雑高

 奥へ奥へ叩きつけているうちに、陣左は善がり声をあげながら私の手を首元に招くものだから、私は驚いて動きを止めてしまった。
「……どう、されたのですか」
 急に動きを止める私に、息も絶え絶えな陣左は不思議そうに声をかけた。ある種のプレイだと思われただろうか。でも、ある種のプレイをしようとしたのは陣左の方だ。
「陣左、そういうの好きだっけ?」
「そういうの、とは?」
「首を絞めるとか……」
 私は陣左を傷つけたいのではない。愛したいのだ。愛す過程の上で、それが快楽に結び付くのなら、受け入れることもあろうが、合意がなければそれは暴力だ。だから、念のための確認に過ぎなかった。
 暗がりのなかで、陣左はきょとんとした声で答えた。
「そういうものでは、ないのですか?」
 陣左のしっとりと濡れた肌が冷えていく。
「……私の父は、いつもそうしてきました」
 それが真実であると疑っていないまなざしだった。
 これが、陣左とのはじめてのまぐ合いである。

 私が萎れてしまったから、中断せざるを得なくなり、陣左はしきりに「私が悪いのでございます」と謝りどおしだった。
「ちがうよ、ちょっと動揺してしまっただけ」
 すっかり白けてしまった頭を必死に回転させながら、私は彼を抱きしめ、背中を滴る汗をなぞった。
「私の何が悪かったのでしょうか。雑渡様を気持ちよくさせられないなんて」
 心底申し訳なさそうにする彼に、どこまで問うていいものか見定めつつ、言葉を選ぶ。どうしたって傷つけることは免れない。
「一般的ではないことが、ふたつあった」
「いっぱんてきではない……」
 陣左は震える声で私の言葉を復唱した。一般的、だなんて、ひどく曖昧であやふやなもの。そんな表現に頼るしかないのが心苦しかった。
「まず、普通のまぐ合いでは、首は絞めない」
「え……」
 酸欠は少し域を過ぎると、快楽に結びついてしまうから、求める者だってあるだろう。相手を痛めつけることで支配欲を満たしたい者もあるだろう。それを非難はしないが、はじめて身を重ねる時に致すことではないはずだ。
「しかし、父は」
「そしてね、陣左。あのね」
 陣左のとくとく言う心音を聞きながら、私は小さな声で告げる。
「世の父親は、息子に手を出さない」
 陣左の喉が「ヒュ」と音を立てた。私の背に回された手がどんどん冷えていく。
「……辛かったね」
 がたがたと震えだす陣左を、つよくつよく抱きしめる。暗闇に溢れた部屋が、たちまち息苦しくなった。死んでしまいそうな嗚咽が零れだした。
 虐待を受けている子供は、虐待を受けている自覚がない。それが当たり前だと認識しているからだ。
 こどもの世の中の「あたりまえ」の全ては、家で作られる。
「陣左は、もう、私の稚児だよ。誰にも手出しさせない」
「ざ、ざっと、さま……」
 おゆるしください、おゆるしください、と泣き出した彼の背中を撫でながら、「いったい何を許すというの、おまえは何も悪くないのに」と声をかけた。陣左はしきりに首を振る。
「はじめてでは、なかったこと。身体を重ねるということの、はじめてが、雑渡さまではなかったということ」
 私の罪でございます、罰でございます、そう言って吐き気を押し殺す。どうせなら全て、吐いてしまえばいいのに。
「陣左はもう、私のものだから。大丈夫だよ」
 私の胸元がしとどに濡れていく。このまま川が出来ればいいと思った。彼の澱を流してしまえればよかった。
 どうにか愛を伝えようと、一晩中ことばを囁いた。どうせ睦みあう予定だったのだ。日の出の頃にやっと寝付いた陣左の顔は幼くて、私はほっと一息つきながら、愛とはなにかについて思いを馳せた。
 愛さねばならなかった。家を飛び出した彼を迎え入れたことの重さを知った。
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