綾滝

 ヴィーナスベルトって言うんだって。喜八郎はそう言って、太陽と反対側を向いた。夕暮れの滲んだ青色の中に、ピンク色の帯が広がっている。
「私は鮮やかな夕焼けが好きだが」
「滝はそう言うと思ったよ」
 喜八郎は、それでも視線を空から動かさなかった。淡い薄紫色のなかに、喜八郎の輪郭が溶けていきそうだった。十二月の風が頬をなぞっていく。
「月から見た地球も、反対側は真っ暗なんだっけ。繁栄してるのにね」
 言わんとすることはわからないでもないが、私はそれに反論したくなった。太陽の光を一身に浴び、けれど反射でしか輝けない月と、青く浮かぶ星、地球。繁栄していたとして、お互いに影が出来るのは仕方がない位置関係なのだ。
「ねえ、滝って、太陽に見えて、月じゃない?」
「……そして、月に見せかけて、お前が太陽か? ばかばかしい」
 どうして私はこいつに振り回されているのだろう。そして、どうしてこいつも、私に付き合うのだろう。お互いに嫌気がさすことも多々あるのに、それでも離れられないのは、何故だろう。
「ねえ、今日、満月なんだって。帰らないよね?」
「泊まる用意していないぞ」
「一式あるでしょ、僕の家に」
 何をいまさら、と言いたげな喜八郎は、やっぱり空から視線を動かさなかった。
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