その他
夜中。新月だった。明かりはなにもない。
僕のことを殺めようとしてきた女を、がんじがらめにして担いだ。猿轡に叫び声は搔き消されている。縄ぬけが出来ないよう手首も切ったから、痛さに吠えているだけかもしれない。
裏々山に、深く深く穴を掘る。木の幹に縛り付けた女は、がたがた震えながらそれを見ていた。ははは、いい気味。自分のこの後の運命をわかっているようだった。
「ねえ、どのくらいの深さがいいですかぁ? 深ければ深いほど、誰にも見つけて貰えないです」
「んんーっ、んん」
「あはは、全然何言っているかわからないや」
忍者は、死ぬときに名前を残さない。この女がどこで野垂れ死にしようが、誰にも関係ない。彼女はただひとつ罪を犯しただけだ。僕を殺めようとした罪。
女はじたばたと暴れた。逃げようとしても無駄だ。僕は苦無で足の腱も切った。女の顔はもうぐちゃぐちゃだった。あたりに血の匂いが立ち込める。
「この穴は、良い穴ですよ。土もいい質感。やわらかくて掘りやすいし、踏んだ時に固まりやすくて。貴女を埋めるのに、本当に丁度いい」
「んんん!」
「僕の自信作です。自信作の穴に貴女を食わせることが出来るなんて、僥倖だ」
「んん……」
女は目が溶けてしまうんじゃないかというくらい泣いていた。いい加減腹を括ればいいのに。忍びになった時、残忍な殺され方をすることくらい、覚悟していたでしょう。
「最期に名前くらい聞いておこうかな」
女の猿轡を解くと、まず最初に血反吐を吐かれた。こいつ、舌を噛み切って死のうとしたのか。へえ、思ったより肝座ってるね。
「ねえ、貴女のお名前は?」
「……ペッ」
血の混じった唾を顔に吐かれた。僕はそれに腹を立てたりしない。木の幹から女を外し、ぐるぐる巻きのまま、穴の底深くに放り投げる。どしゃ、と音が響いた。
新月だから、彼女の最期の表情は見られなかった。惜しいなあ、結構な別嬪さんだったように見えたけれど。僕は穴にむかって、「それではさようなら」と呼びかけた。
土をかぶせていく。無情に、淡々と。命がひとつ埋まっていく。僕はどうしようもなく興奮した。
心を込めて、穴を埋めた。花でも植えてやりたいくらいだった。でも、やらないよ。誰も貴女がこの下にいるだなんてことを知らない。
そろそろ春がやってくる。この土の上にも何か芽吹くだろうか。たっぷり栄養を吸収して、立派に咲くが良い。
その花すら、僕が踏みつぶしてあげましょう。満腹になった穴は満足そうで、僕はにんまりと微笑んだ。さあ、みんなのところに合流しなくては。何か土の下から聞こえた気がしたけれど、きっと気のせいでしょう。それではさようなら。
僕のことを殺めようとしてきた女を、がんじがらめにして担いだ。猿轡に叫び声は搔き消されている。縄ぬけが出来ないよう手首も切ったから、痛さに吠えているだけかもしれない。
裏々山に、深く深く穴を掘る。木の幹に縛り付けた女は、がたがた震えながらそれを見ていた。ははは、いい気味。自分のこの後の運命をわかっているようだった。
「ねえ、どのくらいの深さがいいですかぁ? 深ければ深いほど、誰にも見つけて貰えないです」
「んんーっ、んん」
「あはは、全然何言っているかわからないや」
忍者は、死ぬときに名前を残さない。この女がどこで野垂れ死にしようが、誰にも関係ない。彼女はただひとつ罪を犯しただけだ。僕を殺めようとした罪。
女はじたばたと暴れた。逃げようとしても無駄だ。僕は苦無で足の腱も切った。女の顔はもうぐちゃぐちゃだった。あたりに血の匂いが立ち込める。
「この穴は、良い穴ですよ。土もいい質感。やわらかくて掘りやすいし、踏んだ時に固まりやすくて。貴女を埋めるのに、本当に丁度いい」
「んんん!」
「僕の自信作です。自信作の穴に貴女を食わせることが出来るなんて、僥倖だ」
「んん……」
女は目が溶けてしまうんじゃないかというくらい泣いていた。いい加減腹を括ればいいのに。忍びになった時、残忍な殺され方をすることくらい、覚悟していたでしょう。
「最期に名前くらい聞いておこうかな」
女の猿轡を解くと、まず最初に血反吐を吐かれた。こいつ、舌を噛み切って死のうとしたのか。へえ、思ったより肝座ってるね。
「ねえ、貴女のお名前は?」
「……ペッ」
血の混じった唾を顔に吐かれた。僕はそれに腹を立てたりしない。木の幹から女を外し、ぐるぐる巻きのまま、穴の底深くに放り投げる。どしゃ、と音が響いた。
新月だから、彼女の最期の表情は見られなかった。惜しいなあ、結構な別嬪さんだったように見えたけれど。僕は穴にむかって、「それではさようなら」と呼びかけた。
土をかぶせていく。無情に、淡々と。命がひとつ埋まっていく。僕はどうしようもなく興奮した。
心を込めて、穴を埋めた。花でも植えてやりたいくらいだった。でも、やらないよ。誰も貴女がこの下にいるだなんてことを知らない。
そろそろ春がやってくる。この土の上にも何か芽吹くだろうか。たっぷり栄養を吸収して、立派に咲くが良い。
その花すら、僕が踏みつぶしてあげましょう。満腹になった穴は満足そうで、僕はにんまりと微笑んだ。さあ、みんなのところに合流しなくては。何か土の下から聞こえた気がしたけれど、きっと気のせいでしょう。それではさようなら。