雑高

「色管理……」
「うちではしてないよ。けれどあの子は前の店でずいぶん仕込まれてたようだね」
 高坂は五種類のドリンクをサブバッグに詰めながら、一番奥のデスクに座る店長――雑渡の言葉に耳を傾ける。
 ドリンクは嬢たちの好みに合わせて選んだものだった。デリヘル嬢にとって、車内というのは一番心が安らぐ場所である。その時間でせめて疲れを癒し、快く接客に当たってもらいたいという、高坂なりの心遣いであった。嬢からすれば、顔の整ったデリドラから好みのドリンクを渡されるというのは、なんとも胸高鳴る瞬間であり、高坂が働き出してからと言うもの、当日キャンセルがぐっと減ったのは、店に嬉しい影響であった。
「これからあの子、高坂に貢ぎ出すと思う。自分から依存先を探していくタイプだと思うから」
「……私はどうすれば」
「うまくかわしてもらえば。わかりやすく言うと、私の監視が届く範囲であれば、気が合うそぶりをみせても大丈夫。セックスしだしたらアウト」
 オプション用品のストッキングもサブバッグに追加する。高坂は女性に興味がなかった。なぜ客がこぞってストッキングを破りたがるのか理解できなかったが、電話対応では男性客にまるで同志かのように柔らかな声を出した。ストッキング破りですね、かしこまりました。
「まあ一番は、私と陣左がセックスしているのがバレなきゃいいんだけど」
「店長!」
 セックスという単語が、まるでトーストにバターを塗ることかのように当たり前に飛び交う店であっても、店長とデリドラの男性同士がデキているだなんてことは知られてはならなかった。嬢のなかには雑渡に全信頼を置いている者もいる。色を売るという自分をすり減らす日常の中で、自分が自分であるために、誰かに存在意義を求めるのはよくあることだった。
 雑渡はホームページの「今日の出勤状況」を更新しながら、左手の薬指を見る。カムフラージュで付けている指輪はだいぶ古くなり、傷だらけだ。しかし買い換えるのも、結婚指輪らしくない。本音を言えば、雑渡は高坂とお揃いの指輪を付けたいと思っていた。案外ロマンティストなのである。
「……まあ、陣左が女の子たちから人気なのは、見ていて悪い気はしないよ。この男前、私のなの、って鼻が高くなる」
「私としては不本意なのですが」
「お店の資金、早く貯まるといいね」
 高坂の本業はバーテンダーである。自分の店を持つことを決め、現在は資金繰りに奔走しているところだ。バーの客として出会った雑渡からのスカウトでデリドラを始めたが、元来運転は好きな方で、女の厚ぼったいファンデーションやフローラルな香水の匂いさえ我慢できれば、かなり天職に近かった。
「お金貯まったら、この店辞めちゃうのか。女の子たちも一斉に辞めそうだなあ」
「……そこは店長の手腕といいますか」
「そうしたら私も陣左の店で働こうかなあ。その時は雇ってね」
「恐れ多い!」
 どこまで本気なのかわからない誘いに手を振り、高坂は左腕の腕時計を確認した。時間にルーズな嬢は多いが、仕事として待機の時間は守りたい。
「それでは行ってまいります」
「いってらっしゃい。よろしくね」
 雑渡は高坂を見送り、嬢の写メ日記の確認に移った。彼氏の存在を匂わせる日記を書いている嬢に連絡をし、編集を依頼したところで、また一つ予約の電話が鳴った。
「お電話ありがとうございます、こちらは――」
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