雑高
陣左は怒ると、首元が赤く染まる。
本人はきっと気付いていないし、その凛々しい眉がぐっとあがるのが美しいから、そちらに目が行くため、他の者も気にしていないだろう。
つまり、知っているのは私だけ。
唇を吸う時に頬も赤くなるけれど、首元の赤らみは少し違う。痣のような歪な形をしている。
私はそれが、手の痕なんじゃないかと思っている。
誰の手の痕かなんて、訊ねなくてもわかる。だってその痣は、我が狼隊に入隊希望を言い渡した歳には、すでに出現していたから。
――父親だ。月輪隊小頭、高坂殿。
陣左の父親は私もよく知っている。厳格で、武術の腕も確かで、見るからに威厳のある父親そのものだ。
しかし彼は、いさささか感情を力に込めすぎていた。
嫡男に自分の教えの全てを叩きこもうと、それはそれは厳しく鍛え上げ、時には折檻も辞さなかったという。
里から山へ行く麓で、何度か幼い子が泣いているのを見かけ――それが陣左であると、彼の存在を認識してなお――心が痛くなったものだ。当時の彼は、陣左の名を持たなかったけれど。
そんなわけで、私は事態を把握しながらも、陣左に首元を指摘したことはなかった。思い出したくない過去くらい、誰にだってある。
しかしたった今、閨で身体を重ねている最中、私はついうっかり、陣左の首元をなぞってしまった。怒っている時とは別に、身体が火照ると、うっすらと赤みを帯びるそこ。陣左はこほりと息を吐いたのち、私の頬を撫でた。
「父は、滅多に激昂しませんでした。けれどその日は、新月でした」
「……うん」
「暗いと、顔に影が落ちます。ですから私は、父の顔を見ていません。私の首に手をかけたその時の顔を」
それ以上喋らすまいと、唇を奪ったけれど、柔らかな舌はふわふわと頼りなさげで、私の手をすり抜けていく。
「雑渡様はご存じないかもしれません」
唾液が絡まり合うのも気にせずに、陣左は呟いた。
「父は、私のせいで左肩を負傷しているのです」
私は陣左に覆いかぶさった。今夜も新月だ。陣左の目に私の顔は映らない。
本人はきっと気付いていないし、その凛々しい眉がぐっとあがるのが美しいから、そちらに目が行くため、他の者も気にしていないだろう。
つまり、知っているのは私だけ。
唇を吸う時に頬も赤くなるけれど、首元の赤らみは少し違う。痣のような歪な形をしている。
私はそれが、手の痕なんじゃないかと思っている。
誰の手の痕かなんて、訊ねなくてもわかる。だってその痣は、我が狼隊に入隊希望を言い渡した歳には、すでに出現していたから。
――父親だ。月輪隊小頭、高坂殿。
陣左の父親は私もよく知っている。厳格で、武術の腕も確かで、見るからに威厳のある父親そのものだ。
しかし彼は、いさささか感情を力に込めすぎていた。
嫡男に自分の教えの全てを叩きこもうと、それはそれは厳しく鍛え上げ、時には折檻も辞さなかったという。
里から山へ行く麓で、何度か幼い子が泣いているのを見かけ――それが陣左であると、彼の存在を認識してなお――心が痛くなったものだ。当時の彼は、陣左の名を持たなかったけれど。
そんなわけで、私は事態を把握しながらも、陣左に首元を指摘したことはなかった。思い出したくない過去くらい、誰にだってある。
しかしたった今、閨で身体を重ねている最中、私はついうっかり、陣左の首元をなぞってしまった。怒っている時とは別に、身体が火照ると、うっすらと赤みを帯びるそこ。陣左はこほりと息を吐いたのち、私の頬を撫でた。
「父は、滅多に激昂しませんでした。けれどその日は、新月でした」
「……うん」
「暗いと、顔に影が落ちます。ですから私は、父の顔を見ていません。私の首に手をかけたその時の顔を」
それ以上喋らすまいと、唇を奪ったけれど、柔らかな舌はふわふわと頼りなさげで、私の手をすり抜けていく。
「雑渡様はご存じないかもしれません」
唾液が絡まり合うのも気にせずに、陣左は呟いた。
「父は、私のせいで左肩を負傷しているのです」
私は陣左に覆いかぶさった。今夜も新月だ。陣左の目に私の顔は映らない。