか、生きてるって感じ」
 駅に辿り着き、二人で虹を見上げる。へにゃりと笑いながら、兵助が服を絞った。兵助の横顔に雫がきらめいて、彼の頬にも虹ができる。それをそっと拭うとくすぐったそうにこちらを見て、兵助も俺の頬に「あ、虹」と呟いた。
「俺たち、虹のなかを通り抜けてきちゃったのかも?」
「……最高じゃん」
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