綾滝
喜八郎にひとつ、不満がある。
いや、正確に言えばひとつではない。生活の中での彼の問題点をあげればキリがない。しかしそれには今、目を瞑ろう。ルームシェアという便宜上、共同生活ならではの不満なんてお互いあるに決まっているのだ。許しはしないが妥協はできる。
ここでいう「ひとつの不満」とは、私の心身に明確にストレスを及ぼしているできことを指す。生活に支障をきたしており、そろそろ我慢の限界である。
なので、私は喜八郎を呼び出した。2DKのダイニングの、少しだけ大きなテーブルに。このテーブルは二人で選んだものだ。大きさを測り、家具屋に行って選んだこだわりのテーブルで、お互いの特等席がある。一緒に食事を摂る時と同じように向かい合って、私は単刀直入の言葉を選んだ。
「鼻唄泥棒を、やめてほしい」
「……鼻唄泥棒?」
喜八郎は大きな目をぱちくりと瞬かせ、私の言葉を復唱した。私は頷き、喜八郎に訴えかける。
「私が鼻唄を奏でていると、お前は横からとっていくんだ。私の鼻唄を横取りするな」
「おやまあ……ずいぶんとかわいい訴えだこと」
わかった、と言うものだから、私は信じて彼を釈放した。そしてせっかく二人してダイニングにいるのだからと、ついでにコーヒーを淹れてやる。思わず漏れ出る鼻唄に、やっぱり喜八郎がのってきた。今しがたやめろと言ったばかりなのに!
「ハモるのならいいかなって」
「いいわけあるかアホハチロー!」
いや、正確に言えばひとつではない。生活の中での彼の問題点をあげればキリがない。しかしそれには今、目を瞑ろう。ルームシェアという便宜上、共同生活ならではの不満なんてお互いあるに決まっているのだ。許しはしないが妥協はできる。
ここでいう「ひとつの不満」とは、私の心身に明確にストレスを及ぼしているできことを指す。生活に支障をきたしており、そろそろ我慢の限界である。
なので、私は喜八郎を呼び出した。2DKのダイニングの、少しだけ大きなテーブルに。このテーブルは二人で選んだものだ。大きさを測り、家具屋に行って選んだこだわりのテーブルで、お互いの特等席がある。一緒に食事を摂る時と同じように向かい合って、私は単刀直入の言葉を選んだ。
「鼻唄泥棒を、やめてほしい」
「……鼻唄泥棒?」
喜八郎は大きな目をぱちくりと瞬かせ、私の言葉を復唱した。私は頷き、喜八郎に訴えかける。
「私が鼻唄を奏でていると、お前は横からとっていくんだ。私の鼻唄を横取りするな」
「おやまあ……ずいぶんとかわいい訴えだこと」
わかった、と言うものだから、私は信じて彼を釈放した。そしてせっかく二人してダイニングにいるのだからと、ついでにコーヒーを淹れてやる。思わず漏れ出る鼻唄に、やっぱり喜八郎がのってきた。今しがたやめろと言ったばかりなのに!
「ハモるのならいいかなって」
「いいわけあるかアホハチロー!」