雑高
高坂が雑渡のもとから離れたというのは、休暇があけてから諸泉の耳に入った。
諸泉は大層驚いた。高坂のことだから、雑渡とすれ違いでも起こせば如実に態度に表すだろうに、朝方会った時は哀愁すら漂わせていなかった。そんなだから、てっきり二人きりで休暇を楽しんだものだとばかり思っていた。
諸泉は高坂を呼び出した。二人は中高一貫校での先輩後輩だった。高坂は現在大学生である。忙しい身であろうに、諸泉の不躾な呼び出しに応じた時点で、彼は聞かれる話題についてわかっていたのだろう。放課後、大学の中庭に諸泉はやってきた。
「鈍いお前でも気付いたか」
「……どうして」
高坂は雑渡に心酔していた。誰の目に見てもそれは明らかで、二人は生涯を寄り添い合って生きていくのだと、関わる者は信じて疑っていなかった。
「二人で旅行に行ったんじゃなかったんですか」
「行ったとも。最後の旅行だった」
「……なんでそんなにさっぱりしてるんですか」
諸泉は納得していなかった。雑渡に世話になった者として、高坂の弟分として、二人のしあわせを願うのが自分の役目だと思っていた。それを裏切られた気分になったのだ。それでもそれを見越したうえで、高坂は涼しい顔をしていた。とても傷心している風には見えない。
「未練は、ない……といえば嘘になるが……」
高坂は遠くを眺めた。その横顔は少し切なそうに歪められたいたが、諸泉は口を挟まずに聞いていた。
風が二人の髪を撫ぜる。初夏の風は生ぬるく、二人の肌はじんわりと汗を纏っていた。
「いいんだ。あのお方がお幸せであられるなら」
諸泉は何も言えなかった。高坂があんまりにも美しく微笑んだからだ。ごくりと唾を飲み込むと、鉛の様に重いものが身体を蝕んだ。
ふたりで決めたことなのだ。自分の入れる余地などなかった。
高坂が「お前、もう帰る時間だろ」と言うものだから、「子ども扱いしないでください」と返すのが精いっぱいだった。
諸泉は大層驚いた。高坂のことだから、雑渡とすれ違いでも起こせば如実に態度に表すだろうに、朝方会った時は哀愁すら漂わせていなかった。そんなだから、てっきり二人きりで休暇を楽しんだものだとばかり思っていた。
諸泉は高坂を呼び出した。二人は中高一貫校での先輩後輩だった。高坂は現在大学生である。忙しい身であろうに、諸泉の不躾な呼び出しに応じた時点で、彼は聞かれる話題についてわかっていたのだろう。放課後、大学の中庭に諸泉はやってきた。
「鈍いお前でも気付いたか」
「……どうして」
高坂は雑渡に心酔していた。誰の目に見てもそれは明らかで、二人は生涯を寄り添い合って生きていくのだと、関わる者は信じて疑っていなかった。
「二人で旅行に行ったんじゃなかったんですか」
「行ったとも。最後の旅行だった」
「……なんでそんなにさっぱりしてるんですか」
諸泉は納得していなかった。雑渡に世話になった者として、高坂の弟分として、二人のしあわせを願うのが自分の役目だと思っていた。それを裏切られた気分になったのだ。それでもそれを見越したうえで、高坂は涼しい顔をしていた。とても傷心している風には見えない。
「未練は、ない……といえば嘘になるが……」
高坂は遠くを眺めた。その横顔は少し切なそうに歪められたいたが、諸泉は口を挟まずに聞いていた。
風が二人の髪を撫ぜる。初夏の風は生ぬるく、二人の肌はじんわりと汗を纏っていた。
「いいんだ。あのお方がお幸せであられるなら」
諸泉は何も言えなかった。高坂があんまりにも美しく微笑んだからだ。ごくりと唾を飲み込むと、鉛の様に重いものが身体を蝕んだ。
ふたりで決めたことなのだ。自分の入れる余地などなかった。
高坂が「お前、もう帰る時間だろ」と言うものだから、「子ども扱いしないでください」と返すのが精いっぱいだった。