綾滝
滝の家は小綺麗に整えられてある。本人の性格からして考えると、いささか殺風景にすら感じられる。だからこそ居心地がいいのかな、とのんきに考えていたが、つい先日、「お、おまえが過ごしやすいようにと思って」と滝の口から言われてみれば、心臓が高鳴らない方が不思議な話だ。
デジタル時計は秒針の音がしないから、時間の過ぎ方が早すぎるように思うこと多々。今日は滝の家で適当にドラマを流しながら、知り合いのインディーズバンドの客入りが悪いだとか、美容院の担当が新宿店に移動になったとか、当たり障りない話をしていた。ジンジャーエールか紅茶か、と軽く小競り合いをしながら飲んだカップはすっかり空で、まったりとした空気が流れるなか、明日は午前中からバイトがあったことを思い出す。僕は散らかしていた荷物をリュックに放り込む。充電器、単行本、アトマイザー。
「じゃ、そろそろ電車無くなるし帰るね」
「え」
僕がそう言うと、滝は心底驚いたような顔をした。なにをそんな驚くことがあるか。
「あ……、……」
何かを言おうとしてやめ、俯く。言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。頬がどことなく染まっているようにも見える。
「なに? もう帰らないと。遅いし、帰るよ」
僕が訝し気に聞いても、滝は相変わらずもじもじとしていて、視線も定まらない。
「う……すまない……その、だな……。言っても引かないか……?」
いつもの自信満々な口調はどうしたんだ。言ってもいいから早くしてほしい。
「引かないし、言わないとわかんないよー」
滝は指をちまちまと合わせながら、蚊の鳴くような声で呟いた。
「泊まっていくのかと思って……色々と準備してあったんだ……」
滝の言葉が僕の耳に届いてから、脳に到達するまでのあいだ。僕は宇宙に放り投げだされた。目の前の、顔を真っ赤にしている恋人は、そうか、僕のことを求めているのか。
宇宙から帰って来た僕は、おやまあ、とだけ呟いて、リュックを足元に落とした。その日はもちろん、泊まりましたとも。
デジタル時計は秒針の音がしないから、時間の過ぎ方が早すぎるように思うこと多々。今日は滝の家で適当にドラマを流しながら、知り合いのインディーズバンドの客入りが悪いだとか、美容院の担当が新宿店に移動になったとか、当たり障りない話をしていた。ジンジャーエールか紅茶か、と軽く小競り合いをしながら飲んだカップはすっかり空で、まったりとした空気が流れるなか、明日は午前中からバイトがあったことを思い出す。僕は散らかしていた荷物をリュックに放り込む。充電器、単行本、アトマイザー。
「じゃ、そろそろ電車無くなるし帰るね」
「え」
僕がそう言うと、滝は心底驚いたような顔をした。なにをそんな驚くことがあるか。
「あ……、……」
何かを言おうとしてやめ、俯く。言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。頬がどことなく染まっているようにも見える。
「なに? もう帰らないと。遅いし、帰るよ」
僕が訝し気に聞いても、滝は相変わらずもじもじとしていて、視線も定まらない。
「う……すまない……その、だな……。言っても引かないか……?」
いつもの自信満々な口調はどうしたんだ。言ってもいいから早くしてほしい。
「引かないし、言わないとわかんないよー」
滝は指をちまちまと合わせながら、蚊の鳴くような声で呟いた。
「泊まっていくのかと思って……色々と準備してあったんだ……」
滝の言葉が僕の耳に届いてから、脳に到達するまでのあいだ。僕は宇宙に放り投げだされた。目の前の、顔を真っ赤にしている恋人は、そうか、僕のことを求めているのか。
宇宙から帰って来た僕は、おやまあ、とだけ呟いて、リュックを足元に落とした。その日はもちろん、泊まりましたとも。